【磯部 孝】「SHEINはオワコン」説を専門家が検証…日本のアパレル業界がその「裏側の仕組み」に絶対に勝てない納得の理由

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【前編記事】『「激安服のSHEIN」米国で格安ルールが廃止され大ピンチ…?ピーク時から「価値4分の1」になった意外な裏側』よりつづく。

「見るだけで欲しくなる」システムの完成度

「SHEIN」が香港上場を果たしたにもかかわらず、その上場時評価額がピーク時の約4分の1となる約265億円だったのを見て、私は「SHEINはピークアウトした」と結論づけるのは早いと思った。

確かに、売上成長率の鈍化、利益率の悪化、米国の関税問題、欧州の規制、競合増加、顧客獲得コストの上昇、ESG・知財問題、上場時評価額の大幅低下という問題が一気に表面化した。実際、香港上場初日の株価は公開価格を下回って終了し、市場がSHEINの成長性や規制・通商リスクを慎重に見ていることがうかがえる。

しかし一方で、売上400億ドル超、世界的な顧客基盤、巨大な中国サプライチェーン、高度なITシステム、高速MD、若年層への強いブランド認知という資産を持っている。

これだけの基盤を持つ企業が、関税問題だけで簡単に失速するとは考えにくい。むしろ今後のSHEINは、「安いから売れる会社」から、「データによって売れる商品を発見できる会社」へ進化できるかが、これからの最大のテーマになる。

SHEINのもう一つの強さは、商品数と更新頻度である。一般的なアパレルECでは、消費者が「白いシャツが欲しい」と検索して商品を探す。SHEINでは逆に、アプリを眺めているうちに、「これ、かわいい」「今こういうのが流行っているんだ」「この組み合わせをしてみたい」という購買欲求が生まれる。

つまり、検索型ECが「欲しい商品を探す」のに対し、SHEIN型ECは「商品を見ることで欲しいものが生まれる」のである。この仕組みはInstagram、TikTok、YouTubeなど、画像・動画を中心に情報を収集する若年層との相性が極めて良い。実際、2025年の文化服装学院調査では、Instagramの利用率94.4%、YouTube75.3%、TikTok59.3%、Pinterest52.3%と、ビジュアル系SNSが若者の情報接点として大きな存在になっている。

若者は想像以上に“賢く”購買している

こうしてSHEINの商品展開量とSNSの情報拡散力が組み合わさることで、「SNSで発見→SHEINで購入→SNSで着用を発信→次の消費者が購入」という循環が生まれる。SHEINは、この循環を自社の成長につなげる仕組みを構築している。

SHEINの中国国内法人には、商品検索システム、データ収集・分析システム、デジタルマーケティング推薦システム、コスト管理、会計、APIゲートウェイなど、多数のソフトウェア著作権が登録されている。さらにサプライチェーン法人には、購買管理、生地管理、物料取引、物資管理などのシステムが存在する。

一方、SHEINの日本市場での将来性を楽観的に考えすぎるのも危険である。先の「おしゃれZ世代」調査では、SHEINの利用率は前年より低下している。また「通販サイト・アプリでは買っていない」という回答が20%を超え、実店舗への回帰も確認された。さらに、MUSINSA、Qoo10、ファッションフリマ、古着店などへ購買先が多極化している。

これは重要な兆候である。若者は「SHEINだけ」を使っているわけではない。むしろ、SHEINでプチプラ、ZOZOTOWNでブランド、韓国ECで韓国ブランド、古着店・フリマで一点物、実店舗で実物を確認するというように、購買先を使い分けている。

したがってSHEINの今後の競争は、単純な「ファストファッション対SHEIN」ではなく、若者の可処分所得と購買時間を奪い合う市場全体との競争になっていくだろう。

「安さ」で勝つ時代はとっくに終わった

2026年にSHEINが公表した日本の顧客調査では、オンラインで衣料品を購入する際の主な判断基準は、サイズが合うこと90.5%、価格87.9%、現在の生活・ニーズへの適合80.9%、自分のスタイル・自己表現76.3%、品質・仕立て74.6%となっている。

つまり、日本のSHEINユーザー自身が「安ければ何でもいい」と考えているわけではない。サイズ、価格、生活適合性、自己表現、品質を総合的に判断している。これはSHEINにとって非常に重要なポイントである。価格競争だけを続ければ、Temuや中国系EC、韓国系EC、国内プチプラブランドとの競争が激しくなる。

したがって、日本のアパレル企業がSHEINを「安い中国製品だから、そのうち飽きられる」と考えるのは危険だと思う。SHEINの本質的な競争相手は、商品ではなくMDシステムそのものだからだ。従来型企業が「今年はこのトレンドが来る」と予測して100型作るのに対し、SHEINは「どの商品に消費者が反応するのか」を市場に問いながら商品を増減させる。この差は大きい。

そして日本企業がSHEINから学ぶべきなのは、必ずしも「商品数を増やすこと」でも「価格を下げること」でもない。むしろ、小さく試す→データを見る→反応の強い商品を追加する→反応の弱い商品を早く止める→次の商品に反映するという、実需起点のMDではないか。

これは「半年後の売れ筋を当てなくてもいい」という話ではない。むしろ、売れ筋を見極めることはMDの基本である。SHEINが変えたのは、その見極め方だ。

日本のアパレル業界が学ぶべきことは

半年後に売れる商品を一度の予測で当てにいくのではなく、小さな仮説を市場に投入し、その反応をデータで確認し、売れる可能性が見えた商品を素早く追加する。言い換えれば、「売れ筋を予測するMD」から「売れ筋になる商品を市場から早く発見するMD」への転換である。ここにSHEINのMDシステムの本質がある。

SHEINは、商品企画会社でもない。単なるEC会社でもない。単なるファストファッション企業でもない。むしろ、消費者データを起点に、商品企画、生産、サプライチェーン、物流、EC、マーケティングを一つの循環に組み込んだ「ファッション・プラットフォーム」と捉えるべきではないか。

日本での人気も、その結果として理解すると分かりやすい。「安いから買う」から、「安いから試せる」へ。「試せるから自分らしい服を発見できる」へ。そして自分らしい服が次々に見つかるから、またSHEINを見る。この循環こそがSHEINの強さである。

ただし、2025年の日本のZ世代ではSHEINの利用率低下や実店舗回帰、韓国EC・フリマ・古着などへの購買先の多極化も見られる。したがって、SHEINの日本市場における次の成長ステージは、圧倒的な安さだけで若者を獲得する段階から、価格・品質・サイズ・自己表現・信頼を総合的に満たす段階へ移れるかどうかにかかっている。

そして日本のアパレル企業にとって最大の教訓は、SHEINのビジネスモデルを参考にしつつ、「消費者が欲しいものを予測して作るMD」から、「消費者の反応を見ながら欲しいものを発見し、商品化していくMD」へ発想を転換することではないだろうか。

SHEINが日本のヤングレディス市場に与えた最大のインパクトは、安価な商品を大量に販売したことだけではない。市場に投入する前に売れ筋を決めるという従来型MDの常識に対し、「まず小さく市場に問い、消費者の反応から売れ筋を発見する」という新しいMDの考え方を示したことにある。

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