連日ファンが集う甲子園球場

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 プロ注目のエースを見るために集まったスカウトの前で、思わぬ2人の投手が存在感を示した。

 8月9日、夏の甲子園大会第5日。第4試合の中京対霞ケ浦では、終盤になってもバックネット裏に多くのスカウトが残っていた。最大の視察対象は、中京のエース・鈴木悠悟(3年)。今年4月のU18侍ジャパン候補強化合宿にも選ばれた、東海地区屈指のドラフト候補である。【西尾典文/野球ライター】

【写真】東海地区屈指のドラフト候補・鈴木悠悟選手の姿

プロで勝負できる武器を身につけられるかが重要

 ところが、この日の中京で強いインパクトを残したのは鈴木だけではなかった。後を受けた2投手も甲子園の舞台で存在感を示し、中京投手陣の層の厚さを印象づけた。

連日ファンが集う甲子園球場

 鈴木は滋賀県出身で、小学6年時には年末に行われているNPBジュニアトーナメントの阪神タイガースジュニアに選抜された経歴を持つ。中京では2年春からエース。今年4月に行われたU18侍ジャパン候補の強化合宿にも選出されるなど、東海地区の高校生では最注目の存在だ。ピッチングはもちろん、3番を任される打撃への評価も高い。

 初の甲子園となった霞ケ浦戦では、2回まで打者6人をパーフェクト、1奪三振と上々の立ち上がり。しかし3回以降は制球が甘くなり、6回途中、5失点(自責点3)で降板した。打者では7回にタイムリーを放ったものの、チームは3対6で敗れて初戦敗退となった。鈴木は投球をこう振り返っている。

「ブルペンから今日は凄く調子も良くて、初回はいい感じに入ることができました。(降板した6回は)コースを狙いすぎて先頭に四球を出してしまって、これまではピンチになっても平常心で冷静に抑えることができていたのですが、今日はそれができずに打たれてしまったのが良くなかったです」

 抜群の立ち上がりだった分、悔いの残る投球だったのではないだろうか。岐阜大会では体調を崩して体重が落ち、甲子園でも戻り切っていなかったそうだ。好調時には145キロを超えるストレートが、この日は140キロ台前半中心。スピードには少し物足りなさが残った。視察したプロのスカウトは長所と課題をこう話す。

「凄く器用なピッチャーでストレートも変化球も変わらないフォームで投げることができます。バッティングやフィールディングを見てもセンスがありますね。ただストライクゾーンで押し切るような球威はまだなく、どうしても変化球でかわそうとしてカウントを悪くして、ストライクをとりにいったところを打たれるシーンが目立ちました。体もそこまで大きくないので、しっかり鍛えることはもちろん、プロで勝負できる武器を身につけられるかが重要になると思います」(セ・リーグ球団スカウト)

やっと自分の出番が来た

 甲子園で評価を一気に上げる投球とはならなかった。だが、スカウトにとって収穫がなかったわけではない。むしろ、鈴木の後を受けた2投手が強いインパクトを残した。

 一人目は西岡海心(3年)だ。岐阜大会では4試合、21回を投げて無失点と、鈴木を上回る成績を残している。

 霞ケ浦戦では6回途中から二番手で登板。7回に自らの暴投から1点を失ったが、2回1/3を被安打1。ストレートは自己最速を更新する145キロをマークした。

 試合後、西岡は追加点を奪われた悔しさを滲ませながら、ストレートについて「ブルペンから今まで一番良かったです。自己最速を更新したことは凄く嬉しかったです」と話した。視察していたスカウトからも「少しばらつきはありましたがストレートには力があって良かったですね」との声が聞かれた。

 180cm、71kgとまだ細身。体ができてくれば、球威やスケール感がさらに増してくる可能性は十分にありそうだ。

 そして、三番手で登板した福永龍矢(3年)にはさらに驚かされた。

 岐阜大会での登板は2回戦・多治見戦の3イニングだけ。それが甲子園では9回からマウンドに上がり、三者凡退、2奪三振と快投した。サイドスローから投げ込むストレートは最速144キロ。これまでの自己最速は141キロで、大舞台で一気に3キロ更新したことになる。

 試合後、福永本人に話を聞いた。

「去年まではサードとピッチャーを兼任していて、どちらかというと内野がメインでした。秋からピッチャーに専念して、腕の振りもそのタイミングでサイドにしました。冬の間にとにかくフィジカルを鍛えて、体重も半年で10kg増えて、それが真っすぐの強さに繋がったと思います。岐阜大会でもずっと投げたい気持ちはありましたが、鈴木と西岡が良かったのでなかなか出番がなくて、今日はやっと自分の出番が来たという感じで緊張よりも楽しみの方が強かったです。甲子園のマウンドは凄く投げやすくて、アドレナリンも出ていて、それが良い結果にも繋がったのかなと思います」

 冬の間に鍛えてきた言葉通り、175cm、80kgという数字以上に体つきはたくましく見えた。敗戦直後とはいえ、ずっと待っていた甲子園のマウンドで思い通りの投球ができたからだろう。晴々とした表情が印象に残った。

 進路は3人それぞれだ。鈴木は投手に専念してプロ志望を表明。西岡と福永は大学へ進み、その先のプロ入りを目指すという。

 高校時代にプロ入りしたエースの控え投手が、大学や社会人で大きく成長した例は決して珍しくない。今回の甲子園では、鈴木だけでなく西岡、福永もスカウトに強い印象を残した。

 数年後、3人の名前が揃ってドラフト候補として並ぶ可能性も十分にある。第4試合の終盤までバックネット裏に残っていたスカウトたちにとって、中京の投手陣の層の厚さを再認識する一戦になったのではないだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部