「人工網膜」国内初の治験開始、電極チップ使い物の形を判別可能に…難病「網膜色素変性症」の失明患者対象
目の難病「網膜色素変性症」で失明した患者を対象に、大阪大などが「人工網膜」装置の国内初となる治験を始めた。
小型カメラを備えた眼鏡や目に埋め込んだ電極チップを使い、物の形を判別できるようにする。これまでの研究で一定の効果が確認されており、治験の結果を踏まえ、2028年度にも国に医療機器としての製造販売を承認申請する。
目が捉えた映像は通常、眼球の奥にある網膜の「視細胞」で電気信号に変換されて脳に伝わるが、この病気は視細胞が徐々に減る。国内には3万人以上の患者がいるが、有効な治療法はない。
装置は、小型カメラが捉えた映像を体外の画像処理装置で電気信号に変換。手術で網膜の近くに埋め込んだ約7ミリ四方の電極チップに信号を送り、脳に伝える。先行研究では、患者が物の輪郭や動きを捉えることができた。
治験は今年から始まり、阪大、愛知医科大、杏林大の3施設で、失明した患者計6人に実施する計画だ。1年間、経過観察し、安全性や視力の回復度合いを検証する。阪大の森本壮(たけし)准教授(眼科学)は「色の判別は難しいが、物の存在が分かるだけでも生活水準は飛躍的に向上する。患者に光を届けるため、実用化を目指したい」と話す。
角田和繁・東京医療センター視覚研究部長の話「装置は、実生活で使用できるレベルと期待される。実際に患者が知覚する画像の質がどのようなものになるか、成果を注視したい」
早期実用化に期待
大阪大などが治験を始めた装置は、網膜色素変性症で失明した患者の視力を改善させる可能性がある。治療法のなかった患者からは、早期の実用化を期待する声が上がっている。
人工網膜は2010年以降、研究が先行する欧米で製造販売が承認されたケースがある。だが、長期の使用により網膜が損傷するなどし、製造が中止された。
阪大は01年から、眼科用医療機器メーカー「ニデック」(愛知県蒲郡市)と人工網膜の開発に着手。14~16年、研究目的で患者3人に1年間装着してもらったところ、患者は白線の上を歩けるようになったり、卓上の箸と茶わんを見分けられるようになったりした。網膜損傷などの問題も起きなかった。
当時、研究に参加した神戸市の男性(73)は「目の前にある物がうっすら分かった時は、本当にうれしかった」と装置をつけた時を振り返る。
この病気に対しては、iPS細胞や遺伝子技術を用いた新たな治療法の開発も進められている。榊原さんは「わずかでも光が感じられれば前向きな気持ちになる。様々な治療法ができてくれれば」と一日も早い実用化を望んでいる。
