「まんじゅうや」は無効票で「ヒゲ」は有効票に? 1票巡る法廷闘争 裁判所が判断を分けた理由

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2025年に行われた茨城県神栖市の市長選をめぐって、「まんじゅうや」「だんごさん」と書かれた票が無効かどうか争われた裁判で、東京高裁は3日、これらの票を無効として、木内敏之市長の当選を取り消す判断を示した。

なぜ「まんじゅうや」はダメか

2025年11月の神栖市長選挙では、新人の木内敏之氏と現職の石田進氏の得票が1万6724票で同数となり、くじ引きで木内氏が当選した。

しかしその後、石田氏側の申し立てを受けて審査した県の選挙管理委員会は、神栖市の選挙管理委員会が「木内氏の有効票」と判断した「まんじゅうや」「だんごさん」と記載された2票について、有効票と認めず木内氏の当選を無効と裁決した。

これを受け木内氏は、実家は和菓子の老舗「木内製菓」で、これらの通称で呼ばれていたなどとして、東京高裁に裁決の取り消しを求める訴えを起こしていた。

東京高裁は3日の判決で、『まんじゅうや』や『だんごさん』はあくまで普通名詞と認定。「木内氏を一定の範囲で連想させる事はありうる」としながらも、「神栖市内には、まんじゅうやだんごを扱う主な和菓子屋が少なくとも9軒あり、木内製菓が独占状態にあるとの事実までは認められない」とも指摘した。

“いずれの地においても”通称となっているか

裁判所はその上で、神栖市が相応の規模の自治体であることも加味して、「『だんごさん』や『まんじゅう』との呼称が、木内氏の本名に代わるものとして神栖市内のいずれの地においても慣習的に使用され、当該通称であればそれを指すのが木内氏であることが明らかであるとはいえない」として投票は無効と判断。

木内氏の訴えを棄却し、当選無効の裁決は有効との判決を下した。

選挙が接戦となると、こうした1票が有効か無効かで、立候補者の人生やその地域の未来に大きな影響を及ぼす事があり、これまでもこうした争いが法廷に持ち込まれる事はあった。

「バンド ヒゲ」は有効か

有名な裁判としては、2005年の徳島県鳴門市の市議会議員選挙を巡るものがある。

この選挙では、最下位当選者の坂東成光氏と次点の立候補者が1票差という僅差だった。

次点の立候補者は、坂東氏の有効票の一部に無効票があるとして不服の訴えをしたのだ。その有効票には「バンド ヒゲ」と記載されていた。

裁判所は、坂東氏は遅くとも1985年ころから髭を生やしており、鳴門市議会議員に初当選した1991年頃から、他の議員や鳴門市職員の一部から「ヒゲさん」と呼ばれていたと認定。

また、1999年に名字の読み方が同じ「ばんどう」の別の議員が当選し、「ばんどうぎいん」が2人になったことから、市議会関係者や市職員の間では、坂東成光氏を「ひげさん」と呼ぶ者が増えたとも認定した。

選挙カーで「ヒゲ」ポスターにも「ヒゲ」

また選挙ポスターにヒゲの男性のイラストやヒゲを蓄えた本人の写真を使うなどヒゲをトレードマークとして使っていたとも認定。

さらに、争いになった選挙の現場でも、選挙カーから「ヒゲの坂東」「ヒゲの男坂東」などと連呼し、近隣住民からも「ヒゲの坂東」「ひげさん」などと呼ばれていたことも指摘した。
そして、他の候補者には 「バンド ヒゲ」という名前に該当する候補者はおらず、選挙公報で髭を蓄えた写真を使ったのも坂東氏だけであったという。

「バンド」は「バンドウ」

その上で、「バンド」は「バンドウ」の「ウ」が脱落したとみるのが相当と判断。また坂東氏がヒゲを強調する写真やイラストを使い、後援会や親戚、近隣住民や議員、市職員からも「ヒゲさん」と呼ばれていたこと、選挙中の「ヒゲ」連呼、さらに市選管も「坂東ひげ」と書かれた票が投票される可能性をあらかじめ想定していた事などを指摘し、坂東氏がヒゲをトレードマークにしていて、鳴門市内の多くの市民において「ヒゲ」が坂東氏の通称になっていたと認定した。

「バンド ヒゲ」は有効

訴えを起こした次点候補者側は、「ヒゲが通称といえるためには、開票区内のいずれの地においても慣習的に使用されている状態でなければならない」と主張していたが、裁判所は「通称はその者を知るか、少なくともその者について何らかの知識や情報を持つ人によって初めて使用し得るのであるから原告の上記主張は採用することができない」と退けた。

その上で、「バンド ヒゲ」票について、「坂東成光候補の氏名の一部である『バンド』と同人の通称である『ヒゲ』を併せて記載したものと認められる」と認定。

公職選挙法67条により「その投票した選挙人の意思が明白」である場合に該当するとして、「有効投票と認めるのが相当である」と判断したのだ。