夜ぐっすり眠るにはどうすればいいか。順天堂大学医学部特任教授の小林弘幸さんは「寝る直前まで食事をしたり、スマホを見たりしてはいけない。睡眠の質は、入眠前3時間の行動が左右する」という――。

※本稿は、小林弘幸『メンタルは肉体が9割』(宝島社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

■とにかく大事なのは「入眠前の3時間」

メンタルを安定させるうえで、睡眠は最も大切な土台の一つです。

どれだけ前向きに考えようとしても、どれだけ体によい習慣を取り入れようとしても、睡眠が乱れていれば、心は安定しにくくなります。睡眠中に体は回復し、脳は情報を整理し、自律神経のバランスも翌日に向けて整えられていくからです。

睡眠不足の状態では、交感神経が高ぶりやすくなります。朝起きても疲れが抜けない。小さなことでイライラする。判断力が落ちる。甘いものや刺激の強いものが欲しくなる。こうした状態は、睡眠によって体が十分に回復できていないサインです。

では、よい睡眠のために何を意識すればよいのでしょうか。

ポイントは、入眠前の3時間にあります。眠るためには、体を休息モードへ切り替えていく、つまり日中に優位になっていた交感神経が少しずつ落ち着き、副交感神経が働きやすい状態をつくることが大切です。

ところが、寝る直前まで仕事をしている。スマートフォンで動画を見続けている。遅い時間に重い食事をとっている。お酒を飲みすぎている。こうした過ごし方をしていると、体はなかなか眠りの準備に入れません。

■「胃腸がフル稼働」ではよく眠れない

特に注意したいのが、夕食の時間と内容です。食事をすると、胃腸は消化のために働き始めます。夜遅くに肉料理や揚げ物、ラーメンなどの重い食事をとると、布団に入ってからも胃腸は働き続けます。これでは、入眠できたとしても内臓は休むことができず、睡眠の質は下がってしまいます。

理想は、就寝の3時間前までに夕食を終えることです。例えば夜12時に寝るなら、9時までには食事を済ませておく。そうすれば、眠るころには胃腸の仕事が落ち着いていて、体は休息モードに入りやすくなります。

もちろん、仕事や家庭の事情で、毎日そのとおりにするのは難しい人もいるでしょう。どうしても遅い時刻の夕食になってしまう日もあります。その場合は、量を控えめにする。脂っこいものを避ける。炭水化物をとりすぎない。温かい汁物や消化のよいものを選ぶ。こうした工夫をするだけでも、胃腸への負担は変わります。

■8時間以上寝ると糖尿病リスクが高まる

睡眠時間が短いのがよくないのは当然ですが、「長く眠れば眠るほどよい」というわけでもありません。寝すぎは寝すぎで、体に負担をかけます。長時間眠り続けると、血管が広がりすぎることでかえって血流が滞り、起きたときに体がだるく感じられることがあります。

十分に寝たはずなのに、かえって頭がぼんやりする。体が重く、動き出すまでに時間がかかる。長く眠ったあと、そんな感覚を覚えたことがある人も多いでしょう。

アメリカで行われた大規模な研究によれば、睡眠時間が7時間の人を基準にすると、糖尿病の発症リスクは5時間以下で約2.6倍、8時間を超えると約3.6倍にまで高まるとされています。このデータは、睡眠時間は短すぎても長すぎても体によくないことを表しているといえます。

また、平日の睡眠不足を、休日の「寝だめ」で取り返そうとする人もいます。しかし、寝だめは睡眠不足を解消するための最善策ではありません。休日だけ遅い時間まで寝てしまうと、体内時計がずれ、自律神経のリズムも乱れやすくなります。その結果、日曜の夜にうまく眠れず、月曜日の心身のコンディションが不安定になってしまうのです。

大切なのは、毎日の睡眠のリズムを大きく崩さないことです。休日であっても、平日より2時間以上遅くまで寝ていることは避けましょう。どうしても眠いときは、昼間に短い仮眠を取ることが効果的です。

■睡眠の質を高めるならシャワーより湯船

疲れているときほど、「今日はシャワーだけでいいや」と済ませたくなるかもしれません。しかし、自律神経のバランスを整え、眠りの質を高めるという意味では、しっかりと湯船に浸かることが大切です。

写真=iStock.com/Stossi mammot
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Stossi mammot

入浴には、自律神経の切り替えを促す働きがあります。日中の仕事や家事、人間関係の刺激によって、交感神経優位の状態になった体を、副交感神経優位の休息モードへと変えてくれるのです。

最も有効な入浴法は、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることです。

熱すぎるお湯に入ると、かえって交感神経が刺激されてしまうため、39〜40度くらいがおすすめです。

■全身浴5分→半身浴10分がおススメ

湯船に入る前に、ぬるめのお湯を肩から全身にかけましょう。急激な温度変化は自律神経の乱れにつながるため、かけ湯で体を慣らします。

湯船に入ったら、まずは5分ほど首まで浸かります。首には自律神経に関わるセンサーが多く集まっているため、首をしっかりと温めることがポイントです。

その後、半身浴に切り替えましょう。10分ほど、ゆっくり浸かります。全身浴でしっかり温まり、半身浴で無理なくリラックスする。この流れにすると、のぼせにくく、風呂上がりの体温変化も抑えやすくなります。

ぬるめのお湯に浸かると、体の芯のほうから、ゆっくりじんわりと温まることを感じられるでしょう。血管が広がり、血流がよくなり、肩や首のこわばりもゆるみやすくなります。温かさに包まれているうちに、呼吸も自然と深くなっていきます。こうして副交感神経が働きやすくなり、体は眠りに向かう準備を始めるのです。

ただし、長風呂をすると体に負担がかかり、かえって疲れてしまうので、汗が噴き出すほど長く浸かるのはやめましょう。

■入浴は「入眠1〜2時間前」を目安に

入浴後は、体温が少しずつ下がっていきます。人は、深部体温が下がるタイミングで眠気が出やすくなります。つまり、入浴でいったん体温を上昇させ、その後ゆるやかに体温が下がっていく流れをつくることが、スムーズな入眠につながるのです。

小林弘幸『メンタルは肉体が9割』(宝島社)

それを考慮すると、入浴は寝る直前ではなく、寝る1〜2時間前を目安にするとよいでしょう。お風呂から出てすぐ布団に入ると、体がまだ熱く、かえって寝つきにくい場合があります。少し時間をおき、体がほてりから落ち着いてくるのが、おおよそ1〜2時間後です。

入浴後の過ごし方も大切です。せっかく副交感神経が高まり始めているのに、スマートフォンを見続けたり、仕事の続きに取りかかったりすると、交感神経が再び優位になってしまいます。お風呂上がりは、照明を少し暗くして、ゆっくり水分をとり、静かに過ごす時間にしましょう。

----------
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部特任教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
----------

(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)