〈回転ずし大手3社に異変〉スシローは値段を上げても客数増、かっぱ寿司は「90円」で攻勢…くら寿司が仕掛ける一手は?
回転ずし店「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)が、テイクアウト寿司などを扱う京樽を売却する。F&LCの業績は極めて好調で、回転ずし業界の中でもその強さが際立っている会社だ。品質や価格、話題作りなど、総合力の高さが強さの背景にある。かっぱ寿司も低価格戦略で客数を増やしている。いっぽうで、力強さを欠くのがくら寿司だ。
客数と客単価の引き上げに成功しているスシロー
F&LCが京樽の全株を譲渡するのは2026年9月1日となる見込みだ。京樽の株式譲渡に伴い、F&LCは同事業を非継続事業として扱い、約200億円の売上収益を継続事業の業績から除外する。それでも2026年9月期の売上収益予想5050億円を据え置いた。
このことが、「スシロー」の足元の好調ぶりをよく物語っている。国内事業、海外事業ともに拡大している点が大きい。特に国内における集客力の高さが際立っている。客単価を上げても客数が衰えることがないのだ。
2026年7月の客数を見ると、スシローは前年同月比で3.7%増、かっぱ寿司が同6.0%増、くら寿司が11.4%減だった。かっぱ寿司の集客力が高いが、客単価は1.7%減少。いっぽうのスシローは3.9%増加した。つまり、スシローは客単価を上げつつ客数も前年を超過。かっぱ寿司の低価格施策が客数増を後押しした可能性がある。
かっぱ寿司は7月2日~8月7日の平日限定で、対象メニュー税込90円という破格のキャンペーンを実施。また、「北欧サーモンいくら包み」を税込110円、「うに軍艦」は税込190円で提供するなど、価格訴求力の高いキャンペーンを行なってきた。
スシローも今年7月は「天然のどぐろの炙り 2貫」を税込110円で提供するなど、定期的に割安商品を扱ってきた。しかし、今年に入って客単価は一度も前年割れしていない。
違いはどこにあるのだろうか。単純に商品のクオリティの差だけで説明するのは早計だろう。例えば各社の原価率を見ると、F&LCとくら寿司は40%台前半、カッパ・クリエイトは40%台後半で推移している。もちろん原価率だけで品質を比較することはできないが、かっぱ寿司が極端に原材料費を抑えているわけではない。
「のどぐろ2貫」110円のインパクトは大きいが…
スシローの強さはバランス力の高さだ。コストパフォーマンス重視の時代に合ったビジネスを展開している。
例えば、のどぐろは人気の高級魚だ。「天然のどぐろの炙り 2貫」税込110円という価格設定は、集客フックとしての力がある。つまり、目的来店を促しやすい看板商品になる。
しかも、この商品は「年に一度の別格まぐろ祭」で展開されたものだ。このフェアでは、「厳選 天然本鮪とインド鮪味比べ」税込1280円~、「厳選 天然本鮪大とろ」税込360円~など、割安な商品だけではない豊富な商品展開をしている。
価格にメリハリをつけているのだ。
また、このフェアは静岡の鮪問屋「八洲水産」とタッグを組んで開催したもの。マグロをマイナス70℃という超低温で保管して酸化を防ぐなど、品質管理が徹底していることで知られる問屋とのコラボレーションなのだ。
スシローは価格訴求力の強い商品と、その場所でしか食べられない独自性のある商品をバランスよく組み合わせ、有力な水産会社との協業や名店とのコラボレーションによるストーリー作りと複合的な価値提供を行なっている。
「安いから」ではなく、「安いものも含めたいいものが食べられるから」店に足を運ぶというブランド形成が、客数と客単価の双方を伸ばす一因になっていると考えられる。
コストパフォーマンスの高さとは、単に価格が安いことではない。支払った金額以上の価値を感じられるかどうかだ。その消費者意識に最適化していると言えそうだ。
弱点を克服したかっぱ寿司の行き先は?
かっぱ寿司は長い時間をかけてリブランディングに取り組んできた。シャリやネタの品質を上げ、店舗の改装も段階的に行なってきた。弱点を克服することに力を注いできたのだ。
リブランド前のかっぱ寿司は、価格訴求力を最大の武器にしてきた。しかし、当時は現在以上に低価格を実現するためのコスト管理を重視していたとみられる。2008年ごろの原価率は30%台後半で、同時期に40%台後半だったくら寿司とは10ポイント前後の開きがあった。
現在のカッパ・クリエイトの原価率は40%台後半まで上昇しており、商品にかけるコストという点でも当時とは状況が大きく異なる。
かっぱ寿司は2017年に食べ放題を導入したが、その狙いの一つには、リブランディングで向上した商品の品質を消費者に知ってもらうことがあった。2017年に食べ放題を初めて提供する際、以下のようにアナウンスしている。
「リブランディング以来、ネタの品質向上に取り組んでまいりました。「食べホー」では通常提供している商品と全く同じ品質の商品をご提供しております。美味しくなったかっぱ寿司のお寿司を、思う存分ご堪能いただけます。」
提供品質には自信を持っていたが、現在は低価格化へと傾斜しているように見える。しかし、低価格化による客数の増加は危うさを秘めている。その成功体験から抜け出せなくなることがあるからだ。
くら寿司は客数の減少が顕著だ。2026年の客数は5月以外の月はすべて前年を下回っている。特に6月、7月は10%以上も減少した。前年同月に実施した大型コラボの反動など、特殊要因があったことは確かだが、力強さには欠けている。
くら寿司では客単価が上昇する一方、客数の前年割れが目立っている。今年度上半期は客単価が5.4%増加したのに対し、客数は3.9%減少した。9月4日からは価格改定を実施。「サーモン」などを税込115円から税込120円に値上げ。いっぽうで一部商品を値下げして価格のバランスを調整した。
くら寿司はスシロー以上に、価格変更がファミリー層の来店判断に影響する可能性がある。くら寿司は「ビッくらポン!」など子どもが楽しめる仕掛けを強みとしており、会社自身もファミリーでの利用が多いと説明している。
ファミリーの場合、1皿のわずかな値上げであっても、トータルの支払い額は大きくなりがちだ。しかも、子どもを持つ家庭ほど節約志向は高い傾向にある。9月からの価格調整で客数がいかなる変化を見せるのかは、くら寿司が今後進む道を占うものになるだろう。
「安いから行く」のではなく、「この価格でこれだけのものが食べられるから行く」。消費者にそう思わせることができるかどうか。値上げが避けられない時代において、この違いが回転ずし各社の明暗を分け始めている。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock
