【現場ルポ】夏の風物詩が喰い物に…隅田川花火大会で暗躍した中国人「場所取り転売ヤー」の高笑い

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観覧の有料化

7月下旬のその日――朝方から、東京・隅田川のほとりに無数の人影があった。彼らは手に持っていた数枚のビニールシートを手早く河川敷の地面に広げると、そそくさとその場を後にした。それから約10時間後、この周辺に92万人が集まり、隅田川花火大会が開催された。

約2万発が打ちあがる隅田川花火大会では、場所取りが解禁される時間が立て看板などで周知されているところもあった。しかし、冒頭のように、それよりはるか前からベストポジションは謎のビニールシートでおさえられていたのである。年に一度の花火大会の場所取りに熱が入るのは理解できる。しかし、ルールは守るべき。ましてや転売目的の不正な場所取りとなれば、酌量の余地はないだろう。

花火大会のあり方は、近年大きく様変わりしている。基本的に無料で提供されてきた花火の観覧に、有料席の導入が広がっているのだ。

「帝国データバンクによれば、全国で開催される106の花火大会のうち、約8割にあたる84大会が有料席を設置。最も安い席の平均価格が5517円で、最も高い席となると平均4万611円とかなりの高額になっています。輸入品である火薬の価格が円安や物価上昇で高騰しているうえ、花火大会に協賛金を拠出する企業が減っていることなどが、全国で広がる花火大会の有料化につながっているといわれます」(全国紙文化部記者)

そこに目を付けたのが冒頭の人影たちというわけだ。中国のSNS「小紅書(レッド)」では、全国各地で行われる花火大会の有料席チケットの転売が続出。無料開放されている場所でも、ベストポジションが有償で取り引きされているのだ。

《花火大会の良席確保代行します》

「小紅書」には6月以降、計100件以上、中国語で「観覧席転売」の書き込みが投稿されていた。そのひとつ、隅田川花火大会の観覧席を転売していた業者に連絡をとってみたところ、「一席150元(約3500円)」という返事が来た。場所は隅田川沿いにある荒川区の汐入公園だという。転売ヤーの場所取りの様子を取材すべく張り込みをした際の様子が冒頭の場面なのだが、すでに多数の場所取りがなされており、投稿者を特定することはできなかった。

隅田川と同じく有名な葛飾区の花火大会では、無料の観覧スペースが一席200元(約4600円)で転売されていた。数千円という″手頃″な価格も、観覧席の転売が横行する理由のひとつだろう。

警備員もお手上げ状態

花火大会当日の昼過ぎ、転売業者から確保された観覧席の写真が送られてきた。夕方頃に現場へ向かうと、その写真の通りに無人のビニールシートが敷かれていた。軽く20人分はあるだろう。シートには「午前10時までは場所取り禁止です。直ちに撤去してください」と警告するシールが貼られていた(2枚目写真)。現場にいた警備員が嘆く。

「解禁前に場所取りしていたビニールシートに貼っているのですが、我々も警告以上のことはできません。ビニールシートとはいえ、人様の所有物ですから……」

その周辺で、たくさんの人々が日傘を差して暑さに耐えながら、律儀に自分の確保した場所を守っていた。

午後6時。日も傾き、涼しい夜風が吹き始めた頃、スマホの画面を覗きながら自分の席を探す人々がぞろぞろとやってきた。彼らが件(くだん)のビニールシートに腰掛けると、転売業者と思(おぼ)しき男性がやってきてスマホでやり取りを開始。どうやら、中国の決済アプリで場所代を徴収しているようだ。転売業者から観覧席を購入したという中国人女性に話を聞くと、「暑いなか場所取りしたくなかったし、有料席よりは安いから」と満足気だった。

一方、午後7時に大輪の花火が夜空を彩り始めてからも、空席のビニールシートがいくつか点在していた。売れ残りだろうか。その周辺では、ルールに則って場所取りをした群衆が身を寄せ合いながら花火を見上げていた。花火大会終了後、シートを回収している転売業者の男性に「誰も来ないなら、ほかの人に譲ってあげたほうがよかったのでは?」と声をかけたが、返事はなかった。

花火シーズン中盤の今なお、「小紅書」には全国の花火大会の「観覧席転売」の投稿がいくつも見受けられる。有料席チケットの転売や観覧場所への白タク送迎サービスに関する投稿もあった。中国人ジャーナリストの周来友氏が言う。

「中国では日本のような大規模な花火大会が少ない。加えて、日本のドラマやアニメの影響を受けて、若い世代の花火への興味が高まっていることがこのビジネスの背景にある。カネを払ってでも観覧に行きたいという中国人がいる限り、花火関連の転売は無くならないでしょう」

庶民に長らく愛されてきた日本の夏の風物詩までもが、転売ヤーの恰好の獲物となってしまったのだ。

『FRIDAY』2026年8月21・28日合併号より

取材・文:奥窪優木(フリーライター)