『1日30分睡眠』を公言する堀大輔氏の「睡眠改善プログラム」が物議…“科学的根拠”不明な高額ビジネスも「直ちに違法」といえないワケ【弁護士解説】
「1日30分睡眠」を17年間続けてきたと公言するショートスリーパーの実業家・堀大輔氏が、ネット上で注目を集めている。9日から16日までの約1週間におよぶライブ配信は、その超短時間睡眠の真偽を実際に確認できるということで、多くの視聴者を集めた。しかし、トラブルが続出し、堀氏のノウハウの信用性について疑惑を表明する視聴者もいた。
堀氏は「一般社団法人 日本ショートスリーパー育成協会」の代表理事を務めるとともに、GAHAKU株式会社の公式サイトでは、同社代表取締役として記載されている。『睡眠改善プログラム』は、同社を契約当事者として販売され、堀氏が指導にあたっている。このプログラムについては医学的・科学的根拠が疑わしいとの批判もある。
こうした、医学的・科学的根拠が確実とされていないノウハウを用いたビジネスには、法的観点からどのような問題点があるのか。
配信後の"ショートスリーパー削除"に波紋も堀氏は9日から16日にかけて、自身のYouTubeチャンネルで「ショートスリーパー堀大輔の日常」と題した169時間(7日と1時間)に及ぶライブ配信を実施。同時視聴者数は数万人に達し、時には10万人を超えた。
ところが配信中からさまざまな"異変"が指摘される。2日目には、ヘッドスパマッサージの施術中にいびきをかく場面が映り込んだ。6日目には入浴シーンで局部が映り込むハプニングも発生し、配信は一時中断となった。
配信終了後、堀氏は《私は今回の一週間の配信で、何かを証明したつもりはありません。また、これまでの私の発言や行動が、すべて正しかったというつもりもありません》とXに投稿。これは従来の「30分睡眠」に関する主張から、一定の距離を置いたとも受け取られる内容とあって、ネット上では失望の声も散見された。
さらに、Xのアカウント名にあった「ショートスリーパー」という表記が配信終了後に削除され、「睡眠時間は自由」という文言に変更されていたことも発覚。これに対し、《今まで何やったんや》《これまで30分睡眠で売ってたのになんだこれ》といった声が相次いだ。
医学の専門家からは慎重・否定的な意見同氏の「1日30分睡眠」については、複数の医師がネット上のコメントで医学的見地から批判を加えている。
ある専門医は「短時間睡眠が健康に悪影響を及ぼすことは医学的に結論が出ており、後天的にショートスリーパーになる科学的根拠はない」とコメント。精神科医も「睡眠は短ければ良いわけではなく、6時間以上の確保が推奨される。個人の手法を他人が再現できるとは限らない」と指摘した。
別の医師は「先天的なショートスリーパーはごく稀に存在するが、トレーニングによる後天的短眠化は不可能」と述べた。
「確実なエビデンスのないノウハウの有料販売」に法的リスクはあるか一般論として、医学的・科学的な裏付けが不確実なノウハウで顧客を募り、有料サービスを提供することに問題はないのか。
消費者トラブルに詳しい荒木謙人弁護士は、まず前提を示した。
「科学的な裏付けが十分でないノウハウを有料で教えること自体が、直ちに違法となるわけではありません。法的に問題となるのは、主として『広告・表示』と『勧誘』の場面、そして表示と実際の契約内容とのズレです。
サービスの効果や内容を実際のものよりも著しく優良であると示す表示は、『優良誤認表示』として景品表示法5条1号で禁止されています」
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質・効果について、実際よりも大幅に優れているかのように見せる広告表示のことだ。
さらに荒木弁護士は「不実証広告規制」についても触れた。
「消費者庁は、効果をうたう表示が優良誤認に該当するか判断するため必要と認めるとき、合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。消費者庁から求められた資料が期間内に提出されない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合には、措置命令との関係では、その表示は優良誤認表示とみなされます」
加えて、インターネットで講座の申込みを受ける点について「通信販売」に関する規制が適用されると指摘した。
「通信販売において、著しく事実に相違する表示や著しく優良・有利と誤認させる広告は、特定商取引法でも禁止されており、行政処分の対象となり得ます」
なお、堀氏の提供プログラムは、効果を実感できない場合に、全額返金を保証するとしている。
このように、契約者が期待する効果を得られなかった場合に、料金全額の返金を保証しているケースは多くみられる。しかし、荒木弁護士は、一般論として、返金保証の表示も、返金条件の内容や表示方法によっては、法的問題となり得ると説明する。
「返金の条件が厳しく、それが契約前に明瞭に示されていない場合には、『全額返金保証』という表示自体が有利誤認表示(景品表示法5条2号)に当たり得ます」
受講して効果がなかったら責任を追及できるのか「返金保証」の点はさておき、もし講座を受講して効果がなかった場合、契約者は事業者に損害賠償などの法的責任を追及できるのか。
荒木弁護士は、「具体的な効果が契約内容として保証されていない限り、効果が出なかったという結果だけを理由に責任を問うことは通常は難しい」との見解を示した。
ただし例外もある。
「消費者契約法上の「勧誘」に当たり得る広告において、実績・数値・効果などの重要事項について、事実と異なる内容が示され、消費者がそれを事実と誤認して契約した場合には、『不実告知』を理由に契約を取り消し(消費者契約法4条1項1号)、既払金の返還を求めることが考えられます 」
「自己責任」論が通用するのは正確な情報が前提にある場合のみ一部では「受講した側にも責任がある」という声も聞かれる。荒木弁護士はこの点について、「たしかに、科学的な裏付けが十分でないことを理解したうえで試してみること自体は個人の自由であり、その限りでは結果は自己責任という側面はあります」としつつも、慎重な見方を示した。
「自己責任論が妥当するのは、あくまでも正確な情報を前提に自分で選んだ場合に限られます。
誇大な表示や、事実と異なる実績が示されたことによって、正確な情報に基づいた判断ができなかった場合には、景品表示法や消費者契約法といった法律によって保護されることになります。
また、特に健康や身体に関わるノウハウは、健康被害につながれば取り返しがつかないこともあります。医学的な通説と大きく異なる内容であれば、実践する前に医師に相談し、そのうえで判断することをおすすめします」

