世界的なコーヒーチェーンのスターバックスは、どうやって稼いでいるのか。財務コンサルタントの村上茂久さんは「飲食業界では高い営業利益率を誇る一方、決算書類では債務超過に陥っていることがわかる。決して危ない会社ではなく、むしろ株主には評価されている」という――。(1回目/全4回)

※本稿は村上茂久『最高の教訓 倒産』(大和書房)の一部を抜粋、再編集したものです。

写真=iStock.com/mysondanube
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mysondanube

■債務超過しているけれど…

飲食業界では非常に高い営業利益率16%など、P/Lについては好調のスターバックスですが、B/S※に目を転じると景色が一変します。図表1から、どんなことが読み取れるでしょうか?

※編集部註
P/L
Profit and Loss statementの略、日本語では損益計算書と呼ぶ。四半期や1年間など一定期間の「売上はいくらあったか」「費用はいくらかかったか」「その結果どれだけ利益、または損失が出たか」を示すもの。
B/S
Balance Sheetの略、日本語では貸借対照表と呼ぶ。決算日などある一時点における企業の「持っているもの(資産)」「返さなければならない借金など(負債)」「資本金や利益の蓄積(純資産)」を一覧にしたもので企業の財政状態の指標とされる。

出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

このB/Sを見てまず目に飛び込んでくるのは、債務超過だということ。そして2つ目に、流動比率が78%と100%を切っているという点です。

つまり、資産よりも負債が多い債務超過のうえに1年以内に換金できる資産よりも、1年以内に支払わなくてはならないもののほうが多い状況なのです。

例えるならば、個人の家計において、手元にすぐに換金できる資産や貯金が10万円しかないのに、月末のクレジットカードの支払いが15万円もあるような状況です。これがいかに苦しい状況かは、クレジットカードを使ったことがある人なら容易におわかりでしょう。

となると、ここで2つの疑問が湧いてきます。第一に、なぜスターバックスは債務超過なのかということ。そして第二に、スターバックスの資金繰りは大丈夫なのかということです。

■決算書に浮かび上がる「答え」

この疑問に答えを出すべく、今度はスターバックスの決算書を見ていくことにしましょう。

基本的には当期純利益が増えれば、利益剰余金が増えて、純資産が積み上がっていきます。

では、スターバックスはどうでしょうか。図表2は、同社の当期純利益と自己資本の過去10年間の推移を示したものです。

出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

これはいったいどういうことでしょうか。スターバックスはこの10年間着実に利益を生み続けてきたにもかかわらず、自己資本は積み上がるどころか大きく減少し、FY(会計年度)2019以降はマイナス、つまり債務超過に陥ってしまっています。

この謎を解く鍵がC/Sです。アップルの分析の時と同様に、スターバックスの過去10年間のC/Sとキャッシュ残高の動きを図で示すと、図表3のようになります。

出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

ここで重要なことは、財務CF(キャッシュフロー)のマイナスです。たとえば、図表3からFY2022を切り出して内訳を見ると、図表4のようになります。

出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

ご覧のとおり、配当金と自社株買いで62億ドル以上をキャッシュアウトしています。
つまりスターバックスは、先ほど見たアップルと同様に、多くの配当と自社株買いを行うことで積極的な株主還元を進めた結果、債務超過になっているということです。

■債務超過でも“スタバなら安心”のワケ

日本では「債務超過=危ない企業」というイメージがありますが、実は海外では、債務超過だからといって直ちに危険視されるわけではありません。

実際、世界のファーストフード業界で時価総額ランキング1位のマクドナルドも、総資産508億ドルに対して、59.9億ドルの債務超過の状態です(2022年12月末時点)。

株主還元を積極的に行うスターバックスのファイナンス戦略には、株主に対するアメリカ企業の考え方が見え隠れしています。つまりアメリカの企業の間には、稼いだ分のキャッシュは積極的に投資をするか、さもなければ株主に還元するという考えが浸透しているのです。

さて、ここで重要になるのが、「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念です。つまり、企業が自由に使える現金のことですね。FCFはアマゾンがKPIに据えているくらい、ファイナンスの視点からは重要なものです。

FCFの計算方法はいくつかありますが、一番単純なのは「営業CF+投資CF」です。つまり、本業で稼いだキャッシュ(営業CF)と、投資に使ったキャッシュ(投資CF)の合計額が、企業が自由に使えるキャッシュ(FCF)というわけです。

投資家を惹きつけるスタバの戦略

このように、FCFにはすでに投資CFが考慮に入れられていることから、設備投資をしてもなお自由に使えるキャッシュということになります。スターバックスのFCFと財務CFをグラフにしたものが図表5です。

出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

図表5を見ると、スターバックスではFCFが大きく出ると、その年もしくは翌年に財務CFが大きくマイナスになっていることがわかります。これは、自社株買いや配当を通じて株主還元を行っているのです。「お金を余らせるくらいなら、株主還元を進めて資金を効率的に使おう」というわけですね。

このようなファイナンス戦略があるからこそ、スターバックスは株式市場でも評価されているのです。実際、スターバックスの時価総額は今回用いた決算書の時期に近い2024年1月時点で1,050億ドル(約15兆円、1ドル=145円換算)前後であり、この金額は当時の日本の時価総額ランキング3〜5位の三菱UFJ銀行、NTT、キーエンスに匹敵します。

このように、債務超過だからといって企業が必ずしも危ない状況というわけではありませんし、株式市場から評価されないわけでもありません。その証拠に、スターバックスのPER(予想当期純利益が時価総額の何倍かを示す指標)は、2024年1月時点で26倍前後と、S&P500の平均PERである16〜20倍を大きく上回っています。

一般的に、企業は創業から時間が経つにつれて成長が鈍化してくるためPERは下がる傾向にありますが、創業50年を超える同社がこれだけの水準を保てているのは、積極的な株主還元をしているからだと言えます。

■一見すると「カツカツ」だけど…

ここまでで、債務超過だからといって、必ずしも企業の価値が低いわけでも、すぐに倒産するわけでもないことがおわかりいただけたと思います。

確かに、赤字を出し続けて債務超過になった結果、経営破綻に至るケースもあります。しかしたとえ債務超過であろうと、キャッシュが回っていれば企業は倒産しないのです。これを見る一つの材料が流動比率です。

実際、クラウド会計ソフトを提供するfreeeや完全栄養食品をECやコンビニで展開をするベースフードなど赤字続きの企業でも、流動比率を調べてみると低いどころかむしろ高いことがわかります。

ですが、スターバックスの場合は流動比率も100%を切っています。これだけ見ると、資金繰りが苦しくて、今すぐ倒産してしまうのではと思われるかもしれません。あるいは、「そんなに株主還元をしないで、キャッシュに余裕を持てばいいのに」と思うでしょう。

なぜスターバックスは、流動比率が100%を切るほどカツカツな状態でビジネスを回しているのでしょうか?

その答えはビジネスモデルにあります。次にスターバックスの「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」における売上債権回転日数を見てみましょう。

■市場から評価されるスタバの「虎の子」

スターバックスの売上債権回転日数は−5日です。競合のドトールの売上債権回転日数は「16日」です。つまりスターバックスの場合、売上が立つ前に入金がある状況なのです。

村上茂久『最高の教訓 倒産』(大和書房)

どうしてこんなことが起こるのかわかりますか? 実は、スターバックスがマイナスの売上債権回転日数を実現できている秘密は、同社が発行するプリペイドカードにあります。

スターバックスのFY2023の決算資料を見ると、そこには「Storedvalue card liability and current portion of deferred revenue」という、プリペイドカードに関する会計上の項目が約17億ドル(約2,470億円)も計上されています。

FY2023時点のスターバックスのキャッシュが約35億ドル(約5,000億円)であることから、プリペイドカードで受け取る金額はキャッシュの半分近くにのぼります。スターバックスがどれほど多くのプリペイドカードを発行しているかがおわかりいただけるでしょう。

なお、プリペイドカードがない場合のスターバックスの売上債権回転日数は12日。ドトールよりも売上債権の回収は早いものの、それでも2週間近くあります。一方で、プリペイドカードの売上債権回転日数は−17日。つまり、プリペイドカードにより17日分の売上が手前で入ってくるということです。結果、12日−17日で売上債権回転日数は−5日となっています。

プリペイドカードの発行額がこれほど多い理由は、おそらく「プレゼント」とも関係しているのではないかと推測します。私もスターバックスのプリペイドカードを贈ったり贈られたりした経験がありますが、スターバックスをよく利用する人には嬉しいプレゼントです。

ここまでお読みいただけば、なぜスターバックスは流動比率が100%を切っていても安全性に問題がないのかはもうおわかりですね。そう、同社は「売上債権回転日数がマイナスになるビジネスモデル」を築き上げているため、資金繰りが有利なのです。

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村上 茂久(むらかみ・しげひさ)
ファインディールズ代表
GOB Incubation Partners CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation PartnersのCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行うファインディールズを創業。
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(ファインディールズ代表 村上 茂久)