閉店ラッシュの「イトーヨーカドー」がなぜ復活? セブン&アイから分離されたヨークHD、営業利益急回復の舞台裏
閉店ラッシュで苦戦が伝えられてきた「イトーヨーカドー」が、いま収益力を取り戻しつつある。運営するヨーク・ホールディングスは、構造改革やコスト削減で業績が急回復。グループ傘下のロフトも過去最高益を更新するなど、復活の兆しが見えている。
構造改革に加えて徹底したコスト削減を実施
セブン&アイが米大手投資ファンド・ベインキャピタルに「イトーヨーカドー」を運営するイトーヨーカ堂などを売却したのは2025年9月だ。セブン&アイはその前から数年にわたってイトーヨーカドーを中心に閉店を進めていた。
売却前の2年間で34店舗を閉鎖している。北海道、東北、信越からの撤退を進め、首都圏集中型の店舗展開に改めたのだ。
つまり、ヨーク・ホールディングスは構造改革によって不採算店が整理された状態で、外資系投資ファンドの傘下に入ったわけだ。実際、2025年度の営業利益は急増したものの、売上高は前年比0.7%減少した。増収による増益ではない。
ヨーク・ホールディングスの石橋誠一郎社長は事業方針説明会で「この3年間に実施したヨーカドーの再定義やコスト削減、売上と利益向上のための投資が功を奏した」と語っている。V字回復の下地としてセブン&アイが主導した構造改革があったのは間違いなさそうだ。
いっぽう、ベイン主導の新体制下で徹底的なコスト削減も進めていた。株主が移転した2025年9月に早くも組織内に「グループ変革推進室」を設置。ITコストの適正化やセントラルキッチンの連携などによる経営合理化を図った。変革を推進する各プロジェクトにはベインの担当者や専門家などが参加し、客観的な視点からも議論が進んだようだ。
「イトーヨーカドー」の弱点になっていた総合スーパーという業態を、“食”へとフォーカスした点も大きい。イトーヨーカ堂が手がけていた専門店事業やテナント事業を、「アリオ」や「グランツリー」「セブンパーク」などを手がけるグループ会社クリエイトリンクに移管する方針を打ち出したのだ。これも経営合理化の一環である。
こうした取り組みによってイトーヨーカ堂は中核事業に集中できるようになった。
イトーヨーカ堂は2026年度中にプライベートブランド「セブン・ザ・プライス」を400アイテム規模にまで拡大する計画を立ち上げた。商品数を従来より3割増やすという内容だ。
一般的にプライベートブランドはメーカー品と比べて粗利率が高く、スーパーにとってメリットが高い。また、消費者の節約志向を背景に割安なプライベートブランドの選好度は高まっている。イトーヨーカ堂はメーカー品よりも1~2割程度安い商品を新たにラインナップするという。
誕生から2年を迎えた総菜ブランド「YORK DELI(ヨーク・デリ)」もオリジナル商品を強化する方針を打ち出した。仮に食料品の消費税率引き下げが実施されれば、総菜は外食需要の一部を取り込む施策になり得る。このタイミングで商品のクオリティを上げる施策を打ち出したことには、大きな意味がありそうだ。
スーパー買収にも意欲を見せる
ヨーク・ホールディングスがセブン&アイから切り離され、選択と集中が進んだことのメリットは大きかったようだ。
セブン&アイの2024年度における国内コンビニエンスストア事業の売上は9041億円だが、営業利益率は約26%と驚異的な収益性を保っていた。いっぽう、スーパーストア事業の売上は1兆4321億円あったものの、営業利益率はわずか0.7%である。
スーパーマーケットの営業利益率は平均1~2%ほどだ。ヨーク・ホールディングスは2025年度の営業利益率が3%だった。一般的な水準と比較をすると驚くほど収益性が高まってはいるが、仮にセブン&アイの傘下にあった時代に0.7%から3%に引き上げたとしても、会社全体にとっての恩恵はそう大きくはない。経営陣は、どうしてもコンビニ事業を大きくすることに目が向いてしまうのだ。
ヨーク・ホールディングスの売却額は8147億円。M&Aでは借入をするのが一般的であり、ベインキャピタルの持分も100%ではないため、出資した額はこれより小さいとみられる。しかし、巨額の投資をしているのは間違いない。ベインは将来的にはヨーク・ホールディングスの上場という青写真を描いているようで、収益性の向上に力を注ぐのは当然である。
こうして見ていくと、V字回復には2つの主要因として、「構造改革」と「選択と集中」がある。
アメリカの金融メディア「ブルームバーグ」は7月7日、ヨーク・ホールディングスが2年半以内にスーパーを買収する可能性があると報じた。ベインのパートナーでありヨークの取締役でもある西直史氏が語ったものだという。
買収した企業の経営合理化を進めた後に出店や買収によって拡大へと転じるのは、投資ファンドによる企業価値向上施策の典型的な手法だ。さらなる成長に向けた次なる一手に期待が高まる。
「ロフト」はコスメで実店舗ならではの強みを発揮
「イトーヨーカドー」だけでなく、「ロフト」「アカチャンホンポ」「デニーズ」も既存店売上は前年を上回った。
その中でも「ロフト」の業績回復が著しい。2025年度の営業利益は83億円。3期連続で過去最高を更新した。
2023年に「ロフト名古屋」が閉鎖し、2025年に「梅田ロフト」が売場面積を縮小して移転したことが話題となったが、家賃が高い繁華街の大型店は採算性が悪化。効率の良い小型店に注力する方針を示した。売場面積を縮小した「神戸ロフト」は利益率が高まったという。
ECの台頭によって、実店舗が大量の商品を陳列して「目的買い」の需要を取り込むことは従来ほど優位性を持ちにくくなった。採算性を重視しつつ、買い物そのものの楽しさを提供するエンタメ性と、他の店にはない独自性を打ち出すことが重要なのだ。
そんななか、足元ではコスメの売れ行きが良く、ドラッグストアや百貨店が扱いづらい中価格帯のラインナップを強化している。コスメは実店舗での体験価値を出しやすい領域だ。「ロフト」は独自商品の展開にも力を入れている。
コスメは「ロフト」に近い小売業態の「無印良品」の良品計画が力を入れている領域で、会社の成長を後押ししている。今後の伸びしろもありそうだ。
取材・文/不破聡

