同僚を逆恨み、“顧客アンケート”偽造し中傷…部下巻き込んだホテル支配人「一発解雇は有効」判決のワケ【弁護士解説】
ホテルチェーンを営むX社で、ある店舗の支配人Aさんが、別の店舗の支配人Bさんに逆恨みをした。
Aさんは部下などの協力を得て、その支配人に対してさまざまな誹謗中傷をした。
X社がこのAさんを懲戒解雇したところ、Aさんは解雇の無効を主張し提訴。
裁判所は「雇用契約の維持を困難ならしめる悪質な背信行為であるといわざるを得ない」として、懲戒解雇は有効と判断した。
以下、実際の裁判例をもとに事件を解説する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯X社において、Aさんは、甲ホテルの支配人である。従業員の採用、勤怠管理を含む店舗経営を行っていた。
逆恨みするに至った経緯を見ていこう。
■ 従業員のお金で客に弁償させる
ある日、客から甲ホテルに対してクレームがあった「FAXが届いていないか」と何度も確認があったにもかかわらず、スタッフがFAXを見落としたというものだ。
Aさんは、支配人として客に謝罪した上で、宿泊料金である約4万円をホテルのレジから支払った。Aさんはこのトラブル処理が本社に発覚するのを恐れてか、宿泊料金を返金する条件として、客との間で「本社に苦情を申し立てない」という合意をした。
さらに、客に返金した約4万円を、FAXを見落としたとおぼしきスタッフから徴収したのだ。
当然のことながら、このような不法なやり方が認められるわけもない。理不尽に4万円を払わされたスタッフは、事の顛末をX社が経営する別の乙ホテルの支配人Bさんに伝え、相談した。その結果、Bさんを通じX社が事態を把握することになった。
■ 不正出金
その他にも、Aさんともう1人の従業員が、キャンセル料名目でホテル側に入金された金銭(約1万円)を、不適切な経理処理で現金化した。
■ 異動
Aさんによるこれらの不正行為の発覚を受け、X社は、Aさんに対して異動命令を出した。それまで中規模ホテル2店舗の支配人であったのを、小規模ホテル1店の支配人へ。実質上の降格処分である。
■ 逆恨み
Aさんは、上記のBさんや、異動命令を出したC部長に恨みを募らせた。そして、従業員や元従業員の協力を仰ぎ、B支配人を中傷する計画を企てた。
従業員DがAさんに送信したLINEには「支配人、何でもするので仰ってください!!」「退職前にBさんとCさん、しっかり復讐してやりたいですね。。」との文言がある(判決文から抜粋)
ここから、Aさんの復讐劇が始まる。
■ 乙ホテル支配人Bさんを中傷
問題となったAさんの行為は多岐にわたるので、ここでは一部のみ取り上げる。
Aさんは、Bさんに関する虚偽の宿泊客アンケートをでっち上げた。このやり方が、かなり手の込んだものだった。
異動命令が出てから1週間後のことである。Aさんは従業員Dにミッションを課した。そのミッションとは、「デイユースの客として丙ホテルの客室に入り、アンケートはがきを持ち出す」というものだ。
指示を出す際、Dに対し「はがきに指紋がつかないよう手袋を持参すること」「防犯カメラなどから身元が発覚しないようフロントではうつむいて小さな声で話すこと」という指示を出したという。
こうしてAさんははがきを手に入れ、別の者に指示を出し、乙ホテルの利用客を装い、ハガキに以下の内容の記載をさせたのである。
〈Bさんが支配人を務める乙ホテルにおいて、従業員が正座や土下座をさせられているのを見て不快に思った〉
事実無根である。AさんはこのはがきをX社に送付した。Bさんからすればたまったものではないだろう。Aさんは、他にも似た手口のBさんへの中傷行為を行った。
なお、Aさんは、他の従業員などに指示を出し、上記の中傷行為などの証拠を隠滅するために、監視カメラのデータを消去しようとしたが、失敗に終わった。
■ 懲戒解雇
これらの他にも、Aさんは、自身が出勤しているかどうかにかかわらず、自身が出勤したものとして、日常的に従業員にタイムカードを押させるなどの不正を行っていた。
X社はAさんに対して、一連の不正行為等が懲戒事由にあたる旨を告げて、弁明の機会を付与した。しかし、Aさんが弁明をしなかったため、X社はAさんを懲戒解雇した。
懲戒解雇に納得できないAさんは、解雇無効を求めて提訴した。
裁判所の判断X社の勝訴である。裁判所は「懲戒解雇は有効」と判断した。裁判所の判断はおおむね以下のとおりだ。
■ 不正出金行為
業務上横領行為であり、その金額も少額とはいえない
■ B支配人に対する中傷行為、データ消去指示行為
他の従業員に指示して、虚偽の苦情等を申告してBさんの名誉を毀損し、かつ、X社をして虚偽の苦情等に基づく調査等をさせ、被告の業務を妨害しようとしたものといわざるを得ないことから、いずれも重大な非違行為に当たる。
■ タイムカードの不正打刻
従業員に対して適正な勤怠管理を指導する立場にありながら、不正な方法で勤務時間を記録させた。
そして、裁判所は、認定された事実をもとに以下の通り評価を加えたうえで、懲戒解雇は有効であると結論づけた。
「Aさんは支配人の地位にありながら、その地位を利用して、上記行為に及んだものであって、これらは、本件雇用契約の維持を困難ならしめるに十分な悪質な背信行為であるといわざるを得ない」
「X社がAさんに対して弁明の機会を与えたことと併せると、Aさんがこれまでに懲戒処分を受けたことがないことなど、Aさんに有利な事情を十分踏まえても、懲戒解雇に値する十分に合理的な理由となる」
最後に裁判所が特に着目したのは、Aさんが支配人という立場を利用して、部下や元従業員を一連の不正に巻き込んだ点である。
顧客アンケートは、本来、会社が問題点を把握し、サービス改善するための重要な仕組みだ。それを個人的な恨みを晴らす道具として悪用すれば、標的となった従業員の名誉を傷つけるだけでなく、会社の調査機能そのものを混乱させることになる。
Aさんの不正行為に協力した従業員等が、その後どのような処分を受けたかは明らかでない。しかし、たとえ上司からの指示であっても、不正行為に加担すれば自らも懲戒処分の対象になる可能性がある。十分に注意してほしい。

