「トゥヘル監督の采配ミス」。その一言だけで片づけてしまうと...残酷な“12%”。イングランドは先制するまで、1つの完成形を示していた【W杯】
1−2の逆転負け。『タイムズ』は、「最も重圧がかかった時、トゥヘルは縮こまってしまった。交代策は後ろ向きだった」と批判した。『デーリー・テレグラフ』も、「アトランタのスタンドにいたサポーターも、イングランドの街角や家庭のリビングで見ていた人々も、彼の判断が間違いであることをすぐに察した」と記した。
英国での見方は、ほとんど一つに固まっている。アンソニー・ゴードンの先制後、トゥヘル監督が守備的な選手を次々と投入したことでイングランドは主導権を手放し、それが逆転負けを招いた――。これほど各メディアの論調が一致するのも珍しい。あの戦術変更が試合の分岐点だったことに、ほとんど異論は見当たらなかった。
実際に数字は、残酷なほど「イングランドの劣勢」を示していた。
ゴードンが55分に先制してから、ラウタロ・マルティネスに逆転弾を許すまで、イングランドのボール支配率はわずか「12%」。守り切ろうとしたはずの変更によって、試合は「攻撃のアルゼンチン」対「守備のイングランド」という一方向の構図へ変わった。
ただ、この準決勝を「トゥヘル監督の采配ミス」の一言だけで片づけてしまうと、なぜその失敗がこれほど惜しまれるのかが見えなくなる。
ゴードンが得点するまでのイングランドは、トゥヘル監督がこの大会で作ろうとしてきたチームの1つの完成形を示していたからだ。
過去の因縁にふさわしく、試合は序盤から荒々しかった。アルゼンチンは危険な前進を巧みにファウルで止め、判定に不満があれば主審を囲んだ。試合前、元イングランド代表FWで98年W杯では主将を務めたアラン・シアラーは、アルゼンチンを「対戦したなかで最もやりづらく、ダーティーに戦う相手」と評していた。ボールを扱う技術だけではなく、主審との距離、相手の感情まで操ろうとする。
イングランドも苛立っているように見えた。それでも、相手が作った混乱にのみ込まれなかった。エリオット・アンダーソンは球際で引かず、左SBで先発したジェド・スペンスはリオネル・メッシに食らいついた。ジュード・ベリンガムも重圧を受けながら前へボールを運ぶ。決定機の少ない前半だったが、イングランドは互角以上に戦えていた。
先制点には、トゥヘル監督が進めてきたチームの形が表われていた。
ハリー・ケインが低い位置で攻撃に関わり、ロングパスを出す。デクラン・ライスを経由し、モーガン・ロジャーズが鋭いクロスを送り、ファーポストへ走り込んだゴードンが仕留めた。各選手が連鎖したゴールだった。
トゥヘル監督が期待を抱かせた理由の1つは、名前の大きさだけで招集選手を選ばなかったことにある。フィル・フォーデンやコール・パーマーら、中央で違いを作る「10番タイプ」を何人も同居させるのではなく、あくまでもケインとベリンガムを中心に据え、その周囲に幅、走力、守備強度を加えた。
ゴードンやアンダーソンらは試合を重ねるごとに存在感を増し、チームに必要な機能を担うようになった。試合内容が常に良かったわけではないが、クロアチア戦の後半やメキシコ戦の前半には、連動したプレスと縦への推進力があった。
何より、トゥヘル体制には「次の一手が試合を変えるかもしれない」という期待感があった。

