プーチン大統領の胸中は(UN Photo/Rick Bajornas)

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 第1回【ロシア軍の“戦死者50万人”は「ベトナム戦争」以来の異常事態…敗戦に学ばない「プーチン大統領」が犯した最大のミス】からの続き──。ウクライナ侵攻作戦において、ロシアのプーチン大統領は陣頭指揮を取っている。軍幹部に任せず、最前線での作戦にも口を出しているのだ。つまり戦史に残る「ロシア軍の戦死者50万人、負傷・行方不明者95万人」という桁外れの大損害を出した“A級戦犯”は他ならぬプーチン大統領ということになる。(全3回の第2回)

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 実際、軍事関係者からは「文字通りの愚将」という辛辣な評価も少なくない。軍事ジャーナリストも「そもそも帝政ロシア以来、ロシア軍には敗北の歴史しかありません。一応は勝利したと言われる戦争であっても被害があまりにも甚大でした」と指摘する。

プーチン大統領の胸中は(UN Photo/Rick Bajornas)

「帝政ロシア時代を見てみましょう。クリミア戦争(1853〜56)、日露戦争(1904〜05)、第一次世界大戦(1914〜18)と、いずれの戦争で敗れています。ナポレオン戦争(1803〜15)は勝利したことになっていますが、その被害は桁違いです。ロシア軍の戦力は40万人だったとされており、ナポレオン戦争で20万人から30万人の戦死・病死・負傷・行方不明者が出たと推計されています。少なく見積もっても戦力が半減したのです。これが民間人となると多すぎて詳細は分かっていません。しかも防衛のため焦土作戦を敢行し、最後は首都のモスクワさえ焼き払ったわけです」

 ロシア軍が人命軽視の人海戦術に頼るのは伝統と言っていい。その作戦が頂点に達したのが第二次世界大戦、つまり独ソ戦(1941〜45)だった。

「ドイツ軍がソ連に侵攻すると、最初の半年でソ連軍は壊滅的な敗北を喫します。この国家存亡の危機を乗り切るため、男女を問わず動員して兵士とし、無謀な突撃を繰り返させました」(同・軍事ジャーナリスト)

「強い軍隊」より「従順な軍隊」

 単に突撃を命じるだけではない。嫌がる兵士が続出したため、ソ連は「督戦隊」を組織。何と後退する兵士を射殺するという暴挙に踏み切った。結果、ロシア軍だけで何と約870万人の戦死者が出ている。

「死亡した民間人はさらに多く、約1700万人と推計されています。太平洋戦争で旧日本軍の戦死者は約210万から230万人、民間人の死亡者は約50万から60万人とされています。ロシアの死者数と比較すると、レベルが全く違うことが分かります」(同・軍事ジャーナリスト)

 軍事ジャーナリストは「ロシアという国は常に独裁制だということに注目すべきでしょう」と言う。

「帝政ロシア、ソビエト連邦、そしてプーチン大統領と、ロシアは常に独裁国家です。強大な権力を持つ国家元首が君臨し、軍隊にも睨みを利かせています。たとえ指導者が間違った命令を下しても、軍は従わなければなりません。異議を申し立てると粛清されるのは、スターリン時代を見れば分かります。つまり独裁者は究極の選択として『強い軍隊』より『従順な軍隊』を好むのです。ここで思い浮かべる必要があるのは『ワグネル・グループ』のトップだったプリコジン氏でしょう。彼が率いていた傭兵集団や民間軍事会社は、ロシア軍よりはるかに統率の取れた練度の高い軍隊でした。プリコジン氏の最期を振り返れば、プーチン大統領が指揮するロシア軍が弱い理由がよく分かります」

ワグネルの乱」とロシア軍の欠陥

 プリコジン氏は2023年に「ワグネルの乱」を引き起こし、ロシア軍の上層部に反旗を翻した。

ワグネルの乱はロシア軍上層部に対する反乱であり、反プーチン運動ではありませんでした。プリコジン氏と彼の“私兵”は首都モスクワに行軍しながら、軍に蔓延する汚職などを厳しく糾弾したのです。しかしプーチン大統領が彼の“諫言”に耳を傾けることはなく、ベラルーシへの亡命を余儀なくされました。そして搭乗したジェット機が墜落する事故があり、死亡が発表されました。プーチン大統領が暗殺を命じたと見る専門家は少なくありません。いずれにしても『能力が高く、改革を志向する軍人』は独裁者にとって邪魔になることがあるのです。プーチン大統領は『命令に従う無能な軍人』を重用しており、これではウクライナ軍に勝てません」(同・軍事ジャーナリスト)

「とにかくプーチン大統領の命令に従う」という指揮官がウクライナの最前線で何をするかと言えば「プーチン大統領の指示待ち」だ。

 1分1秒の判断が生死を分ける戦場で、こうした指揮官に率いられた部隊に戦死者が続出するのは当然だろう。おまけにウクライナに展開する兵士は傭兵や囚人兵が中心だ。そもそも士気や能力が低い。

汚職が招いた大敗北

 軍事ジャーナリストは「ロシア軍が持つ根源的な欠陥を象徴したのが、ウクライナ侵攻の際、首都キーウ周辺で軍の車両が大渋滞を引き起こしたことです」と言う。

「もともとロシア軍は兵站が苦手という不名誉な伝統があります。最前線に必要な物資が届かないのも戦死者が多い原因でしょう。そして、あの渋滞は『プーチン大統領の命令がなければ車両は動かない』という事実を改めて明らかにしました。さらにプリコジン氏が批判した汚職の問題も大きな原因の一つです。ロシア軍では軍幹部が率先して予算の横領や物品の横流しに手を染めています。車両に必要な無線機が搭載されていないのは当たり前という状況です。中でもタイヤを勝手に売却することがあり、代わりに粗悪なタイヤを軍事車両に装着するのです。タイヤも渋滞が発生した原因の一つと考えられており、ウクライナ軍は渋滞中の車両を攻撃し、大きな戦果を挙げました。これと同じことが1939年にソ連軍がフィンランドに侵攻した『冬戦争』で起きています」(同・軍事ジャーナリスト)

 冬戦争は人口約370万人のフィンランドが、人口約1億7000万人のソ連を相手に100日以上持ちこたえたことで知られる。

歴史に学ばないプーチン大統領

 ソ連軍は、この冬戦争でも甚大な人的被害を出した。戦死者数は約12万から20万人と推計されているほか、重要なのは約26万人が負傷・凍傷したことだ。兵站が貧弱なため、必要な防寒具が最前線に届けられていないことが分かる。

 軍事ジャーナリストは「プーチン大統領は仮にもロシア軍の最高指揮官です。過去の戦訓に学ぶ必要があります。ところが実際はウクライナ侵攻で冬戦争と同じミスをしてしまっているのです。無能な指揮官と批判されても仕方ありません」と批判する。

 もし汚職の蔓延でロシア軍が弱体化しているのなら、その“原因”を取り去ればいい。プーチン大統領は強大な権力を持っているのだから、私腹を肥やす軍幹部を“粛清”するなど朝飯前だろう。ところが彼は、あべこべに黙認しているという。

 第3回【圧倒的な軍事力を持つロシアはなぜ“4年半が経っても勝てない”のか…プーチン大統領が潰した「軍改革」千載一遇のチャンス】では、プーチン大統領が汚職を摘発しない意外な理由や、過去の戦訓に全く学ばない“不勉強”な欠点を専門家が詳しく指摘する──。

デイリー新潮編集部