■州議会選で極右政党が大勝

ドイツ東部のザクセン・アンハルト州の議会選で、極右と言われる政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が大勝したことが話題となっている。9月6日に行われた州議会選でAfDは43.8%の票を獲得、定数83議席のうち39議席を得る見込みとなった。前回の州議会選での獲得議席は23議席だったから、ほぼ倍近く議席を増やしている。

写真=DPA/共同通信イメージズ
2026年9月7日、ザクセン・アンハルト州議会選挙の結果を受け、連邦記者会見で発言するAfDの連邦党首アリス・ワイデル氏(右)とティノ・クルパラ氏(左)、および同州におけるAfDの筆頭候補ウルリヒ・ジークムント氏 - 写真=DPA/共同通信イメージズ

対して、惨敗したのが与党である中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)だ。前回の州議会選では40議席を獲得していたが、今回はわずか15議席にとどまる見込みで、フリードリヒ・メルツ首相にとって厳しい結果となった。またCDUと大連立を組む中道左派の社会民主党(SPD)の獲得議席数も8と前回から議席が1つ減る見込みだ。

ザクセン・アンハルト州を含むドイツ東部の5州は、戦後、いわゆる旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)に組み込まれた歴史を持つ。その間、経済の発展が遅れたことで、今でも旧西ドイツの諸州に比べると所得水準が低いままであり、住民の不満が鬱積している。そうした旧東ドイツ側の住民が持つ不満を吸収する形で、AfDは成長してきた。

AfDはナチス時代を肯定する主張を展開していることでも知られる。ナチス時代の肯定は戦後のドイツ政治のタブーであるため、CDUやSPD、他の政党はAfDとの協力を一切、拒否している。今回のザクセン・アンハルト州の議会選でもまた、議席を得たいずれの党もAfDへの協力を否定しているため、AfDは組閣できないと予想される。

ところで、AfDはロシアと近く、党の高官が交流を重ねるなど独自の外交を行っている。一方のロシアは、ショルツ首相のもとでロシアに対して厳しい姿勢を強めるドイツをナチスだとして批判する。しかし、実際にナチス時代を肯定しているのはAfDである。このあたり、ロシアによる外交上のご都合主義が、かなり強く垣間見えるところだ。

■ドイツ全土で支持が広がっている

かつては旧東ドイツに限定されたこのAfD人気だが、今では旧西ドイツを含めたドイツ全土に広がっている。その最大の理由は、もちろん、これまでドイツ政治を牽引してきた二大政党であるCDUとSPDが、有権者が期待する成果をもたらしていないことにある。とりわけ経済面では、実質ゼロ成長が定着して長いことが大きいと言えよう。

コロナショックが生じた2020年を基準(100)とする実質GDP(国内総生産)の動きを確認すると、ユーロ圏全体の水準は直近2026年4-6月期時点で115まで上昇している(図表1)。これに比べると、ドイツはわずか106にとどまっている。参考まで、景気回復の勢いが弱い日本でも108だから、ドイツは日本以上に停滞している。

出所=EU統計局(ユーロスタット)、総務省統計局

特に2023年からの2年間、ドイツはマイナス成長を記録するなど景気の停滞がことさら深刻だった。オラフ・ショルツ前首相が率いたSPDを中心とする左派連立政権が行った諸政策、具体的には、野心的な引き上げを伴う最低賃金政策や再エネ発電に傾斜したエネルギー政策が、ドイツの国際競争力の低下につながったと考えられる。

経済的な文脈に限定すれば、2025年2月の総選挙で中道右派のCDUが政権に返り咲いたのは、それまでの左派連立政権による諸政策が、ドイツ経済の活性化どころか、停滞の長期化を生んだことが、有権者に否定的に評価された結果だ。しかしCDUも単独で組閣するだけの議席は獲得できなかったため、SPDという“毒”を飲んだ。

つまり、AfDと連立を組むことはできないという判断からCDUは姉妹政党であるバイエルンのキリスト教社会同盟(CSU)とともにSPDと連立を組んだが、その結果、CDUはショルツ前首相期の左派政策の修正に手間取り続けている。また左派政策の修正は、その実として国民生活に痛みを強いるため、有権者に不評でもある。

■極右政党に構造改革ができるのか

AfD人気と裏腹に、CDUとSPDの支持率は低迷が顕著である。2029年までに予定されている次回の総選挙では、AfDが第一党になる可能性が極めて高い。ドイツ政治の特性から、少数与党による単独での組閣は難しいため、他の政党が連立工作に応じなければ、AfDは結局、組閣できず、次の政権も非AfD連合による連立になるだろう。

ただでさえ、今の大連立でも、ドイツ政治は“決められない政治”に陥っている。それが非AfDのためだけに党派性が異なる政党が連立を組むなど、それこそ寄り合い所帯そのものであるため、現在よりも決められない政治が悪化することになるだろう。他方で、AfDが、停滞の深刻なドイツ経済の活性化に必要な政策を実行できるかも微妙だ。

ドイツは今、典型的なスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)の渦中にある。その改善のためには供給の刺激、つまりは規制緩和や減税などを通じて“小さな政府”を目指す必要がある。しかしAfDが主張する経済政策は、SPDが訴える左派政策と親和性が高い。左派政策は需要の刺激だから、スタグフレーションにはご法度だ。

2026年2月18日、マクデブルクで開催されたAfDの集会で、演説を行うウルリヒ・ジークムント氏(写真=MatthiasK2007/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

AfDはそもそもウクライナ支援に否定的である。そして、ウクライナの支援に回す所得があるなら、ドイツ国内、特に東ドイツのために使うべきだと主張する。移民・難民対策の厳格化も、その経済的・社会的コストをかけるくらいなら、そのコストは東ドイツのために使うべきだという主張である。これでは規制緩和などまず見込めない。

AfDは、確かに戦後ドイツ政治のスイングプレーヤーである。だからと言って、経済の文脈に限定すれば、AfDが今のドイツ経済の低迷を打破できる存在になるとは言い難い。仮に政権を奪取したとしても、それで国民の生活が豊かにならないのなら、民主制が機能する以上、AfDもまた人気が凋落し、議席を大きく失うことになるだろう。

■カギを握る現実政党化

隣国のイタリアでは、ジョルジャ・メローニ首相の在任期間が9月4日で1413日となり、戦後最長を更新した。メローニ首相が率いる右派の与党「イタリアの同胞」(FdI)もまたかつてファシスト党時代を肯定したことで知られるが、政権獲得以降は過激な主張を抑制し、首相の卓越したバランス感覚のもとで、現実路線を歩んでいる。

FdIと連立を組む右派・同盟(Lega)の支持率が低下し、そこから分派して急速に支持を集める新興右派「国の未来」の影もチラつく中、メローニ首相が右派回帰に転じる展開も否定できない。ただし、圧倒的なボリュームを持つ中間層を切り捨てることにもつながるから、メローニ首相は来年の総選挙を見据え引き続き現実路線を歩むだろう。

またフランスでも、2027年春から初夏にかけて大統領選と下院選が予定されている。大統領選への出馬を表明している候補のうち、人気が頭一つ抜けているのは、右派の国民連合(RN)を率いるマリーヌ・ル・ペン候補だ。そのル・ペン候補もまた、幅広い有権者の支持を得ようと、右派的なトーンを抑えて、現実路線を強めている。

AfDもまた、地方選での勝利を重ねる過程で現実政党化している側面がある。しかし本気で政権を取りに行くなら、さらなる現実政党化は避けられない。そうして現実政党化し、政権を取ったところで、ドイツ経済の活性化のために必要な構造改革をなしえることができる可能性は極めて低いだろう。それだけ、ドイツ経済の病理は深刻だ。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sankai

日本でも、自民党に限ったことではなく、耳に聞こえのよい政策だけを並べる政党が数多い。言うは易く行うは難し、が世の常である中で、有権者に求められるものは、どの国でも現実を見据えた冷静な判断にほかならない。事態を単純化したうえで、まるでそれが特効薬であるかのように過激な主張を展開する風潮には、要注意である。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)