国際的な文学賞・コモンウェルス短編小説賞の最優秀賞に「AIで書かれたのではないか」という疑惑がかけられている作品が選出されました。コモンウェルス短編小説賞では、地域別受賞作5作品のうち3作品にAI執筆疑惑が浮上しています。

Commonwealth Short Story Prize - Commonwealth Foundation

https://commonwealthfoundation.com/short-story-prize/

Short story accused of being AI-written wins overall Commonwealth prize | Books | The Guardian

https://www.theguardian.com/books/2026/jul/01/judges-claims-ai-use-commonwealth-short-story-prize-jamir-nazir

イギリスやカナダ、インドなど加盟国56カ国からなるイギリス連邦(コモンウェルス・オブ・ネイションズ)の国民を対象として、2012年から「コモンウェルス短編小説賞」という文学賞が開催されています。審査対象は2000〜5000語の未発表の短編小説で、まずは「アフリカ」「アジア」「カナダ&ヨーロッパ」「カリブ海」「太平洋」という5つの地域ごとの受賞者を選び、この受賞者の中から最優秀賞を選ぶという方式です。

2026年度のコモンウェルス短編小説賞には史上2番目に多い7806作の応募があり、5月に各地域の受賞者が発表されました。ところがSNS上では、カリブ海地域の受賞作であるジャミール・ナジール氏の作品『The Serpent in the Grove(森の中の蛇)』について、AIで生成されたのではないかという指摘が相次ぎました。その後、カナダ&ヨーロッパ地域の受賞作とアジア地域の受賞作にもAI使用疑惑が浮上していました。

国際的な短編小説賞を受賞した5作品中3作品が「生成AIで書かれた可能性が高い」と指摘される事態に - GIGAZINE



『The Serpent in the Grove』がAIによる執筆であると指摘された理由は、「not x, but y(XではなくY)」という生成AIのテキストによく見られる言い回しがある点や、不自然な単語の繰り返しが複数含まれている点です。また、「Sun on galvanise is a cruel instrument(亜鉛メッキに降り注ぐ太陽は残酷な道具だ)」「She had the kind of walking that made benches become men(彼女の歩き方は、ベンチを男に変えたようなものだった)」といった独特の言い回しも生成AIを使ったからではないかと指摘されています。

コモンウェルス短編小説賞の受賞作をオンラインで公開していた文芸誌のグランタは、「編集上の公正さを保つため、グランタ・トラスト理事会は、今後外部との出版提携を行わないことを決定しました」という声明を出し、今後の受賞作掲載を取りやめることを表明しています。

文学賞受賞者のAI使用疑惑を受けて受賞作品を掲載していた文芸誌が「編集権のない出版提携から撤退する」と発表 - GIGAZINE



しかし、こうした疑惑をはねのけるように、賞を主催するコモンウェルス財団は『The Serpent in the Grove』をコモンウェルス短編小説賞の最優秀賞に選出しました。作者のナジール氏には地域別賞の賞金2500ポンド(約54万2000円)と最優秀賞の賞金2500ポンド、合計5000ポンド(約108万4000円)が贈られることになります。

コモンウェルス財団は最優秀賞の選出にあたり、SNS上で上がった声に応じて地域別受賞者の草稿やタイムスタンプ付きのテキスト、メモなどを精査したとのこと。財団事務局長のラズミ・ファルーク氏は、「執筆者の方々の証言と、執筆にAIを使用していないという確認に満足しています」とコメントしています。

コモンウェルス財団は受賞者のインタビュー映像を公開しており、ナジール氏による受賞コメントを26分50秒すぎから見ることができます。

2026 Commonwealth Short Story Prize film - YouTube

この男性がナジール氏。



『The Serpent in the Grove』のストーリーは、トリニダード・トバゴ田舎に住んだ経験から生まれたとのこと。



ナジール氏は、イギリス領トリニダード島(現トリニダード・トバゴ)出身のV・S・ナイポールや、カリブ海諸国出身者として初めてノーベル文学賞を受賞したデレック・ウォルコットに影響を受けたと語っています。



ナジール氏はスマートフォンの音声認識機能を使って執筆しているそうです。狭い画面には一度に3〜4行しか表示されないため、次の段落に進む前に時間をかけて文章を磨き上げたと話しています。



ファルーク氏はイギリスの日刊紙The Guardianへの声明で、「AI検出ソフトウェアに判断を委ねるのではなく、受賞者には制作途中の草稿や概要、芸術的な道のりの証拠を示すよう求めました。言うまでもなくソフトウェアは完璧ではなく、矛盾した判定を下すこともあり、その結果は賞の基盤である信頼そのものを損ないます」と述べ、型にはまらない才能を持った作家ほどAI疑惑がかけられやすいと主張しました。

あるXユーザーは「非常にがっかりして、意気消沈しています。生成AIを巡る騒動の後も、コモンウェルス財団は自分たちの主張を貫こうとしたように思います。これからは、コモンウェルス短編小説賞に作品を投稿する前にもう一度、よく考え直すかもしれません」とコメントしました。