「本日ただ今から横内さんをイジるのはやめましょう!」 ギネス記録樹立の俳優「横内正」、ピンチを救ったカリスマ占い師の“ズバリなひと言”
夕刊紙・日刊ゲンダイで数多くのインタビュー記事を執筆・担当し、現在も同紙で記事を手がけているコラムニストの峯田淳さんが第一線で活躍する有名人たちの“心の支え”になっている言葉、運命を変えた人との出会いを振り返る「人生を変えた『あの人』のひと言」。第84回は俳優の横内正さん。国民的番組「水戸黄門」の初代・格さんで知られる横内さんですが、想定外の俳優人生だったそうで……。
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格さんのイメージは…
ギネスの世界記録に認定された有名人として、新たに俳優座出身の横内正が加わった。
8月29日から9月2日まで、85歳にしてシェイクスピア4大悲劇の一つ「マクベス」で3度目の主役を演じたことが認められ、「マクベスを演じた最高齢の俳優」として認定されたのである。

写真は、千秋楽の終演後に楽屋にお邪魔して撮らせてもらった一枚。壮年の俳優でもハードといわれる「マクベス」の舞台を2時間半務めた後にもかかわらず、「やあ」と声をかけていただいた表情には「まだまだこれから」という気力が満ち溢れていた。
筆者の個人的な記憶の中で、横内はある騒動の前後で2つの顔に分かれる。
“前”は出世作となった時代劇「水戸黄門」での格さん、それから松平健(72)と共演した「暴れん坊将軍」で、南町奉行・大岡忠相を演じた時代劇俳優としての顔だ。
年配の人は、横内を見れば今でも「格さん? 助さん?」と口をついて出るほど、「水戸黄門」の格さんのイメージは記憶にこびりついているといってもいい。当時の本人にとっては想定外だったという俳優人生について、シェイクスピア劇「リア王」上演前(2024年)に伺っている。
「水戸黄門」に出たのは新劇の俳優座時代だった。翻訳劇などを上演する新劇の役者が時代劇に出ることになったのは劇団運営のために「マスコミの仕事」といわれるテレビ、映画に出る流れで、「水戸黄門」の初代・格さんをやることになった。当初はワンクール出るくらいのつもりだった。
ところが、2年、3年と続き、6年目についにしびれを切らして降板を申し出た。新劇俳優なのに時代劇の色がつき過ぎることを懸念したのが理由だ。しかし、「水戸黄門」は国民的な時代劇だけに大きな騒ぎになり、慰留され、さらに2年間は出続けることになった。
その後のこと。ようやく時代劇と縁が切れるかと思ったら、引き続きのオファーが。松平との共演の「暴れん坊将軍」で、演じたのは南町奉行の大岡忠相だった。一回り年下の松平のサポート役でもあったという。
そして「暴れん坊将軍」がまた大当たり。19年のロングラン出演である。横内はすっかり時代劇の看板俳優になった。時代劇で評価されたことについて、この時はこう語った。
「時代劇の所作とか、殺陣、せりふとかが評価されたんだと思います。考えてみれば、それは僕にとっての財産、勲章かもしれないと今は思っています」
「教訓は、評価されているもの、望まれることはやった方がいい……最近になって僕がやった時代劇はみなさんが好意を持って受け止めてくれていると肌で感じるようになった。だけど、若い頃は役が限定されて嫌だとか、これじゃ世界が広がらないとか危惧している部分があり、早く今を脱したいと焦っていたということに尽きますね」
離婚騒動を経て
そんな時代を経て、新劇出身俳優として、本来の舞台の仕事に戻ってからが、前後の“後”である。
5年前、「死ぬまでにやりたいこれだけのこと」というテーマでインタビューした時のこと。シェイクスピア4大悲劇の2つ「リア王」と「マクベス」を同時上演するという、ある意味、無謀ともいえるチャレンジだった。御年80歳。インタビューの見出しは「90歳まで来年も再来年もシェイクスピア劇を」。
〈僕が初舞台を踏んだのは64年の「ハムレット」です。シェイクスピアで始まり、あれから57年、2度目の東京五輪が行われる年にこうしてシェイクスピアの「リア王」と「マクベス」をやるのは感慨深いですね〉
そして19年、21年、26年と「マクベス」で主役を演じ、3回目の今回、ギネス認定の世界的な俳優になった。「マクベス」ではなく好敵手の「マクダフ」役を2度演じているので、「マクベス」で舞台に立つのは、実際は5度目になる。
この前後の間に起きたのが20年前の出来事。元夫人が記者会見まで開いた離婚騒動である。俳優の離婚がなぜあんな大騒ぎになったのか、今から思えば不思議な話で、誰かが仕掛けたとしか思えないスキャンダルだった。
この当時、「日刊ゲンダイ」の専務に「横内さんの話を聞いてくれないか」と言われ、お会いして「俳優 横内正 お騒がせしましたが…」という連載をやったのが筆者との最初の縁だ。以来、名優に何度もインタビューをお願いすることになった。テーマは「涙と笑いの酒人生」「私の秘蔵写真」「おふくろメシ」「死ぬまでにやりたいこれだけのこと」「生きるクスリ」といろいろ。
シェイクスピア劇の舞台前には、共演者の加藤剛の次男・頼、三浦浩一、今年は大沢逸美にも話を伺った。そんな中、離婚騒動から10年後の16年、別の記者が担当した「私が書いた離婚届」というインタビューがあり、当時の苦境をこんな風に語っている。
〈あの頃は“熟年離婚”の代表のように扱われましたね。ちょうど某局が渡哲也さん、松坂慶子さんのお二方の夫婦役で「熟年離婚」のタイトルのドラマをスタート、話題の種には事欠きませんでした。実直で堅物の「格さん」、精錬で正義を貫く「大岡忠相」のイメージが重なる私が「女好きで、金銭に執着し、家庭を兵糧攻めにする卑劣な男」と、ダーティーなイメージに塗り替えられ、決まっていた仕事もキャンセルと、ついに私が兵糧攻めにあいました〉
助けてくれた二人の大物
そんなピンチの時に、横内を助けてくれた二人の大物がいる。一人はみのもんた。「クイズ・($)ミリオネア」にゲスト出演した時に、みのに励ましの言葉をかけてもらったという。
もう一人が細木数子。「幸せって何だっけ」に出演した時に、視聴者にこう呼びかけてくれた。
「本日ただ今から、横内さんをイジることは皆さんやめましょう」
この細木のひと言は火消しの効果、抜群だった。そしてこう語った。
〈この先の限られた人生も…高齢俳優として、生涯現役の役者ばかを貫くことでしょう。来秋にも、昨年夏に上演したシェイクスピア「リア王」の再演、あるいは初挑戦となる別作品の上演に向け、準備に追われる日々が始まります〉
「マクベス」でギネスが叶ったのはあの騒動を挟んで、名優に強い執念のような覚悟ができたからではないか。そんな想いで、渾身の千秋楽を堪能していたら、熱いものがこみ上げてきた。
峯田淳/コラムニスト
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デイリー新潮編集部
