公共交通機関で刃物を扱うことは、周囲に不安を与えかねない行為であるが…(株式会社うめ海鮮/ PIXTA)※写真はイメージ

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東海道新幹線の車内で、おもむろに包丁を取り出した高齢女性が、梨の皮をむいて食べている――このような場面を報告する投稿が先日、Xで話題を呼んだ。

投稿によると、通りかかった警備員は特に注意する様子もなく、そのまま通り過ぎたという。このため「警備が甘いのではないか」と疑問視する声も上がっている。

一方で、「昔は列車内で果物ナイフを使ってりんごや梨の皮をむくのは珍しくなかった」「昭和なら普通の光景だった」と懐かしむ声も見受けられる。

はたして、新幹線の車内で果物の皮をむく目的で包丁や果物ナイフを持ち込み使用することは、法的な問題があるのだろうか。

JR「梱包されていない刃物を車内に持ち込むことはできない」

新幹線車内での刃物の取り扱いについて、東海道新幹線を運行するJR東海弁護士JPニュース編集部が問い合わせたところ、広報担当者から「鉄道車内では梱包されたものを除き、刃物を持ち込むことはできない」との回答があった。

「鉄道車内においては、鉄道運輸規程(※)およびJR6社共通のルールである旅客営業規則において、他のお客様に危害を及ぼすおそれがないよう梱包されたものを除き、刃物を持ち込むことはできない旨を定めています」(広報担当者)

※鉄道営業法に基づき、国土交通省が定める省令

具体的には『刃物を鉄道車内に持ち込む際の梱包方法についてのガイドライン』(2018年・国土交通省鉄道局)に基づき、包丁などを鞘(さや)やケースに収めた上で、さらに包装材や袋などで覆い、容易に取り出せない状態で携行することなどを求めている。

また、利用者への注意点としては、以下のように呼びかけている。

「手回り品の詳細なルールは駅のポスターや弊社ホームページでご案内しておりますので、ご乗車になる前にお確かめいただきますようお願いいたします。

また、危険と感じられるものや行為にお気づきのときは、ご自身の安全を確保したうえで、乗務員やパーサー、警備員または駅係員までお知らせください」(広報担当者)

なお、乗客が車内で刃物を使用しているのを乗務員や車掌が確認した場合の対応については「状況によって対応が異なるため、回答は控えさせていただきます」とのことだった。

銃刀法の「正当な理由」に該当するか?

新幹線の車内で包丁や果物ナイフを取り出し、果物の皮をむく行為は、法律上どのような問題になり得るのだろうか。

刑法に詳しい岡本裕明弁護士弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)によると、本件のような事例でまず問題となるのは、銃刀法(※)における刃物の規制だという。

※正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

銃刀法では、刃渡り15センチ以上の刀などを『刀剣類』と定義し、その所持自体を厳しく規制しています。

包丁や果物ナイフであっても、銃刀法上の『刀剣類』に該当する場合には、原則としてその所持は違法となります。 

そして、『刀剣類』に当たらない刃物であっても、銃刀法22条は『業務その他正当な理由』がない限り、刃体の長さが6センチを超える刃物の携帯を禁止しています」(岡本弁護士

一般の乗客が車内で自分の食べる果物の皮をむく目的で刃物を携帯する場合、通常は「業務」に該当しない。

一方で「正当な理由」に該当する可能性はあるが、岡本弁護士は「一律に判断できるものではない」と説明する。

銃刀法における『正当な理由』があるかどうかは、社会通念に照らして判断されます。

一般的には、自宅で使うために購入した包丁を持ち帰る場合などには『正当な理由』が認められます。

これに対し、『護身用に持ち歩いていた』『なにかの場面で使えて便利そうだから』などといった抽象的な理由は、『正当な理由』とは認められません」(岡本弁護士

また、「果物の皮をむく」という目的があるとしても、それだけで直ちに適法というわけではない。刃物の種類や持ち運び方、使用状況なども判断要素として関わってくるためだ。

「最終的には、個別具体的な事情をふまえて判断されることになります。

たとえば『入院している家族や知人への見舞いとして持参した果物を病室で食べてもらうため、その場で皮をむく目的で果物ナイフを携帯していた』というケースであれば、本件よりも『正当な理由』が認められやすいでしょう。 

また、新幹線で携帯していた場合でも、ケースに収納されていた場合と、むき出しの状態で携帯していた場合とでは、『正当な理由』の判断に違いが生じる可能性があります」(岡本弁護士

トラブルが起これば「暴行罪」「脅迫罪」が成立する可能性も

本人に危険な意図がなく、単に果物の皮をむいていただけであるとしても、刑法上の犯罪が成立する可能性はあるのだろうか。

岡本弁護士は、「果物の皮をむくという目的に沿った使用であれば、銃刀法違反とは別に刑法上の犯罪が成立する場面は限られる」としながらも、状況によっては別の犯罪が問題になる可能性があると指摘する。

「たとえば、周囲の乗客や乗務員とのトラブルになり、その包丁や果物ナイフを人に向けるような行為があれば、暴行罪(刑法208条)や脅迫罪(刑法222条)が成立する可能性があります。

さらに、その結果として新幹線の運行に支障が生じた場合には、威力業務妨害罪(刑法234条)が問題となることも考えられます」(岡本弁護士

また、前出のJRの回答にもあったように、鉄道運輸規程23条では「同乗者に危害を及ぼすおそれがないよう梱包したもの」を除き、旅客が車内に刃物を持ち込むことを認めていない。 

岡本弁護士は「刑事罰の有無とは別に、公共交通機関で刃物を扱うこと自体、周囲に不安を与えかねません」と注意を促す。

「バーベキュー会場など、刃物の使用が予定されている場所を除けば、公的な場所で刃物を使用すること自体、原則として慎むべきでしょう。

また、やむを得ず刃物を持ち運ぶ場合でも、むき出しの状態ではなく、ケースなどにしっかり収納して携帯することが望ましいです」(岡本弁護士

公共の場への刃物の持ち込みは慎重に

総じて、「果物の皮をむく」という目的で公共の場に刃物を持ち込むことについて、銃刀法上の「正当な理由」が認められる余地はある。

しかし、その判断は刃物の種類や大きさ、持ち運び方、使用した場所や状況などを踏まえた個別具体的な事情によって左右される。

また、鉄道運輸規程でも、安全に梱包されていない刃物を車内に持ち込むことは認められていない。

多くの人が利用する新幹線の車内のような公共の場所では、法的な問題となるか否かにかかわらず、「周囲に不安を与えない」という観点からも慎重な対応が求められるだろう。