“食後の強烈な眠気”は危険信号?「血糖値スパイク」の恐怖と『24時間管理』技術で始める【糖尿病】予防

「血糖値スパイク」という言葉を耳にしたことがある人は少なくないでしょう。血糖値スパイクは、食後の眠気やだるさと関連することがあり、さらに血管内皮機能や酸化ストレスへの影響を通じて、動脈硬化や生活習慣病リスクと関係する可能性が指摘されています。しかし、空腹時に採血を行う通常の健康診断では見つかりにくいという課題があります。
日本の糖尿病有病者数は約1100万人、予備群を含めると約1800万人にのぼり、もはや国民病といっても過言ではありません。そのようななかで、血糖値の変動を24時間可視化する「持続血糖モニタリング(CGM)」技術の進歩により、CGMの予防的活用に注目が集まっています。そこで今回は、血糖値スパイクの基礎知識からCGMの仕組み、実装の可能性などについて、3人の専門家陣と堀江貴文氏の講演およびディスカッション内容からお届けします。


西野輝泰(医療法人社団有洸会理事長 医師)

順天堂大学医学部卒業、医師免許取得。米国の医療機関での研修を経て、医療法人の理事長やヘルスケア関連企業の代表取締役を歴任。日本形成外科学会会員、日本整形外科学会会員。医師の知見と経営者の視点から予防医療の普及に取り組んでいる。

瀬川洋樹(Kakao Healthcare Corp.パートナーシップアドバイザー)

早稲田大学法学部卒業後、三井物産株式会社に入社。海外の医薬品・ヘルスケア関連事業に従事し、韓国でのヘルスケア事業本部長やヘルスケアIT企業のCEOなどを歴任。現在はKakao Healthcare Corp.のパートナーシップアドバイザーとして、CGM連動型アプリの日本展開に携わっている。

村上友太(元東京予防クリニック院長)

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長、東京予防クリニック院長を歴任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本健康経営専門医。

堀江貴文(実業家/一般社団法人予防医療普及協会理事)

一般社団法人予防医療普及協会理事。SNS media & consulting株式会社ファウンダー。自身もCGMを装着して血糖変動を体験し、予防医療の啓発に活かしている。

健診“異常なし”でも安心できない? 見過ごされる『隠れ高血糖』の正体

食後30~90分後に襲ってくるだるさや強い眠気、食後2~3時間で再びぶり返す空腹感は多くの人が経験しているのではないかと思います。その背景には、血糖値が急上昇し急降下する「血糖値スパイク」という現象が潜んでいます。
空腹時血糖が正常でも、食後に血糖値が大きく上がる人がいます。一般に「隠れ高血糖」と呼ばれることもあり、耐糖能異常や糖尿病予備群が背景にある場合もあります。つまり、糖尿病と診断されていなくても、食後に血糖値が大きく上がり下がりする状態が続くと、血管や代謝に見えない負担がかかる可能性があります。食後高血糖や血糖変動は、酸化ストレスや慢性炎症、血管内皮機能の低下と関連し、動脈硬化の進行に関わることが指摘されています。さらに、こうした代謝の乱れは、老化関連疾患や一部のがんリスクとも無関係ではありません。

健康診断で一般的に測定されるヘモグロビンA1c(HbA1c)は、主に過去1~2カ月、広くは約2~3カ月の平均的な血糖状態を反映する指標です。ただし、平均値であるため、食後の急上昇や夜間・日中の細かな血糖変動までは把握できません。実際に、糖尿病患者さんのデータからも、血糖変動が大きいと合併症リスクが高まることが知られています。健康診断では基本的に空腹の状態で血液検査をするため、食後にスパイクが起きているかどうかはわからないのです。そのため、空腹時血糖やHbA1cだけでは見えにくい血糖変動を把握する手段として、CGMが役立つ可能性があります。

『24時間管理』がもたらす血糖値の“見える化”―CGMはヘルスケアツールへ

見えないリスクを可視化する手段としてCGMという技術は非常に注目されています。CGMは、腕やお腹に小型のセンサーを装着し、24時間リアルタイムで間質液中のグルコース濃度(血糖値の目安)の変動を把握できるツールです。スマートフォンやスマートウォッチに計測データが自動転送され、機種によっては、血糖値が急降下した際には緊急アラートが鳴ることで低血糖の重症化を防ぐ機能を備えているものもあります。

CGMの最大の特長として、食事に対する血糖反応の個人差が明確になる点が挙げられます。たとえば同じおにぎりを食べても、血糖が急上昇する人もいれば緩やかにしか上がらない人もいます。年齢、体型、筋肉量、運動習慣、睡眠、食事内容などによって血糖反応は変わります。一見健康そうに見える人でも、食後の血糖上昇が大きい場合があります。そのため、健診で「問題なし」と言われた人でもスパイクが生じている可能性があるのです。このほか、血糖値が目標範囲内にある時間の割合を示す「Time In Range (TIR) 」という指標にも注目が集まっています。

さらに、CGMの活用により健常者でも体重減少や倦怠感の改善、集中力の向上などが報告されているほか、アスリートがパフォーマンス向上のためにCGMを導入する事例も増えています。すなわちCGMは今や糖尿病患者さんのための「治療ツール」から、糖尿病予備群や健康意識の高い人の生活習慣改善を支援する「ヘルスケアツール」としても注目されています。

海外で広がる“予防”目的での『CGM連動アプリ』

海外では、CGMを糖尿病治療だけでなく、生活習慣改善や代謝ヘルスの可視化に活用する動きが広がっています。たとえば米国では、処方箋なしで購入できる一般向けCGMが登場し、糖尿病ではない人が食事や運動による血糖変化を把握するための製品も出てきました。また、韓国などではCGMと連動する健康管理アプリも登場しており、予防医療の文脈での活用が進みつつあります。どのような食事で血糖値が変動しやすいのかを可視化し、次の行動につながるようサポートします。アプリ利用者は数十万人規模との報告もあります。つまり、「一定数のCGMセンサーが予防目的で活用されている」というわけです。

「注目すべきは、販売されたセンサーの多数が糖尿病患者さんではなく、予防目的で購入した一般生活者であった」と瀬川氏は説明します。利用者の中には、短期間の生活改善を通じて体重や体調の変化を実感したという声もあったと述べました。

また、ある企業では従業員にCGMを装着してもらいスクリーニングを行ったところ、自身では健康だと考えていた人の中にも血糖変動の課題が見つかったといいます。このように従来の健康診断だけでは把握しにくいリスクが可視化されたことで、職場の食環境を見直すなどの改善行動につながった例もあります。
このほか、以下のような場面でCGMの導入が始まっています。

・人間ドックでのオプション検査として導入
・ダイエットクリニック(自由診療)での活用
・クルーズ船でのウェルネスプログラム
・リゾートホテルの健康増進プログラム
など

このように、治療目的だけでなく予防や健康管理の分野での活用が広がりつつあります。

【座談会】“血糖値の見える化”をインフラに―『社会の仕組み』で進める糖尿病予防

ここからは、実際にCGMを活用している堀江貴文氏と三者によるディスカッションをお届けします。

堀江貴文:
私はCGMを20日間使用してみて、昼食にパンやうどん、米を食べたくなくなりました。低糖質を謳う麺類を食べてもスパイクが起こりましたし、玄米やお寿司を食べても血糖値が上がったのです。

村上友太:
玄米は同量の白米よりは血糖値が上がりにくいものの、量と食べるスピードによっては血糖上昇に影響します。ゆっくり食べることがとても大事です。

堀江貴文:
CGMを装着してから、お菓子類に関しては一切食べなくなりました。食事の選び方そのものが変わったことが、CGM装着後の一番大きな変化ではないかと感じています。

村上友太:
糖尿病予防という意味では、食事・運動・睡眠を整えることが基本です。ただ、これからは「生活習慣だけで頑張る」だけではなく、リスクが高い人にどの段階で医療介入するかも重要なテーマだと思います。SGLT2阻害薬はもともと糖尿病の薬ですが、今では心不全や腎臓病の領域でも使われており、単なる血糖降下薬ではなく、心臓や腎臓を守る薬として見直されています。もちろん健常者が自己判断で飲む薬ではありませんが、CGMでリスクを可視化し、生活習慣を変え、それでもリスクが高い人には医療として次の一手を考えるという先制医療の発想が、今後の糖尿病予防では重要になると思います。健常者や糖尿病予備群の生活習慣チェック目的であれば、CGMを10~14日程度の装着でも、食事・運動・睡眠と血糖変動の傾向を把握する参考になります。必要に応じて、半年から1年ごとに再評価する方法も考えられます。

堀江貴文:
CGMを装着すると血糖値スパイクがリアルに見えるので、健康意識がとても高まります。政府が健康寿命を延ばすという方針を掲げている中で、もっと支援制度を設けてもよいのではないかと個人的には思います。

瀬川洋樹:
CGMによって、将来的な医療費削減効果の試算データが出始めている国もあります。今後、費用対効果や長期アウトカムを検証するデータが必要ですが、予防目的でセンサーを配布する先行投資が、将来的に大きな医療費削減につながる可能性があります。

西野輝泰:
医療費の観点から見ると、糖尿病治療で最も大きな負担となっているのは、糖尿病性腎症が悪化して人工透析に至るケースです。もちろん透析を減らすための重症化予防は不可欠ですが、さらに手前の段階、つまりCGMなどで『隠れ高血糖』などを早期に発見し、糖尿病そのものの発症を防ぐことができれば、将来的な医療費削減へのインパクトはさらに大きくなります。そうした予防介入の長期的な費用対効果をデータで示すことができれば、政策としても十分に説得力があると考えています。

堀江貴文:
医療費がどれくらい減るかのシミュレーションデータを持って、政府に提言していきたいですね。予防医療普及協会として、厚生労働省や政治家への働きかけを進めていきます。

瀬川洋樹:
海外ではCGMの一般向け製品(OTC)も登場し始めています。日本での普及拡大には規制当局の判断も重要になりますが、予防目的でCGMを使うことの社会的な意義はとても大きいと考えています。

編集後記

「血糖値スパイク」は、通常の空腹時採血やHbA1cだけでは見えにくい血糖変動の一つです。食後高血糖や大きな血糖変動は、血管内皮機能、酸化ストレス、動脈硬化リスクと関連する可能性が指摘されています。CGMは、こうした血糖変動を可視化し、一人ひとりに合った食事・運動・睡眠習慣を見直す手がかりを与えてくれるツールとして進化を続けています。海外では予防目的でのCGM活用がすでに広がりを見せ、日本でも普及に向けた議論が始まりました。まずは日々の食事が体に与えている影響に目を向けることこそ、糖尿病予防の第一歩になるかもしれません。