金星では地溝帯の一部が現在も拡大し続けている? 将来の金星探査ミッションに期待
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)のXi Yang氏(修士課程当時)、同校のTaras V. Gerya教授、フライブルク大学のAnna J. P. Gülcher氏は、最新の数値シミュレーションの結果、金星にみられる地溝帯の一部はごく最近まで活発に活動していた可能性が高いとする研究成果を発表しました。
長さは最大で1万km、幅は200km前後にも達する金星の地溝帯は、はるか過去に活動を終えたと考えられてきましたが、場合によっては現在も活動しているかもしれません。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Geoscience」に掲載されています。

“死んだ惑星”というイメージへの疑問
表面の温度は約470℃、気圧は約90気圧に達する金星は、地球の生命にとって過酷な世界です。NASA(アメリカ航空宇宙局)の金星探査機「マゼラン(Magellan)」による観測ではプレートテクトニクス(地殻がプレート単位で動く運動)の証拠が見当たらず、「地質学的に死んだ惑星」というイメージが定着していました。
一方、金星の表面には地球のアフリカ大地溝帯にも似た地溝帯が広がっています。その総延長は約4万kmで、金星表面の約8%を占めています。こうした地溝帯は地質学的には新しい部類の地形として知られていたものの、実際の形成時期は不明確なままで、これまでは1億年以上前に形成されたと推定されていました。
「金星の地溝帯は遠い過去の名残なのか、あるいは今も動いているのか」という問いに答えることが、Yang氏らの研究の出発点です。
高解像度3Dモデルが示した“若さ”の目印
Yang氏らは3次元の熱力学数値コード「I3ELVIS」を用いて、地殻の岩石(斜長石、乾燥したダイアベース、苦鉄質グラニュライトの3種類)の変形特性や、岩石圏の厚さ、拡大速度を変えながら、金星の条件下における地溝の形成過程を系統的に再現しました。
その結果、地溝の縁にできる幅広い隆起地形が、地質学的に若い、あるいは活動停止から間もない地溝の目印であることが判明。拡大速度は年間3〜10cmで、これまでの想定よりも速いことが示されました。
また、地球では侵食が地形を削りますが、金星ではその代わりに地殻がじわじわ沈み込むことで、隆起地形が平坦化します。その速さは地殻の性質次第で、ある組成(ダイアベース)では1500万年ほどで急速に平坦化する一方、より頑丈な別の組成(苦鉄質グラニュライト)では1億年近く経っても隆起の痕跡が残るといいます。こうした幅広く高い隆起地形は、1990年代のマゼラン探査機による観測データでも確認できます。
3つの地溝帯に残る“最近の活動”の痕跡
Yang氏らがシミュレーション結果を実際の金星地形データと照らし合わせたところ、アトラ地域(Atla Regio)の2つの地溝帯(Ganis ChasmaとDali Chasma)、ベータ地域(Beta Regio)の1つの地溝帯(Devana Chasma)が、いずれも幅広い隆起地形をともなうことが判明しました。
これらの隆起地形は拡大速度年間3〜10cmの活動初期段階を再現したモデルと一致しており、ごく最近まで(数千万年以内)活動していたか、あるいは現在も活動している地溝の可能性が示されています。また、地溝の形成には厚さ150km程度の岩石圏が必要で、100km程度の薄い岩石圏では地溝状の構造自体が形成されないこともわかったといいます。

次世代金星探査ミッションへの期待
Gerya教授とETH ZürichのPaul Tackley教授は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が2030年代前半の打ち上げを予定している金星探査ミッション「EnVision」に参加し、観測機器の開発に携わっています。
今回の成果についてGerya教授は、金星の地殻活動をより正確に評価できるようになると述べています。今回その可能性が示された「幅広い隆起地形=活動的な地域」という目印は、将来のミッションで重点的に観測すべき候補地を絞り込む手がかりになりそうです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
関連記事金星は地球の“邪悪な双子”か? 温暖化の限界を映す世界金星の地殻は薄すぎるかも? 今後の金星探査ミッションに期待なぜ金星は「1日が1年より長い」のか参考文献・出典ETH Zurich - Venus: Dead? Far from itXi Yang, Taras V. Gerya & Anna J. P. Gülcher - Recent active rifting on Venus revealed by wide rift flank uplifts (Nature Geoscience)
