電車止めて「何分遅らせたか」競う…暴走「撮り鉄」少年7人、鉄道弁護士「指導で終わらせてはいけない」
電車の非常用ドアコックを操作したり、遮断機が下りている踏切に立ち入ったりして、電車の運行を妨害したとして、中高生の少年7人(14〜17歳)が威力業務妨害や偽計業務妨害などの疑いで書類送致などされた。
朝日新聞によると、7人は地元の知人やSNSでつながった撮り鉄グループで、いずれも容疑を認めているという。
県警の取り調べに「電車を止めることでどれくらい遅延させたかを競っていた」「電車が遅れた理由が自分であることを自慢したかった」「鉄オタ仲間に見せる動画作りや話題作りだった」などと述べたという。
TBSによると、複数の少年の携帯電話には「日曜の朝、埼玉に集まろうか」「電車を止めよう」などのメールのやりとりが残されていた。また、SNSのグループでは、電車の遅れを知らせるアナウンスを撮影した動画を共有していたという。
この事件が報じられると、SNSでは鉄道ファンからも批判の声が上がった。「電車が好きなはずの人がなぜ電車に迷惑をかけるのか」「真面目に鉄道を楽しんでいる人にも失礼だ」といった声だ。
少年たちは書類送致などされ、8月19日までに捜査は終結したという。
こうした中で注目されているのが、電車を緊急停止させる行為を指す「テモキン」といった隠語だ。動画投稿サイトには、この言葉を添えて、電車が緊急停止する様子を映した動画が投稿されている。
電車が好きなはずの人が、なぜ自ら電車を止めるのか。鉄道にくわしい甲本晃啓弁護士に聞いた。
●「世の中を動かした」という手応えが目的か
──報道によると、少年らは「どれくらい遅延させたかを競っていた」「自分が遅延させたことを自慢したかった」と話しているとされます。電車が好きなはずの人が、電車を止めるという正反対の行為に向かってしまうのはなぜでしょうか。
まず、「電車が好きなはずの人が、なぜ」という問いの立て方には、少し注意が必要だと考えています。
今回の事件の中心にあるのは鉄道への愛好ではなく、「自分が世の中を動かした」という影響力の実感を求める心理だとみています。
有名人への殺害予告やイベントの爆破予告などにもみられる構造で、わずかな操作で多数の人や巨大な組織が動く、その手応え自体が目的になってしまう類型です。
そこにSNSが加わると、「何分遅らせたか」という数字がそのままスコアとなり、仲間内で競争が生まれます。鉄道の知識も、どうすれば列車が止まるかを知るという点で作用したのでしょう。
従来の「行き過ぎた撮影」は、良い写真を撮るという目的のために手段が暴走したものでした。
今回は止めること自体が目的で、遅延そのものが成果になっている点で質が違います。ただし、緊急停止の様子を撮影して仲間に見せるためであれば、従来の迷惑撮影とも地続きです。
いずれにせよ、突出した一部の行為であり、撮り鉄や鉄道ファン一般の問題として語るのは不正確だと思います。
●「隠語」で拡散される迷惑行為、その法的リスク
──撮り鉄の一部では、電車を緊急停止させる行為を「テモキン」と呼ぶ隠語があるとされています。
「テモキン」という呼び方は、私は知りませんでした。仲間内だけで通じる隠語は、行為を軽い遊びのように見せ、心理的なハードルを下げます。
さらに動画として共有されれば、手口の教材になるだけでなく、再生数や高評価という報酬まで生まれてしまいます。
──非常用ドアコックの操作、踏切の非常ボタンの押下、線路への立ち入りは、法的にどう評価されますか。
緊急停止ボタンやドアコックなどの非常用設備を使って運行を止める行為は、具体的な態様によって、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪が成立します。いずれも3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。また、線路内への立ち入りは鉄道営業法にも触れます。
また、14歳以上であれば刑事責任を問われます。少年事件として家庭裁判所に送致され、保護処分が選択されることがありますが、「未成年だから犯罪にならない」ということではありません。
民事の責任能力は刑事の14歳より低く、小学校高学年ごろから認められます。賠償責任は本人が負い、保護者は監督に落ち度があった場合に限って責任を問われます。
●損害賠償請求という「抑止力」
──こうした行為を防ぐために、どのような啓発や取り組みが有効でしょうか。鉄道会社はきちんと損害賠償を請求すべきという意見もあります。
最も大切なのは、注意や指導だけで終わらせないことです。今回、千葉県警が立件し、捜査を終結させたことには大きな意味があります。
故意に列車を止めれば犯罪として捜査され、法律に基づく処分を受ける。そのことが明確になること自体が、大きな抑止力になります。
鉄道会社としても、他の利用者への迷惑を顧みない故意の事案については、振替輸送の費用、要員の手配や係員の人件費など、現実に生じた損害を精査したうえで請求していくことが重要だと思います。
実際に全額を回収できるかという問題はありますが、こうした迷惑行為には実際に損害賠償が請求され得るという運用が定着すること自体に、相応の抑止効果があると考えます。
【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
弁護士・弁理士。甲本・佐藤法律会計事務所共同代表。東京大学大学院修了。研究者としての経験を基盤に、知的財産法務とアカデミック法務を専門とする。著作権、特許、商標に強みを持つ。『ワーケーション弁護士』を商標登録し、鉄道や船、自転車で各地を巡りながら働くスタイルを実践している。
事務所名:甲本・佐藤法律会計事務所
事務所URL:https://ksltp.com/

