【闘病】ドライヤーが持ち続けられない… 日常の異変は難病『重症筋無力症』だった

重症筋無力症は、神経から筋肉への命令がうまく伝わらなくなり、筋力の低下や疲れやすさが表れる自己免疫疾患です。初期には症状が分かりにくく、診断までに時間がかかることも少なくありません。Narukaさん(仮称)が最初に違和感を覚えたのは、2022年の夏。筋力トレーニング中に、それまで扱えていた重量を持ち上げられなくなりました。やがて物が二重に見える複視や斜視が表れ、複数の眼科を経て2025年春に重症筋無力症と診断されます。Narukaさんに、発覚から診断、治療、現在に至るまでの経緯を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2026年6月取材。

体験者プロフィール:
Narukaさん(仮称)

1992年生まれ、千葉県出身。2022年ごろから筋トレ中に力が抜けるなどの症状が表れ、2025年春に指定難病の重症筋無力症と診断される。免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法を受け、服薬を続けながら仕事とトレーニングを継続している。

力が入らない… それは病気のサインだった?

編集部

体に異変を感じたのはいつごろでしたか?

Narukaさん

2022年の夏ごろです。ちょうど筋トレを始めた時期でした。ウエイトトレーニング中に、それまで問題なく持ち上げられていた重量が急に扱えなくなったり、力が抜けてダンベルを落としてしまったりすることが何度もありました。周囲からも「なんだかおかしいね」と言われていました。
仕事で現場作業を手伝ったときには、下から部材を支えようとしても腕に力が入りませんでした。振り返ると、ドライヤーを持ち続けるのが難しかったり、洗濯物を干すのがつらかったり、マリンスポーツでパドリングをするとすぐに疲れてしまったりと、日常生活の中にもさまざまな違和感がありました。このころから眼瞼下垂(がんけんかすい/まぶたが下がってくる状態)の症状も表れていましたが、当時は「ちょっとまぶたが重いな」くらいで、まさか病気だとは思わず、市販のクリームなどで対処していました。

編集部

異変に気付いてから、症状はどのように変わっていきましたか?

Narukaさん

力が抜ける症状については、日常生活への影響がそれほど大きくなかったこともあり、そのまま過ごしていました。しかし2024年の年末ごろから、物が二重に見える「複視」が表れ、運転中に車線が二重に見えるなど、生活に支障が出るようになりました。常に画面酔いをしているような感覚で、片目で見たほうがまだ楽だったので、眼帯を着ける日もありました。黒目が勝手に動いてしまうので、コンタクトレンズを入れるのがとても大変だったのを覚えています。

編集部

受診から診断までは、どのような経緯だったのでしょうか?

Narukaさん

鏡で自分の目を見ると斜視(左右の目の視線がずれた状態)になっており、さすがにおかしいと思って複数の眼科を受診しました。何度も検査を受けましたが納得できず、私からお願いして大学病院への紹介状を書いてもらいました。
大学病院の眼科を受診したところ、医師から「重症筋無力症かもしれません」と言われました。アイスパックテスト(冷やしたアイスパックをまぶたに数分間当て、症状の変化を確認する検査)を受けた後、同じ病院の脳神経内科で本格的な検査を受けることになりました。

編集部

眼科を何軒も回る中で、印象に残っていることはありますか?

Narukaさん

「あなたは生まれつき斜視だったと思います」と言われたり、「斜視じゃないですけど?」と言われたり……。かなりしんどい状況なのに分かってもらえず、「先生になんて言ったら、うまく伝わるんだろう」と本当に困った記憶があります。

「やはり病気だった」診断と治療の始まり

編集部

診断は、どのような形で告げられたのでしょうか?

Narukaさん

血液検査やMRI、CT、反復神経刺激試験(繰り返し電気で刺激を与え、筋肉の反応が弱まっていくかを調べる検査)など、さまざまな検査を受けた結果、脳神経内科の医師から「重症筋無力症です」と診断されました。アイスパックテストと血液検査を受けた時点で、「ほぼ重症筋無力症かな」とは言われていました。

編集部

診断を受けたときの心境を教えてください。

Narukaさん

「やっぱり今までの症状には理由があったんだ。気のせいではなく病気だったんだ」と分かり、少しほっとした気持ちもありました。しかし一方で、「もう大好きな筋トレやスポーツができなくなるかもしれない」という不安や悲しみも大きく、帰りの車内で泣いてしまいました。

編集部

重症筋無力症とは、どのような病気なのでしょうか?

Narukaさん

医師からの説明によると、神経から筋肉への命令がうまく伝わらなくなり、全身の筋肉が疲れやすくなって力が入らなくなる病気だそうです。目だけに症状が表れる「眼筋型」と、全身に症状が表れる「全身型」というタイプがあり、その中でも重症度などでクラス分けされています。私は全身型のクラスIIaと言われました。

編集部

治療について、医師からどのような説明がありましたか?

Narukaさん

飲み薬として、免疫の働きを抑えるタクロリムスと経口ステロイド薬のプレドニゾロン、神経から筋肉への信号の伝わりを助けるピリドスチグミンを処方してもらい、入院して免疫グロブリン療法(血液の成分から作られる免疫グロブリンを点滴で投与する治療)とステロイドパルス療法(短期間に大量のステロイドを点滴で投与する治療)を試していく方針になりました(※)。
重症筋無力症では、胸腺(きょうせん/胸の中央にあり、免疫に関わる働きをする器官)を摘出する手術が検討されることもあります。手術をするかどうかは、免疫グロブリン療法などの効果を見ながら脳神経内科の医師たちが話し合って決めるとのことでした。

※(監修医註)全身型の場合、一般的には免疫グロブリン療法と血漿交換療法を行います

編集部

治療方針を聞いたときは、どのように感じましたか?

Narukaさん

不安が大きかったです。「どれくらい入院することになるのだろう」「本当に投薬だけで症状はよくなるのだろうか」と考えていました。さらに胸腺摘出となると、1カ月ほど仕事を休まなければならない可能性がありました。従業員も私1人なので、会社に迷惑を掛けてしまいます。どうしようかと、とても悩みました。
ただ、治療がうまくいけば今まで以上に元気にトレーニングができるようになるかもしれない、とポジティブにも考えていました。

編集部

実際の治療は、どのように進められたのでしょうか?

Narukaさん

2025年の夏に入院し、免疫グロブリン療法を5日間、ステロイドパルス療法を3日間行いました。効果がしっかりあったようで、医師から「胸腺摘出はしなくて大丈夫だろう」と言ってもらいました。心配していたステロイドの副作用もあまりなく過ごせました(※)。
それから現在まで、プレドニゾロン5mg、ピリドスチグミン、タクロリムスによる治療を続けています。

※治療方針や副作用の表れ方は、患者さんの状態によって異なります

病気になって気付いた大切なこと

編集部

病気の前後で変化したことを教えてください。

Narukaさん

以前は、疲労感が強かったり腕が思うように動かなかったりして何もできないと、「今日は何もできなかった。本当に自分はダメだな」と落ち込むことがよくありました。しかし今は、「調子のよい日もあれば悪い日もある」と、体調の波をなるべく受け入れるようにしています。また、「病気だから」と何でも諦めてしまわないことも大切にしています。
もともと私はうつ病を経験するなど、決してメンタルが強いタイプではありません。それでも、職場や家族、友人など周囲の人たちが支えてくれているおかげで、今は病気になる前とほとんど変わらない毎日を送ることができています。彼らの支えには本当に感謝しています。

編集部

今までを振り返って、後悔していることはありますか?

Narukaさん

筋トレで力が抜ける症状が出ていた時点で受診しておけばよかったと思います。周囲からも「一度診てもらったほうがいいよ」と言われていたのですが、痛みや苦しさはなく、普段は元気に過ごせていたため、「このくらいで病院に行かなくても大丈夫だろう」と思い込んで、そのまま数年が過ぎてしまいました。その点は少し後悔しています。
また、治療を続ける中で、想像以上に医療費がかかることも実感しました。高額療養費制度(1カ月の医療費の自己負担が一定額を超えたときに、超えた分が払い戻される公的な制度)などはありますが、それでも通院や検査で出費は増えるため、もう少し生活防衛費(病気や失業などに備えて手元に残しておくお金)を準備しておけばよかったとも感じています。

編集部

現在の体調や生活について教えてください。

Narukaさん

先日また複視が出るようになってしまったので、ステロイドパルス療法を1日だけ受けました。今は斜視や脱力もだいぶ減って安定していますが、やはり夕方になると特有の疲労感があります。そういうときは無理をせず、休息を取りながら過ごしています。
トレーニングについては、主治医から「強度は落とさないで頑張って!(※)」と言われているので、苦手な肩や腕のトレーニングの日は、トレーナーや友人に見てもらいながら頑張っています。

※個人の状況によって異なります

編集部

医療機関や医療従事者に望むことはありますか?

Narukaさん

私は自分から「大学病院への紹介状を書いてほしい」とお願いできました。しかし、同じように不安を抱えていても、なかなか言い出せない患者さんもいると思います。だからこそ、診断や検査結果に納得できていない様子の患者さんには、別の検査や他院での相談といった選択肢も含めて提案してもらえたら、安心につながるのではないかと感じています。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

Narukaさん

元気な体で過ごすなんでもない毎日が、どれだけ幸せなことか痛感しています。だからこそ、読者の皆さんにも日々を大切に、後悔のないよう過ごしてほしいと思います。少しでも体に違和感があれば、早めに医療機関を受診してください。そして、結果に納得できなかったときは、勇気を出してセカンドオピニオンを受けることも大切です。おこがましいかもしれませんが、この体験を通して、セカンドオピニオンや医師選びの大切さが少しでも伝わればうれしいですね。
最後にもう一つ、保険や生活防衛費など、お金の面もぜひ見直してみてください。

編集後記

筋トレ中に「力が抜ける」という違和感から始まった症状は、やがて複視や斜視へと広がり、重症筋無力症の診断につながりました。診断までには複数の眼科を回り、Narukaさんは自ら大学病院への紹介状を求めたといいます。「医師選びの大切さが少しでも伝われば」という言葉のとおり、体の小さな変化を見過ごさず、納得できないときは別の選択肢を探すことが、適切な診断への一歩になるのかもしれません。

なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
上田 雅道(あたまと内科のうえだクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。