記事のポイント
ユニリーバは30万人規模のクリエイターネットワークを構築し、ワールドカップでは5万人の起用で6億人超にリーチした。
著名クリエイターを長期施策に、小規模層を規模拡大や文化的な波及に活用し、巨大ブランドとの競争力を高めている。
一方、大規模運用には審査や契約など膨大な調整が伴い、自動化による候補の偏りやコンテンツの同質化も懸念される。


日用品大手ユニリーバ(Unilever)が30万人規模のクリエイターネットワークを発表したことは、見出しの数字をはるかに超える、大がかりなオペレーション上の取り組みを意味している。

同社はマーケティングの中心にクリエイターを据える計画を発表して以来、30万人のクリエイターを集めてきた。

2026年のサッカー・ワールドカップ北中米大会では5万人を起用し、決算報告によれば、このワールドカップ向けの5万人のクリエイターは合計6億人を超えるオーディエンスにリーチした。

巨大ブランドに対抗するクリエイター戦略



CEOのフェルナンド・フェルナンデス氏は、決算説明会でクリエイターが同社の成長をけん引していると評価してきた。ユニリーバ・パーソナルケアの最高成長・変革責任者であるラニ・アル・ハッジ氏は、その理由を次のように説明する。

「我々はギアを上げなければならなかった。なぜなら、我々が相手にしているのは世界のコカ・コーラ(Coca-Cola)であり、世界のアディダス(Adidas)であり、世界のバドワイザー(Budweiser)だからだ。彼らは極めて優秀で、しかも我々よりも長い歴史をかけてこうしたことをやってきた。だから我々も大きくギアを上げなければならない」。

ワールドカップは、このクリエイター中心の戦略にとってのストレステストの役割を果たした。パートナーシップ、没入型の体験、試合観戦、モバイル向けの施策などが組み込まれた。

最高メディア・マーケティングケイパビリティ責任者のリュウ・ヨコイ氏は、グローバルなスケールとローカルな関連性の組み合わせこそがもっとも強いインパクトを生むと指摘した。ヨコイ氏によれば、この取り組みはスポーツを「単なるスポンサーシップとしてではなく、ブランドへの憧れ、文化的な関連性、長期的な成長を築くためのプラットフォームとして捉える」ものだ。

ユニリーバはこのネットワークを、社内チーム、代理店とのパートナーシップ、体験型プログラムを通じて運営しているが、具体的な詳細は限られている。ヨコイ氏はこう述べた。「運用モデルはキャンペーン、クリエイター、市場によってさまざまだった。それによって、大規模かつ多様なクリエイターネットワーク全体で、チームが効果的にスケールできるようにしている」。

同社はゼロから作り上げるのではなく、長年にわたるクリエイターファーストのマーケティングへの投資を活用した。コミュニティに大規模にリーチするために「大規模なナノクリエイターキャンペーン」を構築し、「試合当日を超えて会話を続けられる、常時稼働のソーシャルファーストなアプローチ」のために多層的な施策を用いた。

PMGの戦略担当バイスプレジデントであるジェニファー・クイグリー・ジョーンズ氏は、以前Digidayに次のように語っていた。「ユニリーバがワールドカップで行ったことは、インフルエンサーマーケティングの新しい標準がどうあるべきかについて、旗を立てたということだ」。

ユニリーバのような規模の企業にとって、その新しい標準は突き詰めればこういうことだ。すなわち、クリエイターを単にマーケティングの対象として捉えるのではなく、クリエイターのロジスティクス(運用の仕組み)について考える、ということである。

30万人という数字への業界の懐疑



業界の観測筋は、30万人ものアクティブなクリエイターを本当に同時に管理できる企業などあるのか、と疑問を呈している。

クリエイターマーケティングプラットフォームMAVNの創業者オリヴィア・オルモスは、この数字は実務上の実行力というより競合に対するポジショニングを反映したものだと指摘し、そのスケールがこう語っていると述べた。

「あれは『我々は競合を打ち負かしたい。挑戦しようとすら思うな。戦略の観点から、どうやってほかの誰もクリエイターと組めないようにするか』ということだ」。

説明を求められると、ユニリーバは「約30万人のクリエイターからなるアクティブなグローバルネットワーク」だと述べたが、これは説明というより言い換えにすぎないだろう。

この数字は、統一されたひとつのネットワークというより、数十のブランドや市場にまたがる名簿を合算したものである可能性が高い。実際、ユニリーバは30万人のクリエイター全員を1回の会議に集めることはできないと認めている。

知名度の高いクリエイターは長期的な取り組みに起用され、より小規模なクリエイターはスケールと文化的な増幅のために活用される。

アウトラウド・グループ(The Outloud Group)のCEOであるブラッド・フース氏は、効果を測定することの重要性を強調した。

「本当の問いは、あなたのブランドそれぞれにとっての目的は何か、そして総勢30万人のインフルエンサーが、その目的を達成する上でどれほど効果的なのか、ということだと思う」。

自動化がはらむ潜在的なデメリット


ナウ・エージェンシー(The Now Agency)の共同創業者ゲイブ・フェルドマン氏は、自動化には大きなオペレーション上の調整が必要になると警告した。

「スケールは理論上素晴らしく聞こえる。だが一段深く掘り下げると、インフルエンサーのスケールが大企業にもたらすオペレーション上の影響についても考えなければならない」。

彼はさらに、プロセス上の負担についてこう続けた。「審査から契約、ブリーフィング、クリエイティブのレビューまで、剥がしていかなければならないオペレーションの層を考えてみてほしい。多くの組織にとって、数千人規模、ましてや数十万人規模のクリエイターにスケールしようとすれば、社内のオペレーティングモデルに本当に大きな影響を与えかねない」。

自動化は効率を高める一方で、大きなリスクもはらんでいる。AIを活用したクリエイター発見は、同じ候補者を繰り返し見つけ出してしまうリスクがある。

オルモスはこう説明する。「みんなが気づいているのは、自分たちで作ったSaaSのようなツールでクリエイターをスクレイピングして同じ検索をしていて、同じオーディエンスや同じエンゲージメント率を探していれば、結局は同じクリエイターにばかり声をかけることになる、ということだ」。

クリエイティブな発見も、硬直的な自動化のもとでは損なわれる。オルモスは指摘する。

「クリエイティブな思考はこの業界の最前線にある。今日我々が一緒に仕事をしている最高のクリエイターの何人かは、おそらく半年前なら誰かのスプレッドシートのランキングリストには載っていなかっただろう」。

フェルドマンは、自動化が偶然の出会い(セレンディピティ)を排除してはならないと強調した。

「最高のクリエイターとのパートナーシップは、誰かが思い切って誰かを推薦することで生まれることが多い。あるクリエイターとそのマネジャーが、予想外の何かを売り込んでくる。トレンドが一夜にして生まれる。関係が何年もかけて築かれていく。私が今挙げたどの瞬間も、硬直的なワークフローからは生まれない」。

これほどの物量になると、コンテンツの一貫性を保つことが難しくなる。ユニリーバはクリエイターの運用モデルに応じてさまざまな承認プロセスを用いており、中央集権的なシステムは存在しない。この分散化は画一化を防ぐ可能性があるが、フース氏は同質化に陥る危険性を警告した。
「彼らが求めるクリエイティブなコンテンツという点で、ここは平均への競争になりかねない」。

キャンペーンの立ち上げ前にクリエイティブ戦略を展開しておくことは、オーセンティシティを保ち、型にはまった成果物を防ぐのに役立つ。

ユニリーバのビューティー・ウェルビーイング事業グループのCMOであるレアンドロ・バレット氏は、クリエイターとのパートナーシップには根本的な違いがあると認めた。

「フォロワー3億人のクリエイターと組むのと、フォロワー1000人の残り15万人と組むのとでは、まったく別物だ」。

この階層的なアプローチは、クリエイターの規模がネットワーク全体で一様なエンゲージメントやインパクトを意味するわけではない、ということを認識したものである。

[原文:Inside Unilever's 300,000 creator network: the logistics behind the headline number]

Alyssa Mercante and Kimeko McCoy(翻訳、編集:藏西隆介)