江ノ電20年ぶりの新型車両が登場!シート配置はなぜ海側だけ「向かい合わせ席」なの?【江ノ島電鉄に取材】
江の島観光を終えたAさんは、江ノ島駅から鎌倉方面へ向かう江ノ電に乗ろうとしていた。ホームに入ってきたのは、2026年4月にデビューした新型車両「700形」。江ノ電に新型車両が登場するのは約20年ぶりだ。
車内に入ったAさんは、木目調の床や真新しい座席に目を奪われた。なかでも気になったのは、左右で形が異なる座席だ。山側には、乗客が横一列に並んで座るロングシートが、海側には、乗客同士が向かい合って座るクロスシートが配置されている。
また、この電車は鎌倉方面に進むにつれて、車内には立って乗る人も増えていく。どうやら江の島や鎌倉を訪れる観光客が多く利用するだけでなく、通勤や通学、買い物など、沿線住民の日常の移動も支えているようだ。
終点である鎌倉駅に降り立ったAさんは、車内での時間を思い返し「なんで左右非対称の座席だったのだろう?」という疑問を抱いた。日常の交通手段として江ノ電を利用する人のことを考えると、左右ともにロングシートの方が便利なはず。
では、なぜ左右非対称の座席を採用したのだろうか。江ノ島電鉄株式会社の早川忠義さんに聞いた。
―なぜクロスシートとロングシートを併用しているのでしょうか?
沿線にお住まいの方の日常の移動手段としての使いやすさと、観光で訪れる方に江ノ電ならではの景色を楽しんでいただくこと。その両方を考えて車両を設計しています。
江ノ電から見える海は、観光で訪れる方が楽しみにしている景色の一つです。そのため、海側には景色を楽しみやすいクロスシートを配置しました。
一方、江ノ電は朝夕を中心に、通勤や通学でも多くのお客さまに利用されています。混雑への対応も考えながら、海の景色を楽しめる座席配置を検討しました。
―乗客から「シート数がもっと多い方がいい」という声もあるのではと考えますが、実際の乗客からの感想はいかがでしょうか?
お客様からは「このシート配列のコンセプトはなんだろう」「足を伸ばす乗客がいると相席しづらい」といった声や、「座席数が少ないのが気になる」という投稿も見られます。 一方、700形では通路やドア付近の床面積を広げ、混雑緩和にも配慮しています。座席数だけでなく、乗降のしやすさや眺望、快適性とのバランスを考えた設計です。
―700形を設計するうえで、座席以外にはどのような点を重視しましたか。
700形では、利用者の増加による混雑や既存車両の老朽化なども踏まえ、安全性や快適性、メンテナンス性、省エネ性能など、車両全体を見直しています。
快適性の面では、座席にはウレタンではなくバネを使用し、座り心地を良くしたほか、大型袖仕切りを採用しました。また、海側は荷棚を設けず、窓いっぱいに広がる景色を楽しめるようにしています。短い乗車時間ではあるものの、少しでも快適に過ごしていただくことに注力しました。
特徴的な座席配置だけでなく、将来にわたって快適な乗車環境と安定した運行を続けていくことも、新型車両を設計するうえで重視した点です。
◆早川忠義(はやかわ・ただよし) 江ノ島電鉄株式会社 鉄道部運輸課シニアマネージャー
運転士や駅係員など、長年にわたり鉄道の運行業務に携わる。現場で培った知見を生かし、約20年ぶりとなる新型車両「700形」の開発プロジェクトにも参加した。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
