「 Z世代 を追わない」ローラ メルシエが狙うX世代とマイクロクリエイター重視

記事のポイント
ローラ メルシエは設立30周年を機に、社内への助言や商品開発を担う目利き役集団「コレクティブ」を新設した。
メガクリエイター中心から多数のマイクロクリエイターを起用する戦略へ転換し、上半期のリーチとEMVは前年同期比約143%増加した。
Z世代偏重から距離を置き、本来の顧客であるX世代との再接続とブランドの原点回帰を図っている。
メイクアップアーティストのローラ・メルシエ氏が1996年に自身の名を冠したビューティーブランドを立ち上げたとき、美容の影響力の中心にあったのは、華やかな雑誌と百貨店だった。それから30年、ソーシャルメディアやオンラインチャネルが主役の座に躍り出るなか、業界はマーケティングの大変革に直面してきた。
目利き役の集団「コレクティブ」を新設
2026年5月、ローラ メルシエは「ザ・ローラ メルシエ・コレクティブ(The Laura Mercier Collective)」を立ち上げた。これは、ブランドの社内コンサルタントと社外プロモーターの両方の役割を担う目利き役(テイストメーカー)のグループだ。
初期メンバーには、作家で『InStyle』元編集長のローラ・ブラウン氏、セレブメイクアップアーティストのジョージー・アイズデル氏、インテリアデザイナーのブリジット・ロマネク氏、そしてビューティーエディターでpodcast司会者のエイミー・チャン氏が名を連ねる。
コレクティブの立ち上げに加えて、ローラ メルシエはインフルエンサー戦略も転換した。一握りのメガクリエイターを狙う手法から、多数のマイクロクリエイターを起用して情報を広めてもらう手法へと切り替えたのだ。
「我々が求めたのは、ローラ メルシエと何らかの自然なつながりを持つ女性たちだ。彼女たちが単にコンテンツを制作したりインフルエンサーであったりするだけでなく、いわば『影響力を持つ女性』でもあってほしかった」。こう語るのは、2021年に資生堂からローラ メルシエを買収したオルヴェオン(Orveon)のグローバルCEO、ジニー・ライト氏だ。
ローラ メルシエの戦略は、より大きな業界のトレンドを反映している。
消費者が従来型のインフルエンサーマーケティングに懐疑的になったソーシャルメディア環境に、各ブランドが適応しようとしているのだ。その結果、ビューティーブランドは、ブランドメッセージを広めてくれる非従来型のインフルエンサーを探すと同時に、インフルエンサーに対して、その知識をより社内的なアドバイザー的役割へと活かすよう求めている。
「インフルエンサーやコンテンツクリエイターは素晴らしいし、実際に購買に影響を与える。だが結局のところ、『この製品は素晴らしい』と言うのが自分の親友や姉妹、母親、兄弟、あるいは誰であれ身近な人であるとき、その真正性と信頼という要素は無限に高まる」とライト氏は語る。
「我々はコレクティブを、彼女たちを文字どおり取り囲み、彼女たち自身もその一員であるコミュニティとしても、またTikTokやインスタグラムなどのチャネルで彼女たちをフォローするより広いフォロワー層としても捉えている」。
同様の戦略を進める他ブランド
こうした戦略をとるのはローラ メルシエだけではない。化粧品ブランドのクリニーク(Clinique)はブラック ハニー・フランチャイズを宣伝するにあたり、ビューティークリエイターを起用しただけでなく、SNSで話題のフローリスト、セプテンバー・スタジオ(September Studio)にオリジナルのフラワーアレンジメント制作を依頼した。
7月28日には、ビューティーブランドのESWビューティー(ESW Beauty)が、インフルエンサーのケイティ・ファンとアリヤ・ラチンスキーを、同ブランド初の「クリエイター・エクイティ・パートナー」に任命した。
7月には、クリーンフレグランスブランドのスカイラー(Skylar)が、リアリティ番組『ラブ・アイランド(Love Island)』のスター、リア・カテブを最高クリエイティブ責任者(CCO)兼「リファウンダー(再創業者)」に迎えると発表した。
化粧品ブランドのミラニ コスメティクス(Milani Cosmetics)も、社内の従業員を起用し、その権威と専門知識を活かして社外向けのソーシャルコンテンツを制作させている。
ローラ メルシエの新しいコレクティブは、製品の共同開発や社外イベントの開催といった取り組みを担う。彼女たちの最初の任務のひとつが、「シークレット カモフラージュ コンプレクション パーフェクター」のリニューアル発売の宣伝だった。
ブランドは2026年5月、『ブリティッシュ・ヴォーグ(British Vogue)』とコレクティブのメンバーが共催するロンドンでのディナーで、この発売を祝った。ライト氏によれば、ローラ メルシエは社外コンサルタントと仕事をするときと同様に、コレクティブのメンバーに対してその時間分の報酬を支払っているという。
本来のX世代の顧客層と再びつながる
こうした特定のメンバーを起用することは、ブランドが本来のX世代の顧客層と再びつながろうとする取り組みの一環でもある。この顧客層は、10代や20代のころに初めてブランドと出会い、いまでは成熟した世代となっているかもしれない人たちだ。
2025年に高級腕時計ブランドのオーデマ ピゲ(Audemars Piguet)からオルヴェオンに移ったライト氏は、ローラ メルシエは近年、その中核となるアイデンティティから逸れてしまっていたと語る。
「多くのブランドがZ世代を追いかけていて、それ自体は何も悪いことではない。だが、X世代こそ価値ある女性であり、自分たちの世界の一員になってほしい女性だと認識しているブランドは、ごくわずかしかない」とライト氏は語る。
サラ・クリール(Sarah Creal)やオールゴールデン(All Golden)といった新興ブランドも、その40歳以上の市場を獲得しようとしている。だがライト氏は、ローラ メルシエには、メイクアップブランドとして確立された権威を頼りに、そうした消費者を引きつけてほしいと考えている。
「ローラが教えてくれたことは、とてもシンプルだ。まず美しく健康的に見える肌をつくり、そのうえに重ねていく、ただそれだけだ」とライト氏は語る。
「我々はいま、このブランドのDNAと、なぜこのブランドが創設されたのかという原点に立ち返ろうとしていると思う。人はときに、あの魔法のような方程式を生み出したものから逸れてしまうことがある。我々はいま、30年前にこのブランドをつくり上げた魔法へと立ち返ろうとしているのだ」。
マイクロ戦略で数値化できる成果
ライト氏によれば、コレクティブのメンバーがブランドにもたらすような影響力に金額をつけるのは難しいという。だが、マイクロインフルエンサーにリーチするために刷新したソーシャル戦略において、ローラ メルシエは数値で測れる成功を収めているとライト氏は語る。
集団として、こうしたマイクロクリエイターたちは、かつて数百万人のフォロワーを抱えるクリエイターが独占していたような力を発揮しているのだ。
かつてローラ メルシエは、ソーシャルメディアコンテンツの約70%をマクロインフルエンサーに割いていたが、いまやその比率は逆転し、マイクロクリエイターが主役となっている。ライト氏によれば、7月時点で、ローラ メルシエは年初来でアーンドメディアバリュー(EMV)が7000万ドル(約105億円)近くに達し、上半期を通じてリーチとEMVは前年同期比で約143%増加したという。
そのEMVの約40%はTikTokによるもので、ローラ メルシエのTikTokフォロワーは18万人強だ。インスタグラムでは、360万人を超えるフォロワーを抱えている。
TikTokのようなプラットフォームでリーチを拡大するなか、ローラ メルシエは、従来型のビューティークリエイターだけでなく、幅広い職業の女性たちにも製品を提供(シーディング)しようとしている。彼女たちは、より幅広い関心領域にわたって、ローラ メルシエが狙う顧客層に語りかけることができる存在だ。
この取り組みは、より大きなマーケティングのトレンドを反映している。ビューティーブランドが、フローズンヨーグルトからリアリティ番組まで、消費者の生活のあらゆる領域に入り込もうとしているというトレンドだ。
「ローラ メルシエは、いまや単なるプレステージビューティーブランドではない。プレステージビューティーのコンテンツエンジンでもある」とライト氏は語る。
「我々は十分な消費者調査を行ってきたので、中核となる消費者の美容以外の関心事もわかっているつもりだ。つまり、彼女は非常に洗練された(キュレーションされた)暮らしを送っている。ビジネスや金融、ニュースに関心がある。当然ファッションにも興味があるが、建築やアート、インテリアデザインにも本当に夢中なのだ」。
だが、ローラ メルシエ・コレクティブのような取り組みがおそらく模倣しようとしているのは、ブランドやソーシャルメディアが直接コントロールできない類の、リアル(IRL)な世界での影響力だ。少なくとも、いまのところは。
「インスタグラムが極めて重要なのは言うまでもないが、TikTok、YouTube、レディット(Reddit)、ピンタレストも同様だ。この5つの領域こそ、消費者がデジタルで活動しているときにもっとも多くの時間を費やしている場所だと私たちは見ている」とライト氏は語る。
「だが、私はやはり、友人や家族というのは、ソーシャルメディアでさえ置き換えられないものだという事実に立ち返るのだ」。
[原文:Laura Mercier is replacing traditional influencers with tastemaker-consultants]
Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)
