ハエの脳を基にした16万6700個の仮想ニューロンで仮想通貨のデイトレードを行う試み

Googleやハワード・ヒューズ医学研究所などの共同研究チームが雄のキイロショウジョウバエの中枢神経系を記録した「MaleCNS v1.0」を公開したところ、多くのエンジニアがハエのニューロンネットワークをシミュレートして『DOOM』や『スーパーマリオ64』を動かす試みに挑戦しています。仮想通貨取引所のCoinbaseに所属するエンジニアが新たに、MaleCNS v1.0を用いて仮想通貨のデイトレードを行うオープンソースプロジェクト「Stonkfly」を公開しました。
https://stonkfly-three.vercel.app/
nftechie/stonkfly: A full retained fly-connectome simulation with experimental memory and guarded Coinbase AgentKit trading actions.
https://github.com/nftechie/stonkfly
Engineer turns simulated fly brain into a crypto day trader, posts downloadable sim to GitHub - 166,700 virtual neurons read candlestick charts for dopamine hits | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/engineer-turns-simulated-fly-brain-into-a-crypto-day-trader-posts-downloadable-sim-to-github-166-700-virtual-neurons-read-candlestick-charts-for-dopamine-hits
MaleCNS v1.0を用いてどんなチャレンジが行われているのかについては、以下の記事を読むとよくわかります。
Googleがハエの脳と中枢神経系全体のマッピングを公開するやいなや「DOOM」や「マリオ64」をプレイさせるエンジニアが登場 - GIGAZINE

StonkflyはCoinbaseのエンジニアであるnftechie氏が公開した実験的なプロジェクトです。モデルの基盤には、雄のショウジョウバエの脳と腹側神経索における神経細胞の接続関係を記録した「MaleCNS v1.0」を使用し、16万6700個の神経細胞と約2560万本の接続をシミュレートしています。

Stonkflyの特徴は価格の数値をモデルに直接渡すのではなく、チャートの画像を「見せる」ことです。Coinbaseの公開価格データから320×180ピクセルの画像を生成し、視覚入力のうち3335個に明るさの情報を、残る811個に青や緑に対応する色情報を与えます。画像には過去の価格推移や取引ペア、現在の売り気配値と買い気配値が表示されますが、保有資産の残高や損益は含まれません。

売買の判断には、特定の神経細胞が電気的な信号を発する「発火」の回数を使います。Stonkflyは左右の神経細胞群の発火頻度の差と、別の神経細胞の発火の有無を、あらかじめ定めたルールで「買う」「売る」「何もしない」に対応させる仕組みですが、これは開発者が設計した変換の仕組みであり、ハエの脳に売買を判断する細胞が見つかったという意味ではありません。また、大規模言語モデルが売買を選んでいるわけでもないとのこと。

また、取引結果を神経回路にフィードバックする仕組みも組み込まれています。保有資産の評価額を含む資産総額が一定以上増えると、報酬側に割り当てた15個のドーパミン細胞を刺激し、一定以上減ると嫌悪側に割り当てた2個のドーパミン細胞を刺激します。この計算には取引手数料や含み損益も含まれるため、売買せずに資産を保有しているだけでも刺激が発生します。さらに、こうした刺激と神経活動のタイミングに応じて、モデル内の一部の神経細胞間の接続の強さを変える、実験的な記憶の仕組みが設けられています。

ただし、利益と報酬、損失と嫌悪の対応はnftechie氏が人工的に設定したものであり、ハエの痛覚や主観的な苦痛、快楽、意識を再現したり測定したりする仕組みではありません。
初期設定では実際のビットコインとUSDCの市場データを使いながら、仮想資金で模擬取引を行います。市場の観測間隔は実時間で最低60秒で、観測するたびにモデル内の神経活動を0.5秒分進めます。利用者が認証情報を設定して実取引を明示的に有効にすると、Coinbase AgentKitの仕組みを利用した独自の連携機能を通じ、Coinbase Advancedで現物注文を出せます。注文には金額や回数などの制限があり、空売りやレバレッジ取引には対応していません。
なお、学習の効果を示すには接続の強さを固定した場合との比較や、未使用の期間の市場データによる検証などが必要です。記事作成時点では、Stonkflyはハエ由来の神経回路モデルを取引システムにつなぐ実験に過ぎず、取引能力の向上や実資金での運用成績を実証したものではありません。nftechie氏は、「視覚刺激が神経回路に伝わりドーパミン細胞が発火して接続の強さが変わることと、利益を上げる取引方法を学ぶことは別です」と述べています。
