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高齢化が進むなか、配偶者との死別後に生活が大きく変わってしまうことは珍しくありません。遺族年金や預貯金があっても、家計や資産を把握していなければ生活の立て直しに苦労するケースもあります。70歳の夫を突然亡くした専業主婦のミユキさん(仮名・65歳)も、お金に関することが何もわからず、不安な日々を送ることになりました。残された家族が困らないために、定年後から準備しておきたいことについて、辻本剛士CFPが解説します。

月22万円の年金生活が崩壊…70歳夫の「突然死」で激変した日常

ミユキさん(仮名・65歳)は、夫のカズユキさん(仮名・70歳)と二人で暮らしていました。ミユキさんは大学卒業後、ほどなくしてカズユキさんと結婚したため、会社員として働いた経験がほとんどありません。結婚後は専業主婦として家事や育児に専念してきました。

一方、カズユキさんは長年、会社の経理部門で働いてきた人物です。そのため、家計の管理をはじめ、銀行口座や年金、税金や各種手続きなど、お金に関することはすべてカズユキさんが担っていました。

カズユキさんは65歳で定年退職し、夫婦合わせて月22万円ほどの年金で生活しています。決して贅沢な暮らしではありませんでしたが、毎月の生活費を賄いながら、不自由を感じることなく穏やかな老後を送っていました。

しかし、そんな日常は突然終わりを迎えます。

ある朝、ミユキさんがお風呂場で倒れているカズユキさんを発見。救急車で病院へ搬送されましたが、すでに息を引き取っていました。

貯金1000万円があっても「何もできない」…残された65歳妻の厳しい老後

何とか葬儀を終えたミユキさんでしたが、悲しみに浸っている時間はありませんでした。これからは一人で生活していかなければならず、実家から車で15分ほどの場所に住む娘のアケミさん(仮名・40歳)も、仕事や家庭の合間を縫って母を支えることになりました。

アケミさんにとって、ミユキさんは家族を大切にし、家事や育児に真面目に向き合ってくれた「いい母親」でしたが、いざ生活を立て直そうとしても、ミユキさんは何をすればよいのかわからなかったのです。

通帳がどこにあるのか、毎月の生活費はいくら必要なのか、年金はいくらでどの銀行口座に振り込まれているのか、公共料金の支払い状況まで、お金に関することを何一つ把握していませんでした。

さらに、カズユキさんが管理していた口座を調べるなかで、預貯金が約1,000万円あることも初めて知ります。

その様子を見たアケミさんは、母がお金に関することをすべて父に任せきりにし、生活に必要なお金のことをほとんど把握していなかったことに気づきます。「このままでは危ない」と危機感を覚えたアケミさんは、まずは今後の収入を正確に把握するため、母を連れて年金事務所へ向かいました。

「遺族年金ってこれだけ…?」直面した“月13万円”の現実

年金事務所で手続きを行うと、ミユキさんが受け取れる遺族年金と自身の老齢年金を合わせても、毎月約13万円になることが判明しました。

「遺族年金ってこれだけ……? これから一人で生活していけるのかしら……」

夫婦で月22万円あった年金収入が約13万円へ減る現実に、ミユキさんは言葉を失います。

娘のアケミさんも、不安を隠せませんでした。仮に以前のように毎月22万円の生活を続ければ、毎月約9万円の赤字となり、預貯金1,000万円も約10年で底をつく計算です。生活費の見直しは避けられません。

しかし、これまで家計を管理したことがないミユキさんにとって、どこを節約し、どのようなペースで預貯金を取り崩せばよいのか判断することは困難です。

結局、ミユキさんは生活全般を娘に頼らざるを得ませんでした。自身の家庭もあるアケミさんは、母の生活まで支えることになり「どうしてお父さんは、お母さんに何も伝えなかったのだろう」と、亡き父へ小さな恨みを抱きながら途方に暮れました。

【CFPの助言】定年後に夫婦で絶対やるべき「お金の共有」

今回のケースでは、遺族年金が少なかっただけが原因でミユキさんの生活が困難になったわけではありません。仮に遺族年金の受給額がもう少し多かったとしても、ミユキさんが一人で生活を立て直すことは難しかったでしょう。

ミユキさんの事例でわかるのは、夫婦間でお金に関する情報共有が十分ではなかったということです。現役時代は役割分担をする家庭も多いですが、定年後は以下のように銀行口座や年金、毎月の生活費などを夫婦で共有しておくことが大切です。

こうした情報は口頭で伝えるだけではなく、エンディングノート終活ノート)などにまとめておくことも有効です。

エンディングノートとは、自身の資産や契約内容、今後の希望などを記録し、家族へ引き継ぐためのノートです。あらかじめ整理しておくことで、残された家族の負担を軽減できるだけでなく、自身も老後のお金や生活を見直すきっかけになります。

しかし、エンディングノートはまだ十分に普及しているとはいえません。NPO法人ら・し・さ(終活ドバイザー協会)の調査によると、エンディングノートを保有している人は全体の13.3%にとどまっています。

出典:NPO法人ら・し・さ(終活ドバイザー協会) 第2回終活意識全国調査報告書

残された家族が困らないためにも、元気なうちからお金や生活に関する情報を整理し、家族と共有しておくことが大切です。「まだ早い」と思わず、今のうちから準備を始めることが、将来の家族の安心につながるでしょう。

“小さな恨み”を残さないために…家族を守る「本当の備え」

夫を亡くしたあと、ミユキさんはしばらく娘のアケミさんに支えられながら生活していました。

アケミさんは仕事や家庭と両立しながら定期的に実家を訪れ、家計簿のつけ方や生活費の管理、年金や公共料金の確認方法などを少しずつ母に教えていきます。

最初は不安ばかりだったミユキさんも、少しずつお金の流れを理解し、自分で家計を管理できるようになりました。数年後には、一人でも安心して生活を送れるまでになったのです。

老後の備えは、資産や年金を準備することだけではありません。残された家族が安心して生活を続けられるよう、必要な知識や情報を引き継ぐことも大切な備えといえるでしょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP