飲食店で「イヤホンをつけてスマホ」に没頭する人は出世できない...年収1000万円層と明暗を分ける”残酷な差”
オフィス街の混雑した飲食店で、誰もが一度は目にしたことのある光景。外には席を待つ列ができているにもかかわらず、ワイヤレスイヤホンをつけ、スマートフォンの画面を見つめたままご飯を食べる。そして、一向に席を立とうとしない人物だ。
店員が「お済みのお皿をお下げしますか」と声をかけても反応がない。肩を叩かれて初めて、驚いたように顔を上げることもある。
「最近の若い社員は周囲への配慮が足りない」と、フラストレーションをため込む人もいるだろう。ただ、現代の職場では、こうした細かな振る舞いを直接注意するのは難しい。
ただ、これを単にモラルの問題として捉えるだけでは、見落としてしまうものがある。昼休みの何気ない振る舞いには、仕事で求められる「周囲への注意の向け方」や「状況に応じて行動を切り替える力」が表れることもあるからだ。
1日44分の学びが、年収の壁をつくる
総務省の社会生活基本調査などを見ると、日本の社会人の半数以上は、勤務先以外で自己研鑽をほとんど行っていないことがわかる
経営大学院や企業研修、動画学習サービスなどを展開し、長年にわたって社会人教育に携わってきたグロービスの調査でも、一般の社会人の約6割が「業務外で学習していない」と回答している。さらに、学習習慣の有無には、役職や年収との相関がみられたそうだ。
一方、国家試験や民間検定のオンライン試験運営を手がけるCBTソリューションズが、全国の男女1308人を対象に行った調査では、年収1000万円以上の層の13.3%が、週20時間以上を学習に充てていた。全体では3.1%にとどまっており、高年収層ほど学習時間が長い傾向が表れている。
学習時間を増やせば、ただちに収入が上がるわけではない。それでも、成果を出す人のなかには、通勤電車や昼休憩などの隙間時間を活用し、経営知識や語学を学び続けている人が少なくない。
では、同じようにイヤホンをつけ、スマートフォンの画面を見ていたとしても、そこにはどう違いがあるのだろうか。
心理学や行動神経科学の知見をもとに、人々の行動パターンを分析する遠藤貴則博士は、次のように指摘する。
「イヤホン利用者は、大きく二つに分かれます。一方は、自己研鑽のために音声学習や動画教材を使う人。もう一方は、退屈を埋めるためにSNSやショート動画を無目的に消費し続ける人です。当然ですが、同じ画面を見ていても目的や使い方はまったく異なります」(遠藤氏、以下「」も)
没頭する人ほど「カモ」にされやすい
もっとも、勉強でも娯楽でも「周囲の音が聞こえにくい状態をつくる」点は同じだ。
ただ、遠藤氏は、重要なのはイヤホンを使うこと自体ではなく、「周囲にどれだけ注意を残しているか」だと説明する。
「学習意欲が高い人ほど、没入することで他人に迷惑がかかる状況を避けます。休憩室や公園など、集中しても問題のない場所を選ぶのです。
対して混雑した店内でショート動画を見続け、店員の声や席を待つ人の存在に気づかない場合は、注意が目の前のコンテンツだけに偏っている可能性があります。周囲に気を配る意思がないというより、“外部の状況を処理する余力が残っていない”とも考えられます」
人間が一度に向けられる注意には限界がある。現代社会では、アテンション、つまり注意力は、企業やサービスが奪い合うほど価値の高い資源だ。それを無目的なコンテンツに使い続ければ、周囲の変化に気づき、行動を調整する余力が失われることもある。
もちろん、昼休みに動画を見たからといって、直ちに仕事の能力が下がるわけではない。問題は、必要な場面でも意識を画面から外へ戻せない状態が、習慣になっていないかどうかだ。
周囲の状況を把握することの大切さについて、遠藤氏は、自身の父の友人がアメリカのカジノで体験したという印象的な逸話を紹介する。
「ギャンブルを学んでいたある父の友人が、カジノで勝ち続けていた老人に、その秘訣を尋ねたそうです。すると老人は学生を郊外のカジノへ連れていき、コートの下に隠していた弾の入っていないショットガンを、店内で一瞬だけ『ガチャッ』と鳴らしました」
スロットマシンの電子音や歓声が響くなか、不意に混じった異質な金属音。老人は学生に、どの客がその音に反応したのかを見るよう促したという。
ある客は顔を上げ、周囲を見渡した。別の客は警戒するように席を離れた。しかし、一つのテーブルだけは誰も音に気づかず、目の前のゲームを続けていた。
「老人は、そのテーブルの客は勝負に集中するあまり、周囲の変化が見えなくなっていると考え、『あそこにはカモがいる』と話したそうです。つまり、目の前のことに没頭しすぎると、相手の動きや環境の変化を見落としやすくなる。そうした教訓を示す、興味深い話です」
周囲の違和感を察知する力が求められるのは、ギャンブルの世界に限らない。ビジネスでも、会議の空気が変わった瞬間や、取引先の表情がわずかに曇ったタイミングに気づけるかどうかで、その後の対応は大きく変わる。
だからといって、四六時中、周囲を警戒し続ける必要はない。大切なのは、必要なときに意識を外へ向け、状況を確かめられるかどうかである。
日常の油断に“仕事の地力”が出る
一人で食事を取るランチタイムは、誰の目も気にせず過ごせる、つかの間の解放された時間だ。当然、休憩中まで常に周囲の模範である必要はない。ただ、気が緩んだときの振る舞いには、その人が普段どれだけ周囲を見ているかが表れることもある。
「店員が水を注ごうとしていることに気づかない。背後に席を待つ客が並んでいても、その気配を察知できない。もちろん、こうした振る舞いだけで、その人の仕事能力まで決めつけることはできません。
しかし、周囲の動きや他人の感情を読み取る習慣がなければ、職場でも先回りした対応が遅れやすくなります。複雑な利害関係を調整したり、トラブルの芽を早い段階で見つけたりする仕事では、目の前の作業だけでなく、その周りを見る力が求められます」
仕事をするうえでは、自分の言動が相手にどう受け取られるかを想像する力が欠かせない。周囲の状況を見ながら、必要に応じて行動を切り替えられる人は、職場でも信頼を得やすいだろう。
反対に、自分の関心だけに注意を奪われ、周囲からの働きかけに気づかない状態が続けば、「状況を見られない人」と受け取られる可能性もある。
「今は休憩中なのだから、少しくらい好きにさせてほしい」--そう言いたくなる人もいるだろう。もちろん、忙しい仕事の合間に休息を取る権利は、誰にでもある。
ただ、手元のスマホから次々と流れ込んでくる強い刺激は、本当に疲れた脳を休ませてくれているのだろうか。
後編『仕事ができない人は昼休みに「イヤホンをつけてスマホ」に没頭…では、仕事ができる人は何をしている?』では、頭脳労働者が無意識のうちに陥りやすい「脳を疲れさせる休み方」の実態と、午後のパフォーマンスを高める“正しい休息の法則”について掘り下げていく。

