〈小田急カスハラ〉「録画中です」で暴力行為が2カ月連続ゼロに…全70駅に導入した“ボディカメラ”の効果と撮影データ管理の実態「勝手に撮られるのは嫌」の声も

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全国で年間1500件以上発生している鉄道係員へのカスハラ(カスタマーハラスメント)。2024年度(令和6年度)の国土交通省の資料によると、暴力行為は545件も確認されている。そのようななか、小田急電鉄株式会社は今年4月から駅係員に対してウェアラブルカメラの運用を開始した。

【画像】小田急が導入した“ボディカメラ”の録画映像イメージ

 

導入後は、駅での暴力を伴うカスハラ(カスタマーハラスメント)が2カ月連続でゼロになったという。ウェアラブルカメラはどれほどの効果をもたらしたのか。利用者へのプライバシー配慮も含め、その実態を担当者に聞いた。

暴力を伴うカスハラは2カ月連続で「ゼロ」に

鉄道係員への暴力や暴言、長時間にわたるクレームなど、鉄道現場で深刻化するカスハラ。

国土交通省の資料によると、2024年度に全国の鉄道事業者から報告された鉄道係員などに対するカスハラは1513件に上る。

暴力行為については全国で545件、東京都170件、神奈川県64件と首都圏に集中して発生している。

こうした状況のなか、小田急電鉄は今年4月から全70駅で駅係員向けウェアラブルカメラ(ボディカメラ)の運用を開始。すると導入後2カ月間、駅での暴力を伴うカスハラ(第三者行為)の報告件数はゼロだったという。

はたして、ボディカメラは本当にカスハラの抑制に効果を発揮したのか。現場の変化から撮影データの管理体制まで、「小田急電鉄 広報部」の山田萌々子氏に話を聞いた。

まず、駅での“暴力を伴うカスハラ報告件数”が2カ月連続ゼロという結果は、導入前と比べてどれほどの変化だったのだろうか。

「比較する期間は異なりますが、導入前の昨年4月1日から5月31日までの2カ月間で、6件発生していた“暴力を伴うカスタマーハラスメント”が、今回の導入開始後の2カ月間では0件に。

まだ運用開始から間もないため、ウェアラブルカメラの効果としての言及は時期尚早と考えますが、想定効果が発揮されることへの期待感はあります」(山田氏、以下同)

一方で“暴力行為”以外のカスハラは、どのような変化があったのだろうか。

「暴言や長時間拘束、威圧的な言動などを含むカスハラの報告件数は、昨年同期は8件だったのに対し、導入後2カ月間は5件となりました。ただ、この5件はいずれも駅係員がウェアラブルカメラを装着していない業務中に起きた事案です。ウェアラブルカメラを装着した状態でカスハラを受けたケースは、この2カ月間ではありませんでした。

いずれにしても、運用開始から間もないため、効果についての言及は難しいですが、当社従業員が安心して働け、すべてのお客さまに公平なサービス提供が可能な環境の実現に期待しています」

なお、数字だけでは測れない変化も現場では感じ始めているという。

「駅によって感じ方は異なりますが、『心理的な負担が軽減された』『安心して対応できるようになった』といった声が寄せられています」

一方、ネット上ではプライバシーを懸念する声も…

ウェアラブルカメラ導入にあたっては、すでに運用を始めていた鉄道各社の事例も参考にしたという。

「東日本旅客鉄道株式会社さんや西武鉄道株式会社さん、京浜急行電鉄株式会社さんが先行して導入されていましたので、担当部署間でヒアリングをさせていただき、運用方法などを参考にしました。

ウェアラブルカメラの導入は、カスタマーハラスメント対策だけではなく、通常時の駅構内巡回など、さまざまな場面で活用できるというメリットがあります」

SNSでは「カメラがあるだけで抑止力になる」「全国に広げるべき」と評価する声がある一方で、「常に撮影されるのは抵抗がある」「撮影データは誰が管理するのか」と、プライバシー面を懸念する声も上がっていた。

「プライバシーに対するご懸念はごもっともであり、当社としても意識して導入しました。なお、SNS上では、プライバシーへの配慮を求める声があることも認識していますが、ウェアラブルカメラは常時着用しているわけではありません。使用する場面は駅構内の巡回時やトラブル発生時など、あらかじめ定められた場面に限定しています。

また、録画中はカメラ本体の『録画中』という表示が点灯するため、お客さまへ録画していることをお伝えしながら着用する使用としています」

「誰でも見られるわけではない」録画データの管理体制と活用方法

では、撮影データはどのように管理されているのだろうか。

「映像はカメラ本体で再生することはできず、専用のパソコンでしか確認できません。閲覧できるのも駅長と、駅長不在時は駅長承諾のうえ副駅長のみで、誰でも自由に見られるわけではなく、録画データは駅長の管理のもと適切に保管しています。データは一定の保存容量を超えると古いものから順次消去される仕組みです。

また、鉄道係員には運用マニュアルや指示書でルールを周知しており、使用基準を知らないまま運用することがないよう徹底しています」

録画データの活用方法についてはどうだろうか。

「通常の駅構内巡回では、例えば設備の故障などを発見した際に当該箇所に限った映像を駅長の判断のもと、関係部署やメーカーへ共有し、早期対応につなげています。

また、トラブルや犯罪行為が発生した場合は、事実確認のために映像を確認したり、警察から要請があれば駅長の判断のもとデータを提供したりすることがあります」

現時点では、AIによる自動検知や顔認証などとの連携は検討していないという。

「まずは現在の運用をしっかり定着させることが重要だと考えています。大きな課題はありませんが、『着用に少し負担を感じる』という現場の声もあるため、鉄道係員が無理なく運用できる環境を整えていきたいと考えています」

前出の山田氏は最後に、今回の取り組みについて率直な思いも語る。

「カスタマーハラスメントなどのトラブルは、対応する駅係員だけの問題ではなく、その場に居合わせたお客さまにもサービス提供の公平性等の観点から影響を与えてしまうものです。

だからこそ、駅係員が安心して働き続けられること、そしてお客さまにも安全・安心・快適に駅をご利用いただけることに、この取り組みが少しでも貢献でしていくことに期待しています」

――導入から2カ月という短い期間ではあるものの、小田急電鉄では一定の変化が現れ始めている。ボディカメラは、駅係員を守るだけでなく、駅を利用するすべての人が安心できる環境づくりの一歩となるのか。今後の効果と広がりに注目したい。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)