“もがく日本郵便”の戦略 新規事業で赤字カバーできるか いま問われる「郵便局」そのもののあり方『every.特集』
郵便物が年々減少するなか、日本郵便が新たな一手を模索しています。空き家の見守りからオンライン診療まで、全国の郵便局を生かした新規事業に挑戦。一方、全国の郵便網を維持する公共的な役割は大きな負担にも。民営化後の日本郵便が直面する「収益」と「公共サービス」の両立を追いました。
■郵便局の空きスペースで新規事業立ち上げ 赤字拡大の背景に郵便物数減

訪れたのはある郵便局の裏口。日本郵便の社員がメジャーを使い、建物のスペースを測定しています。
日本郵便 地域共創事業部 平山直樹係長
「広いスペースがあるので、例えばシニア向けの健康増進ジムとか、そういったことを検討できるのではないかというふうに考えております」
実は、このスペースは、もともと郵便物の仕分け作業などが行われていた場所ですが、別の郵便局に集配拠点が集約されたため、いまではほとんど使われていません。そこで、この空きスペースを有効活用し、新規事業を立ち上げようというのです。
理由は郵便事業の赤字です。
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昨年度の郵便・物流事業の赤字は118億円。主な要因は、デジタル化が進みハガキなどの郵便物が減ったことです。2001年度にピークを迎えて以降は右肩下がり。郵政が民営化されたあとも止まることはなく、昨年度の郵便物数はピーク時の半数以下にまで落ち込んでいます。
そこで赤字をカバーしようと、空きスペースを活用したトランクルームの設置など様々な新規事業を立ち上げているのです。
日本郵便 地域共創事業部 平山係長
「新規事業は、想定通りには、うまくいかないことの方が多いので、トライアンドエラーを繰り返していくことが重要かなという風に思っております」
■今年から始めた新事業 都内の郵便局が〇〇をみまもり

都内の郵便局では、今年から始めた事業が。
おもむろに席を立ったのは、都内の郵便局の局長。
清水秀朗局長
「じゃあ行ってきますね」
「は〜い、いってらっしゃ〜い」
そのまま郵便局の外へ出て、歩いて向かった先は一軒家。この日見せてもらったのは、郵便局員による「空き家みまもりサービス」です。自宅前に黄色い看板を立てかけ、赤いビブスを着る局長。そして、“空き家みまもりサービス”開始。家主は現在遠方に住んでいるため、月額4280円(税込)からのこのサービスを利用しているといいます。
「まず鍵が異常がないかを確認します」
続いて、敷地内を見てまわる局長。外観や敷地に異変がないか、チェックしていきます。
――何をチェックしているのですか?
「雑草が生えているかどうかだったりとか、あとは不法投棄あるかどうかの確認をしております」
すると、局長が、軍手とポリ袋を取り出し移動し始めました。
「雑草が越境物越えてそうな感じがあるのでちょっと抜く」
暑さで雑草が成長し、敷地の外にまでのびてしまったため、隣人に許可を得て、局長自ら草むしりを行います。
――1か月分の雑草?
「そうですね」
◇
あの手この手で郵便事業の赤字をカバーしようとする日本郵便。そもそも、郵便事業が赤字続きとなってしまうのには、郵便物が減っている以外にも“ある理由”がありました。
■郵便事業赤字に繋がるコスト面での負担 郵便物数減少以外の“ある理由”

緑豊かな山々に囲まれた、山口県周南市。道端にあるポストの前に郵便のバイクが止まりました。このポストから郵便物を集めるのは一日一回。
――どれくらい入ってた?
「5通ないくらいですね」
――いつもこれくらい?
「だいたいこれくらいですね」
少子高齢化が進むこの地域。ポストをよく見ると、投函部分に小さなカエルが。
「いつもこの辺に止まっております」
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数が少なくても、毎日集めなければならない郵便物。それは、どんな地域でも原則4日以内に郵便物を届けることが法律で定められているからです。また、省令により、郵便局も各市町村に一つは設置しなければなりません。日本郵便が国営だった当時から続く公共サービス機能。民営化されてからは人件費や輸送費などコスト面で大きな負担となり、赤字に繋がっているのです。
日本郵便にとって経営上の“大きな負担”とも言える地方での郵便運営ですが、逆転の発想で、“強み”として新事業を始めた郵便局もありました。
■医師が一人もいない地域でスタートした事業 郵便局の中に〇〇

周南市内の郵便局に男性が杖をつきながら入っていきます。向かう先の看板には「診療所」の文字が。男性が中に入ると郵便局員が明るいあいさつで迎えます。
男性「おはようございます」
郵便局員「おはようございまーす」
男性「薬もらわにゃいけん」
男性が局内にあるスペースに案内され、始まったのはオンラインでの診療です。
◇

郵便局員がパソコンのカメラに男性の保険証を映し、オンラインでつながっている医師に見せます。
郵便局員「先生、保険証の確認大丈夫でしょうか」
医師 「見せてください」
郵便局員「はい(保険証をかざす)」
医師 「はい、大丈夫です」
郵便局員「あ、大丈夫ですか、はい」
郵便局員たちは、パソコンの画面の角度を調整したり、患者が座る椅子を動かしたり、パソコンに慣れていない患者のサポートもします。
医師「調子どうですか」
患者「いや、格別はない」
医師「格別はないですか」
◇
この地区は、今では医者が一人もいないといいます。それならばと、地方にも必ず1つはある郵便局を活用し、オンライン診療を始めようとこの事業がスタートしました。自治体から受託した事業で、薬は後から受け取ることができます。
男性
「オンラインじゃどげんことやるんかいのっちゅうような感じじゃったんやけど、便利といや便利」
徳山櫛浜郵便局 福田信一郎局長
「いま患者さんの数は11名と伺っておりますので、まずまずだと思っております」
次々と打ち出す新規事業で、果たして郵便事業の赤字はカバーできるのでしょうか。
■収益と公共サービスどう両立? 日本郵便への国費投入に議論必要か

日本郵政の経営戦略に詳しい専門家は――
一橋大学 加藤俊彦教授
「いろいろ試行錯誤されているのだと思いますけれども、ただ、すぐに成果が出てきている状況ではないので、苦しい」
一部で収益の出ている新規事業もある一方で、地方での公共サービスなどについては大きな収益は出ず、むしろ郵便ネットワークの維持が経営の足かせになっていると指摘。その地方での郵便ネットワークの維持・活用などについて、政府は6月、日本郵便に年間約650億円の交付金を支給することを決定しました。
これについて専門家は――
一橋大学 加藤教授
「このような(公共)サービスを民間企業単独としてやるのは限界があるので、ある種、国費(交付金)を投入されるのが妥当である側面もあるとは思いますが、物流会社とか、そういうところで競合すると思いますので、そこに国費(交付金)が投入されるというところでは、反発もあるのではないか」
公共サービスを維持・活用するからといって、“いち民間企業”に対し交付金を投入すれば、他の物流会社との競争に有利に働く可能性もあり、国民を含めたさらなる議論が必要ではないかと指摘しました。
民間企業として収益を追求しなければいけない一方で、公共サービスの維持も求められる日本郵便。いま、「郵便局」のあり方そのものが問われています。
(2026年8月12日放送「news every.」より)