自然の生態系を乱すと何が起きるのか。中華人民共和国の「建国の父」と呼ばれる毛沢東は、「大躍進制政策」という計画の中で、穀物を食べるスズメの撲滅を行い食糧の収穫を増やそうとしたが、その結果、イネの汁を吸うウンカや葉をむさぼるバッタが大量発生し、穀物の生産に大打撃を与えたという。クイズ作家の近藤仁美さんが書いた『世界を変えた「凡ミス」図鑑』(三笠書房)より、紹介する――。
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■スズメを1億羽撲滅した末路

毛沢東は、中華人民共和国建国の指導者だ。1893年に湖南省の農家で生まれ、教師を経て政治活動に入り、1949年に中華人民共和国の成立を宣言した。

彼は、祖国を発展させるため、「大躍進政策」という計画を実行した。これは、農業と工業の発展を意図したもので、一連の施策の最初期に行なわれたプランには、「四害駆除運動」があった。

「四害」とは、カ・ハエ・ネズミ・スズメのことだ。病気を媒介したり、農作物を食べたりすることから、ただ生きているだけなのに国家の敵とみなされてしまった。

なかでも後世への影響が大きかったのは、スズメの撲滅運動だ。

人々は、鍋や洗面器を叩いてスズメを追い回し、巣を壊して卵を割った。スズメは羽を休めることすらできず次々と死に、最終的に1億羽も減少。国内では絶滅寸前に至ったという。

穀物を食べるスズメを減らせば、食糧の収穫が増えるはず。政府はそう考えたが、結果は真逆だった。スズメは雑食性で、穀物だけでなく昆虫も食べている。その昆虫というのが、イネの汁を吸うウンカや、葉をむさぼるバッタだったのである。

敵がいなくなった虫たちはにわかに大量発生し、穀物の生産に大打撃を与えた。

また、当時の政府は、自給自足的な農業から金になる作物を育てる農業への転換を図っていたため、さらに食料事情が悪くなった。

そのほかにも複数の失策が重なり、国内を大飢饉が襲った。

ほんの数年の間に数千万人が亡くなり、この事件は「人類史上最大級の人災」ともいわれる。

なお、学者のなかには特定の生き物を減らすことへの警鐘を鳴らす人もいたのだが、その主張が受け入れられ、政府が方針転換をしたのは、四害駆除運動が始まってから2年後のことだった。

時すでに遅く、農業を取り巻く生態系はガタガタ。しかたなく、ソビエト連邦から25万羽のスズメを導入したという。

■クズが大繁殖し、500億円の損失

ちなみに、人間が特定の動植物を駆除・導入したことで惨事を招いた例は、ほかにもある。たとえば、クズ。秋の七草の一つで、お菓子の葛餅や漢方薬の葛根湯でおなじみの、日本原産のあの植物だ。

クズは、1800年代にアメリカに導入され、当初は観賞用として育てられた。そのうち、土が流れていかないようにするのに役立つ植物として、政府の手で苗木が配られた。

というのも、クズは繁殖力が強い。

根で土をがっちり掴み、つるで地面を覆うこともできるから、土地を守るのにピッタリ。牛の飼料にも使えて一石二鳥……のはずだった。

先ほど「繁殖力が強い」という話をした。

強いというか、強すぎた。

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現地でモリモリ増え、葉で日照を遮ってほかの植物を枯らし、電線に巻きついたつるが停電を引き起こした。クズによるアメリカの被害額は、年間500億円以上にのぼるといわれる。

また、シンプルに「気づいて!」と言いたくなる例もある。

これは日本各地で起きてきたことなのだが、害虫を減らそうとして殺虫剤を撒いた結果、益虫も死滅し、何もいなくなったところに新たな害虫が増えてしまった。

この薬剤はネオニコチノイド系農薬と呼ばれ、秋にみられる赤とんぼの数が減った理由の一つともいわれている。人間にとって都合がよかろうが悪かろうが、虫は虫。まあ、そうなるよね……。

■アブラムシを天敵の効果で減らす

このような反省もあり、最近は農薬に頼りきらず、動植物の組み合わせで作物への被害を防ぐ方法も広まってきた。

一例を挙げると、キャベツの間にオオムギを植えると、アブラムシが減る。これは、オオムギに産卵するヒラタアブという虫の効果だ。

アブラムシは、植物の汁を吸って枯らしたり、葉の病気の原因になるウイルスを運んだりするので、農業の分野では厄介者とされることが多い。

そんなアブラムシの天敵が、ヒラタアブの子ども。幼虫たちがキャベツに移っていってアブラムシを食べてくれるので、キャベツの被害が減る。

オオムギを間に植えると、キャベツのアブラムシを7〜8割減らせる。さらなる効果を狙うなら、コスモスやマリーゴールドを植えるといい。ヒラタアブの成虫は花の蜜や花粉が大好きなので、これらの植物があることで狙った場所に来てくれやすくなる。

このような植物があると、オオムギだけ交ぜたときに比べ、さらに3〜6割もアブラムシが減るそうだ。

■古今東西の凡ミスを知る

こうした相性のよい植物同士は、コンパニオンプランツと呼ばれる。先述のとおり、近年特によく言及されるようになってきたものだが、一部については昔から知られていた。

近藤仁美『世界を変えた「凡ミス」図鑑』(三笠書房)

たとえば、2009年発行のアメリカ1ドル記念硬貨の裏面には、「スリーシスターズ」という栽培法が描かれている。

ネイティブアメリカン伝統の農法で、まず縦に伸びるトウモロコシと地面を横に伸びるカボチャを植え、ある程度育ったら近くに豆を蒔く。

すると、豆のつるはトウモロコシに巻きついて伸び、豆の根に棲む菌が植物の肥料になる窒素を周囲に供給し、カボチャが土の乾燥を防ぐ、というわけだ。

スズメの駆除も、農薬で益虫を殺してしまうのも、現代の私たちからすれば、ある程度結末の想像がつく話だ。

しかし、ミスというものは、実際にやらかすまでは意外と盲点であったりする。古今東西の凡ミスを知ることは、いろんな形の転ばぬ先の杖を得ることかもしれない。

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近藤 仁美(こんどう・ひとみ)
クイズ作家
三重県生まれ。早稲田大学教育学部卒業および同大学院修了。在学中からクイズ作家として活動を始め、日本テレビ系『高校生クイズ』の問題作成を15年間担当したほか、『頭脳王』『クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?』『せっかち勉強』などのテレビ番組や、各種メディア・イベント等で問題作成・監修を行ってきた。2018年より国際クイズ連盟日本支部長。クイズの世界大会では日本人初・唯一の問題作成者を務める。
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(クイズ作家 近藤 仁美)