ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真

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 東京都新宿区・高田馬場駅付近の路上で2025年3月、「最上あい」名義でライブ配信をしていた佐藤愛里さん(当時22)を刺殺したとして、殺人罪などで起訴された高野健一被告(44)。

【写真を見る】ピンク色のTシャツを着て体育座りをする学生時代の高野被告ほか

 7月15日に東京地裁で開かれた判決公判にて、懲役16年の有罪判決が言い渡された。検察官は懲役20年を求刑し、弁護人は懲役9年が相当と意見を述べていた。

 判決では、犯行の残虐性に加え、暴行後の佐藤さんの姿を配信中のカメラに映すなど、被害者の尊厳を踏みにじる行動が指摘され、起こした結果に対する当然の評価がなされた。その一方で、多額の金銭を貸しながら返還されずに追い詰められた状況について、裁判官からは「同情する余地はある」とも判示された。

 消費者金融にお金を借りてまで、佐藤さんにお金を貸していた高野被告。お金が返されないことに絶望した高野被告の恨みは、どこから殺意に変わったのか--傍聴を行った裁判ライターの普通氏がレポートする。【全3回の第3回。第1回から読む】

事件の1か月前に凶器のナイフを購入

 高野被告が事件をどの時点で、どれほど計画していたかは判然としなかった。

 高野被告には、弁護士以外で唯一借金問題について相談している友人・Bがいた。事件の約1か月前、BとのLINEのなかで高野被告は以下のメッセージを送っていた。

〈借金の回収はほぼ諦めている。俺の今後の人生は復讐だけしたい〉
〈もう俺の人生いいんだけど、(佐藤さんには)苦しんで欲しい〉

「復讐」という言葉は、事件を想起させるものだ。一方、高野被告は「ネット上で借金問題について告発することで、配信者としての佐藤さんの信頼を揺らがせたい」といった趣旨であると主張した。

 犯行に使用したナイフは事件の約1か月前、予備で持参したナイフも事件の約3か月前に購入していた。時期的なことを考えれば、事件を想起したものとも予想される。この点については「趣味」「かっこいい」という理由で購入したとし、自殺に使う、佐藤さんの顔を傷つけるという考えも少しは頭をよぎった程度、などと主張した。

 しかし裁判官から、趣味としてのナイフの購入歴を聞かれると、高野被告は「(これまで買ったことは)ない」と答えた。時期を考えると、趣味としての主張はいささか苦しく感じられた。

 佐藤さんの配信は変わらず聞き続けた。これは差し押さえる財産のヒントがないかと探るためだった。そして、山手線を一周しながら配信を行うという告知を知る。

 1時間ほど考えた上で、翌日のA型事業所の勤務を休む連絡を入れる。佐藤さんの給与を差し押さえることを最優先に考えていたが、考えが変わったという。ここで高野被告は、実際に事件の結末をどこまで予測・計画していたのだろうか。

被告の主張を「文字通りに受け取ることはできない」

 ナイフを2本持って、栃木県の自宅を出た。山手線を一周するとは言うものの、配信内の展開でタクシーに乗ったり逆走したりすることもあり、必ず遭遇できるとも思わなかった。

「襲撃して顔に傷をつけるつもりだった」と、高野被告は法廷で主張した。傷害事件として裁判になり、借金のことがすべて明るみになればいいと思った。顔出ししている佐藤さんの顔を傷つけることで、配信活動に支障がでればいいと思ったと主張した。

 しかし判決においては「自己の心情を過小に述べており、文字通りに受け取ることはできない」などと認められなかった。

 東京の土地勘はさほどなかった高野被告。現場も、人通りはあるが高田馬場の中心地とはまた違う場所であった。しかし、佐藤さんと遭遇し、「あっ、いた」とナイフを取り出した。

 会話をするでもなく、ぶつかるようにして腹にナイフを刺した。佐藤さんは叫ぶも高野被告の耳にはその声は届かなかった。1度ナイフが刺さってから、そこからは無我夢中で、覚えていなかった。

 刺した後に漠然と「これで(自分の)人生終わったな」などと思う。犯行の多くは覚えていないというが、その中でも、声を発さなくなった佐藤さんのスマホを取り上げて佐藤さんに向けるようなことをしたのは、なんとなく覚えていた。そこに意味はないと供述するものの、判決で裁判官は「犯行後も尊厳を踏みにじる行動」と強く非難した。

佐藤さんの母親は「一生許さない」

 弁護人は最終弁論で熱く裁判員に主張した。

「殺人を正当化などはしていません。ただ日本の法律は、高野さんを守りませんでした」

 さまざまな形で報道された本件。反論の機会を奪われた佐藤さん、そして親族にも影響があったことは想像に難くない。

 佐藤さんの母親は、意見陳述の場で「借金で迷惑をかけたのは親として謝罪します」としつつ、「でも愛里の命をあんな残酷な形で奪って憎い」「その姿を世間に晒して、人としての心はないのですか」「家族は一生あなたを許さない」と強い怒りを向けた。

 事件を経て、高野被告の古い友人が今後のサポートを約束することがあったという。人に頼れず抱え込んでしまった高野被告には心強い話であろう。一方で、親族の中には「一人で生きてください」と縁を切る人物もいた。その思いもまた否定できないものである。

 弁護人は最終弁論でこのように主張していた。

「高野さんの長い苦しみを裁判員の皆さまがどのように感じたか、高野さんが感じとれるような判決をお願いします」

 高野被告は懲役16年の判決をどのように受け止めたのだろうか。司法の判断を受け、取り返しのつかない結果を引き起こした事件を省みる長い時間が始まる。

(了。第一回から読む)

取材・文/普通(裁判ライター)