消滅の一途だった「日系企業スポンサー」…ゴルフPGAツアーに新規参入「SOMPO」のメリットと“歓迎される”納得の理由
PGAツアー大改革の「目玉」
今年6月、PGAツアーは2028年シーズンからの大改革を発表した。その「目玉」となったのは、PGAツアー史上初の2部制が導入されることだった。
【写真】終了した「日系企業スポンサーのPGAツアー大会」…最後の優勝者は?
2028年からは、上位選手だけが出場できる「チャンピオンシップシリーズ」と、その下に位置付けられる「チャレンジャーシリーズ」という上下2部に区分されることになる。
上位選手はチャンピオンシップシリーズに居続けるために、より一層の鍛錬を行い、下位選手はチャレンジャーシリーズからチャンピオンシップシリーズへ昇格することを目指して鎬(しのぎ)を削ることになり、「ツアー全体の競合性が高められる」と、PGAツアーは胸を張っている。

チャンピオンシップシリーズは、レギュラー大会15試合とメジャー4大会、プレーヤーズ選手権、ポストシーズンの大会、それにライダーカップやプレジデンツカップを含めた年間23〜24試合で構成される。すべての大会が4日間72ホール、予選カット有りの競技形式である。
また、レギュラー大会15試合は、各大会の賞金総額が最低でも2000万ドルとされており、規模的には現在のシグネチャー・イベントと同等になる。
レギュラー15試合に一番乗り「SOMPOの大会」
言い換えれば、現在は年間8試合のシグネチャー・イベントが、2028年からはレギュラー化されて年間15試合も行われるということ。そして、メジャー4大会などのビッグ・イベントを加えた23〜24試合に上位選手たちが集結し、毎週のように豪華な顔ぶれの大会が開催されることになる。
レギュラー大会15試合の各フィールドは120名で構成され、前年のポイントランキング上位90名までと、チャレンジャーシリーズから昇格する20名が主体となる。
従来の補欠制度やスポンサー推薦は廃止されるため、無名選手が突如、出場して優勝するようなシンデレラストーリーは、今後は見られなくなる。その代わり、ほぼ毎試合、トッププレーヤーばかりの強豪フィールドで熱戦が繰り広げられ、「ゴルフファンは大いに興奮を味わえる」とPGAツアーは誇らしげである。
そのチャンピオンシップシリーズのレギュラー大会15試合は、「どうやって決まるのか」と「従来の大会のうち、どの大会がチャンピオンシリーズに移行するのか」が取り沙汰されていたのだが、一番乗りが「SOMPOの大会」だったことは、日米双方にとって、大いなる驚きだった。
「SOMPOの大会」はシカゴ開催?
損害保険大手SOMPOホールディングスの海外事業部門を担うSOMPOインターナショナルは、2028年からPGAツアーの新体制となるチャンピオンシップシリーズのレギュラー大会のタイトル・スポンサーとなることを、7月28日(米国時間)に発表した。
また、大改革への実質的な移行期間となる2027年は、これまでカリフォルニア州ナパ近郊のシルバラード・リゾートでフォールシリーズとして開催されてきた大会のタイトル・スポンサーを務めることも決まった。
2028年からのチャンピオンシップシリーズの大会の開催コースは、まだ決定していないが、米メディアでは「おそらくシカゴでの開催」と報じられている。
PGAツアーは、2028年からはゴルフファンが大勢いるはずのニューヨークやワシントンDC、シカゴ、ロサンゼルスといった大都市での試合開催を増やすことを目指しており、新たに創設される「SOMPOの大会」のシカゴ開催説は、そこから浮上したと考えられる。
PGAツアー側は、SOMPOをタイトル・スポンサーに迎えることを「うれしく思う」と語り、SOMPO側も、PGAツアーの大会をスポンサードできることを「誇りに思う」とコメントしている。
契約の具体的な金額や期間、どんな経緯で契約に至ったかといった内情は明かされていないが、ここ数十年から今に至るまでのゴルフ界全体の変化や現状を鑑みれば、「なるほど」と頷ける事柄が、いくつか見て取れる。
PGAツアーと日本企業の関係
かつてPGAツアーのタイトル・スポンサーには、日本企業が多数、名を連ねていた。
フロリダ州では1982年からホンダの名が冠された大会が開催され、後にザ・ホンダ・クラシックとして2023年まで地元ファンに愛され続けた。カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のリビエラで開催されていた大会は、1989年から2007年までニッサン・オープンと呼ばれていた。
オハイオ州アクロンで1984年から1998年まで開催されたNECワールド・シリーズ・オブ・ゴルフは、1999年からWGC(世界ゴルフ選手権)―NEC招待に格上げとなって継続された。2006年にはタイトル・スポンサーがブリヂストンにバトンタッチされ、WGC―ブリヂストン招待という新たな大会名で2018年まで開催された。
ハワイで開催されていたハワイアン・オープンには、1999年からソニーの名が冠され、毎年1月に大勢の日本人選手が出場することが恒例行事のようになっていた。
消滅の一途にあった日本企業の冠大会
古くからのPGAツアーファンの記憶には残っているかもしれないが、フナイ(船井電機)も2003年から2006年の4年間のみ、フロリダ州のディズニーワールド内の大会のタイトル・スポンサーを務めたことがあった。
しかし、時代のさまざまな変化の下で、スポンサー企業は目まぐるしく変わっていき、日本企業の名が冠された大会も徐々に消滅してしまった。
近年は、「日本国内で開催される唯一のPGAツアーの大会」が、2019年からの6年間はZOZOチャンピオンシップ、2025年からはベイカレント・クラシックの名前で開催されているものの、今季の日本企業はこのベイカレントとソニーの2社のみ。
そのソニーも、PGAツアーにおけるタイトル・スポンサーは今年で終了となり、来季からはシニアの大会のスポンサーに変わることが、すでに決まっている。
80年代から90年代にかけての一時期は、日本企業の名が冠された大会が年間にいくつもあったが、このままでは1社、いや、いつしかゼロになるのではとさえ感じられていた。そんな中でPGAツアーが、ゴルフ熱がそもそも高い日本の市場開拓にあらためて力を入れ始めたことは想像に難くない。
リブゴルフの危機、日本人選手の台頭
PGAツアーと日本企業が古くから深いつながりを持っていたという歴史的背景以外にも、PGAツアーが日本市場へラブコールを送りたくなる要素は、いろいろ見て取れる。
2021年に創設されたリブゴルフは、同年、アジアンツアーを実質的に傘下に入れ、下部ツアー化していた。
しかし、サウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」からの支援が今年限りで打ち切られることが決まったリブゴルフは消滅の危機に瀕した。すると、アジアンツアーは早々にリブゴルフから離れ、PGAツアー&DPワールドツアーのアライアンスに加わる契約を結んだ。
いわば他力本願の格好でアジアのゴルフ市場を味方に付けたPGAツアーが、近年は縮小気味だった日本との絆を深め、日本を含めたアジア市場全体とのアライアンスを強化しようと考えることは、きわめて自然である。
PGAツアーで戦う日本人選手も増えつつある。今季は、エースの松山英樹に加え、金谷拓実、久常涼、中島啓太、平田憲政らが参戦しており、日本のファンの興味や関心は自ずと高まっている。
SOMPOの意気込みを感じる展開
一方で、PGAツアーのタイトル・スポンサーに新規で名乗りを上げたSOMPO側には、どんな思いやメリットがあると考えられるのか。
2028年からのチャンピオンシップシリーズの大会は、最低でも賞金総額2000万ドルとなるため、大会をスポンサードするためには、当然ながら、それ以上の大金を拠出することが求められる。
SOMPOがタイトル・スポンサーになったことは、それが可能であることを世界に示し、企業としての高い信頼性をアピールする絶好の機会となっていることは言うまでもない。
さらに言えば、ソニー、ホンダ、ニッサン、NEC、ブリヂストンといった過去の多くの例が示しているように、PGAツアーは一度パートナーとなった企業との絆を、長年、大切にしてきたという事実がある。
チャンピオンシップシリーズの大会のタイトル・スポンサーになることは、SOMPOがPGAツアーとの絆を築き始め、米国や世界にSOMPOの名前と存在感をより一層浸透させていく企業戦略の「始まり」「幕開け」と言っていい。
SOMPOに続き、既存大会のトラベラーズ選手権、開催地を変更して継続されることになったザ・セントリー、そしてレジェンド大会のアーノルド・パーマー招待も、チャンピオンシップシリーズ入りすることが決まった。
歴史も格式もあるそうした大会を抑え込み、SOMPOが一番乗りでチャンピオンシップシリーズ入りを発表した。その背景には、大改革の目玉として創設されたチャンピオンシップシリーズと真っ先に歩調を合わせることが、PGAツアーとの歴史的な絆を築く二度とない希少な機会と捉え、「今こそが、乗りどきだ」と考えたSOMPO側の意気込みが大いに感じられるのではないだろうか。
舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。
デイリー新潮編集部
