質のいい睡眠を得られる睡眠空間は何か。医療職インテリアコーディネーターで上級睡眠健康指導士の田口里奈さんは「住まいの色を意識的に選ぶだけで、心身は自然とリラックスモードへ向かう。イギリスの調査では、寝室の色によって睡眠時間に違いがあることが報告されている」という--。

※本稿は、田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/JZhuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JZhuk

■もっとも良質な睡眠が期待できる寝室の色

白を基調とした空間は清潔感を、コンクリート打ちっぱなしのグレーの空間はモダンな印象を与えます。また、茶色い丸太に囲まれたログハウスではぬくもりや温かみを感じるように、室内の色は私たちの感情に影響を与えるといえるでしょう。

実際に、イギリスのホテルグループ・トラベロッジが行った調査では、寝室の色によって睡眠時間に違いがあることが報告されています(※1)。この調査は2000件の家庭を対象に行われ、次のような結果が得られています。

出典=『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)

この調査で、睡眠時間が最も長かった色と短かった色とでは、約2時間もの差がみられています。睡眠時間は「自己申告型」ではありますが、この調査から、部屋の色が心理的な影響にとどまらず、身体面にも作用する可能性はあるといえるでしょう。

色が心理や行動に与える影響を「色彩効果」といいます。色彩効果は私たちの暮らしのさまざまな場面で活用されています。

たとえば、道路標識では危険を示し注意を喚起するために、目立つ赤色や黄色が使用されます。信号機でも「止まれ」を示す大切な色として、注意を向けやすい赤色が使われています。

また、牛丼店やハンバーガーショップなどのファストフード店には、赤色やオレンジ色がよく使われています。赤色やオレンジ色は、興奮や食欲を刺激し、早く食べたいという気持ちを促すとされています。注文量や店舗の回転率を上げる狙いもあるのかもしれません。

洗剤や歯磨き粉などのパッケージには、清潔感や爽快感を与えるとされる青色がよく使用されています。

このように、色は私たちの感情や行動、さらには生理的な反応にまで影響を与える力を持っており、上手に取り入れることで、より快適な暮らしを実現する手助けになると考えられています。次からは、快眠のためにおすすめの色をご紹介します。

※1 Travelodge UK. The Secret to a Good Night’s Slumber Is to Sleep in a Blue Bedroom. (2013,May 17)

■寝具売り場でよく見かける色

質のいい睡眠を得るためには、就寝時に心身ともにリラックスした状態でいることが大切です。身体がどれだけリラックスしているかは、ストレスホルモンともいわれる「コルチゾール」の分泌量や、心拍数の変化から客観的に把握することができます。

そして、目にする「色」によってこれらの生理的な指標に変化がみられることが、多くの研究で報告されています。

たとえば、色による脳波の変化を調査した研究では、青色の壁面を見ることで、リラックス時に現れるα波やθ波が増加することがわかっています(※2)。

また、色とストレスの関係を調査した研究では、青色のレンズを通して視界全体が青く見える状態の被験者にストレス刺激を与えた場合、透明なレンズを使用した場合と比べ、ストレス反応の指標である唾液中のコルチゾールの分泌が抑えられることがわかっています(※3)。

これらの結果から、私たちは青色を見ることでリラックス状態に近づき、ストレス反応を緩和する可能性があると考えられます。

写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ridofranz

青色は、先に紹介したトラベロッジによる調査でも、最も睡眠時間が長くなる色として報告されています。

実際に、客室やラウンジのインテリアへ青色を取り入れているホテルも多くみられます。また、寝具売り場でも青色系の布団カバーや枕カバーを目にする機会は多いのではないでしょうか。

私たちは無意識のうちに、癒しや安心感を求めて青色を選んでいるのかもしれませんし、寝具メーカーもそのような心理を踏まえて青色を多く展開しているのかもしれません。

■良質な睡眠を促すインテリアの種類

では、青色を取り入れてよりよい睡眠を得るためにおすすめのインテリアアイテムをご紹介します。

① 寝具

青色は寝具類に最も多く使われている色の1つです。高級寝具メーカーから、手頃なライフスタイルショップまで、さまざまな価格帯で青色系の寝具アイテムが展開されています。

寝室の中でもベッドは特に視線を集めるアイテムです。そのため、寝具カバーは、色を変えるだけで部屋全体の印象も大きく変わります。寝具カバーのほか、枕カバーやブランケットなどに青色を取り入れるのもおすすめです。

「青色」といっても、水色やネイビー、ストライプ柄やチェック柄など、さまざまな青色の寝具があります。自分の好みの青色を選べば、自分らしい癒しの空間を作れるでしょう。

② ラグ、カーペット

「おしゃれ」や「映え」のためのアイテムと思われがちなラグやカーペットですが、寝室にラグやカーペットを敷くのは良質な睡眠をとるためにとてもおすすめです。

フローリングとカーペットの上を歩いたときの脳波や皮膚インピーダンス(皮膚の電気的抵抗による緊張度の指標)を比較した研究では、カーペットの上を歩いたときのほうが人の体はリラックス状態に向かうことがわかっています(※4)。

ラグやカーペットは室内に占める面積が比較的大きいため、1枚敷くだけで部屋の印象を大きく変えることができます。青色系のラグを選べば、落ち着きをもたらすことができるでしょう。

寝室だけでなく、リラックスして過ごす部屋へラグを敷くこともおすすめです。

③ カーテン

寝室では夜の時間帯にカーテンを閉めて過ごすため、特に窓の面積が大きい部屋や、窓が複数箇所ある部屋は、カーテンの色が室内の印象を大きく左右します。

カーテンも色や柄、素材などのバリエーションが豊富なので、お気に入りの青色を見つけやすいアイテムです。

寝具やラグと色味やトーンを揃えることで、部屋全体が一体感のある印象になります。

※2 Bower IS, Clark GM, Tucker R, Hill AT, Lum JAG, Mortimer MA, Enticott PG. Built environment color modulates autonomic and EEG indices of emotional response. Psychophysiology. 2022 Dec;59(12):e14121.
※3 野村 収作. 青色のストレス反応抑制効果 ~唾液コルチゾールによる検証~ . 映像情報メディア学会誌. 2014;68(12):J537-J539.
※4 Hoki Y, Sato K, Kasai Y. Do carpets alleviate stress? Iran J Public Health. 2016 Jun;45(6):715-720.

■今ある家具を手軽にアレンジする

④ ソファ

ソファは、視覚的な存在感が強い家具です。青色は落ち着きがありながらも主張しすぎず、ソファの張地としても取り入れやすい色です。

ソファを買い替えずとも、今あるソファに青系のソファカバーやブランケット、クッションなどを追加すれば、手軽に青色を取り入れることができます。これらのファブリック類を使うことで、大型かつ比較的高額な家具を手軽にアレンジし、青色を活用したリラックス空間を作ることができます。

⑤ アート

田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)

アートも、青色を手軽に取り入れられるおすすめのアイテムです。

特に、海や空をモチーフにした写真や絵画は、情景からも色からも、リラックス感を与えてくれるでしょう。

アートの飾り方としては、大きな作品を1点だけ飾ることで空間にインパクトを与える方法や、小さな作品を複数枚並べて飾る「ギャラリーウォール」スタイルも人気です。

設置場所や部屋の雰囲気に合わせてサイズやレイアウトを工夫すると、より効果的に青色をインテリアに取り入れることができます。

⑥ 小物類

青色はアクセントとして小物類にも取り入れやすいです。

中でも、ガラス素材の花瓶や、陶器のオブジェは、素材の質感からも空間に涼しさや落ち着きを感じることができるでしょう。

■生活の中で自然と目に入るアイテムを青へ

そのほかにも、時計やフォトフレーム、リラックスして過ごすリビングであればテーブルクロスやランチョンマットなど、生活の中で自然と目に入るアイテムに青を取り入れるのもおすすめです。小物類は気軽に取り入れたり入れ替えたりしやすいため、インテリアのテイストや季節、気分に合わせて自由に楽しむことができます。

以上のように、住まいの色を意識的に選ぶだけで、心身は自然とリラックスモードへ向かいます。まずは手軽な小物や寝具カバーから、快眠をもたらす「青色」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

----------
田口 里奈(たぐち・りな)
医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士
2012年薬学部卒業後、薬剤師として薬局に勤務。10店舗以上での経験を通じ、幅広い年代の患者と向き合う中で、多くの人が睡眠に悩みを抱えている現状を知る。2016年、町田ひろ子アカデミー インテリアコーディネーターコースに入学。インテリアコーディネーター資格を取得し、卒業後は医療職と並行してインテリアコーディネーターとしてのキャリアをスタートさせる。医療とインテリアの両分野で仕事を続ける中で、睡眠が「空間」にも大きく影響されることに着目。2021年、上級睡眠健康指導士資格を取得。現在は、エビデンスに基づく睡眠・健康知識をインテリアに落とし込んだコーディネートを中心500件以上提案。ウェブメディアを中心に、記事の執筆も多数行っている。
----------

(医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士 田口 里奈)