「茨城のゴールドコースト」消滅の衝撃…砂浜が6割消滅する2100年、不動産価値の暴落も
国内の海水浴場が次々と消滅へ
茨城県鉾田(ほこた)市は今夏、「茨城のゴールドコースト」と呼ばれるほどの長い砂浜と景観で海水浴客に親しまれてきた「大竹海岸鉾田海水浴場」の設置を見送った。波による侵食で砂が削り取られ、砂に覆われていた護岸用のコンクリートブロックも露出するなど、安全に海水浴を楽しめなくなったことが理由である。
危機に瀕しているのは「茨城のゴールドコースト」だけではない。
新潟県上越市の海岸は年間約2mのペースで砂浜が後退しており、相模湾に面した湘南エリアの海岸も想定以上のスピードで砂浜の侵食が進んでいるという。
国土交通省の調査では主要河川の土砂供給量は過去100年間で約50%減少したと推定されており、日本観光振興協会の調べでは1993年に1379ヵ所あった国内の海水浴場が’24年には969ヵ所になったと報告されている。砂浜の侵食に加え、管理者の高齢化なども相まって、海水浴場の閉鎖は全国に及んでいるのである。
砂浜が消滅する「本当の原因」
「砂浜の侵食がニュースなどで取り上げられることが増えましたが、ここ数年で起こっていることではないんです。すでに30年も40年も前から専門家たちは警鐘を鳴らし続けているのです」
こう語るのは、海洋環境工学を研究している茨城大学の横木裕宗教授である。横木教授が海洋環境工学に取り組み始めたのは30年ほど前。茨城大学に赴任して「昔はもっと砂浜が広かった」と聞いたからだという(以下、「」は横木教授)。
いったいなぜ、日本の美しい砂浜は姿を消していくのだろうか。
「砂浜は、川から運ばれてきた土砂が河口に堆積することで形成されます。それがダムができたり、浚渫工事で川から土砂をとったりすることで、河口に運ばれる土砂が少なくなってしまった。その一方で、砂浜の砂は波によって毎日少しずつ削り取られていく。運ばれてくる土砂より、削り取られる砂が多くなった結果、砂浜は徐々に侵食されていったのです」
長さ1kmの巨大防波堤も無力
砂浜が減っていく現実を前に、専門家たちもただ手をこまねいていたわけではない。
「30年ほど前、“波によってもっていかれる砂をできるだけ残そう”と考えて防波堤を作り、砂浜を守ろうとしました」
侵食のスピードは落ちたが、長くは続かなかった。防波堤の脇にたまった砂は、やがて防波堤を越え、流れていってしまうのだ。ならば、もっと長い防波堤を作ればいいのではないかと茨城県は「ヘッドランド」と呼ばれる巨大な防波堤を建設した。長さ1kmにも及ぶ構造物だが、これも時間の問題で、いつかは砂が越えていく。
「ヘッドランドも根本的な解決策にはなりませんでした」
資産暴落も? 砂浜消滅が招く危機
砂浜が失われることは、単にレジャーの場が消えることだけを意味しない。
「砂浜は緩やかな傾斜になっているので、波が徐々に砕けていき、家や道路を高波から守ってくれます。『自然の防波堤』と呼ばれるゆえんです。生物の生息地としても、重要な役割を担っています」
’22年の環境省の調査によると、ウミガメの産卵地として知られる砂浜の約40%が過去50年で狭小化しているという。
このままでは2100年には最大60%の砂浜が消失するともいわれている。
神奈川県の茅ヶ崎市は「養浜」という事業に並々ならぬ力を入れている。土砂を別の場所から運んできて砂浜に投入する事業だ。同市では1975年ごろから砂浜の侵食が激しくなり、50年間で50mも波打ち際が後退した場所もあった。景観の悪化はもちろん、高波が海に沿った国道を襲うこともあったからである。海沿いのリゾートマンションの資産価値が暴落するリスクや、災害時に防波堤が失われる可能性も懸念されている。
砂浜を守る「新時代」の対策とは
養浜材に使われるのは、相模ダムに堆積した土砂と茅ヶ崎漁港西側に堆積する海砂だ。ダムの堆積土砂は直接砂浜に投入するのではなく、相模川中流に置砂し、川の流れに任せて海まで流す自然な方法がとられている。ダムから運ぶ土砂は年間3万m³。これを’06年から毎年続けているというから、途方もない労力である。
相当な税金が投入されていると思われるが、現代社会においてダムや川の護岸工事は不可欠だ。私たちはこの問題にどう立ち向かえばいいのだろうか。
「最近ではダムにバイパスを作って土砂を流す技術も研究されていますが、今できることは、ダムなどに堆積した土砂を投入するサンドバイパス。波によって動かされた砂が堆積しているところから砂浜に戻すサンドリサイクルのふたつ。
これらを毎年ではなくても、3年ごと、5年ごとに行う。砂の流れをコントロールすることが必要なのではないかと思います。費用はかかりますが、構造物を建設するより安価ですみます」
▼横木裕宗(よこき・ひろむね) 茨城大学工学部長・大学院理工学研究科長。学術研究院応用理工学野都市システム工学領域教授。専門は、気候変動対応策、地球・海岸環境工学。とくに気候変動に対する影響評価と適応策を研究している。現在は海岸工学、環境工学などという専門分野に関係なく、世の中の役に立つことをやろうと考えている。
取材・文:中川いづみ
