財布を1つにしておけばよかった…「年金月26万円」「退職金3,700万円」の70歳夫婦「勝ち組のセカンドライフ」が一転、老後破産したワケ
共働きだった世帯は、一馬力で家計を担っていた世帯よりも年金・退職金が潤沢です。しかし、共働き夫婦がやってしまいがちな家計管理の落とし穴もあって……。事例を見ていきます。※事例の人物名はすべて仮名です。
共働き夫婦の老後
現役時代はともに会社員としてフルタイム勤務を継続し、世帯年収1,300万円だったシンジさんと妻のトモコさん。
同い年のシンジさん夫婦は、60歳の定年の際、同時期に退職金を受け取りました。シンジさんが2,000万円、トモコさんが1,700万円で合計3,700万円。さらに65歳からは夫婦合わせて月額約33万円の公的年金を受給していました。
「これだけの年金収入と退職金があれば、老後はなに一つ不自由のない『勝ち組のセカンドライフ』が送れるはずだ」
そう高を括っていた二人でしたが、65歳での完全リタイアから5年後、手元の資金が完全に底をつき、「老後破産」という絶望的な結末を迎えます。高所得層だった二人を破滅へ追い込んだ原因は、結婚以来30年以上続けてきた「夫婦別財布」の習慣と、現役を退いたあとも落とせなかった生活水準でした--。
財布別夫婦の家計管理
結婚当初からお互いの給与や個人口座にはいっさい口を出さない方針をとってきた二人。生活費として毎月20万円ずつ(計40万円)を共通口座に振り込み、都内の通勤に便利なマンションの家賃20万円や光熱費・食費を賄うスタイルを貫いてきました。
共通の生活費さえ納めていれば、残りの給与はすべて自由に使っていいルールです。仕事の付き合いが多いシンジさんはゴルフや毎晩の交際費に散財し、トモコさんは高級ブランドのバッグや化粧品、洋服の購入にお金を投じていました。
お互いに「相手も自分と同等に稼いでいるのだから、きっと裏でそれなりに貯金しているだろう」と思い込み、金融資産の開示や将来のすり合わせを先延ばしにし続けたのです。
しかし、60歳の定年時に初めてお互いの貯蓄額を開示し合った際、蓄えはシンジさんが900万円、トモコさんが600万円の計1,500万円しかなかったことが判明します。世帯年収1,200万円でありながら、膨らみきった生活水準を抑えられず、個人の浪費を放置してきたツケがそのまま表れていました。
そこへ支給されたのが合計3,700万円の退職金でした。一時的に手元資金が5,200万円に膨らんだことで、二人は一安心し、「年金月33万円もあるのだから大丈夫だ」と現役時代の派手な金銭感覚を改めなかったのです。
退職後、通勤の利便性が必要なくなったのにもかかわらず、毎月20万円の家賃支払いを継続し、現役時代と変わらない外食や趣味の支出を重ねた結果、二人の毎月の支出は合計70万円近くにおよんでいました。月33万円の年金が入ってくるとはいえ、毎月40万円近い赤字を垂れ流している計算です。さらに完全リタイア祝いの海外旅行や外車の買い替えなども重なり、年間で600万~700万円近く貯蓄を取り崩す生活が続きました。
退職金と貯蓄は猛烈な勢いで目減り。70歳を迎えて医療費や将来の介護コストが現実味を帯びるなか、ついに5,200万円あった資金は完全に枯渇しました。
家賃やクレジットカードの引き落としが不能になり、慌ててファイナンシャルプランナーのもとへ駆け込んだものの、提示された診断結果は「すでに家計は破綻しており、やりくりで解決できる段階を過ぎている」という非情な通告でした。
「お互いの財布をひとつにして、現役時代から家計を透明化しておけばよかった……」
手元の口座残高がゼロになった現実を前に、二人は激しい後悔に打ちひしがれながら、長年住み慣れた都内のマンションを追われ、生活保護申請や過払い金返済の手続きを検討せざるを得ない事態へと追い込まれています。
高収入世帯の「夫婦別財布」リスク
「自分も稼いでいるが、相手も貯めているだろう」という心理的依存は、高収入の共働き夫婦に多く見られます。
内閣府の『令和7年版高齢社会白書』のデータを見ると、こうした「夫婦間での家計の不透明さ」や「住居費という固定費への危機感の薄さ」が、なぜ高収入世帯の老後破綻を招くのか、その客観的な背景が浮かび上がってきます。
まず、お互いの資産を開示せず「なんとかなるだろう」と先延ばしにしてしまう心理的背景には、高齢期の生活設計に対する全体的な準備不足があります。 同白書の調査において、60歳以上のシニア層に「今後の生活に向けて具体的に準備しているもの」を尋ねたところ、最多となったのは「準備しているものはない」で37.4%に上ります。
さらに、パートナーと同居している世帯であっても、38.3%が「具体的な準備は何もしていない」と回答しています。「お互いに稼いでいるのだから、あえて財布を開示しなくても大丈夫だろう」という無意識の楽観と油断が、多くの共働き世帯に潜む死角となっているのです。
シンジさん夫婦を破滅に向かわせた最大の要因は、リタイア後も都心の家賃20万円のマンションに住み続け、月40万円もの固定費赤字を放置したことにあります。同白書の不安に関する調査では、「ローンの返済や家賃の支払いができなくなること」に経済的な不安を抱く高齢者は、全体でわずか7.6%しかいません。 しかし、この数字の背景には、65歳以上の高齢者の83.0%(83.0%:一戸建て79.8%、分譲マンション3.2%の合算)が「持ち家」に暮らしているという日本のシニア層の現実があります。
つまり、世間の大多数の高齢者にとって「老後の住居費」はすでに完済された固定費であり、だからこそ返済不安の割合(7.6%)も低く出ているのでしょう。そのようななかで、「家賃がかかり続ける賃貸暮らし」のまま老後も現役並みの浪費を続ければ、家計は全く異なるハイリスクなフェーズに突入します。
白書における高齢者(二人以上の世帯)の貯蓄分布を見ると、シンジさん夫婦の「5,200万円(退職金+貯蓄)」という手元資金は、貯蓄4,000万円以上の世帯(全体の18.8%)に属する、客観的には「勝ち組」でした。しかし、高齢者世帯の貯蓄現在高の中央値が1,604万円であるなか、家賃20万円を抱えたまま月70万円を消費する世帯(年間約400万~500万円の赤字)においては、どれほど潤沢に見える5,200万円の資産もわずか数年で溶けて中央値を割り込み、一気に「生活保護」を検討せざるを得ない極限の困窮へと転落します。ちなみに現状、70歳以上の生活保護率は3.03%です。
自分たちの個別具体的な「住居形態」と「固定費リスク」を現役時代から夫婦で共有し、家計を一本化しておくことができていれば、シンジさん夫婦も老後破産という深刻な事態に陥らずに済んだかもしれません。

