狼狽売り、利確、乗り換え、一点集中、枠復活…新NISAでやってはいけない本当の理由
新NISAがはじまって2年あまり。つみたて投資枠だけという人は、たまに見る口座残高の「含み益」の数字に、思わず頬がゆるむという人も多いことだろう。実は新NISAで資産を本当に減らすのは、株価の暴落ではなく「自分の手」であることが多い。制度の仕組みはもう十分に理解したはず。にもかかわらず、利益が乗った局面ほど人は動きたくなり、その一手が非課税のメリットを削ってしまうのだ。
新NISAの設計思想は「長期・積立・分散」。裏を返せば、頻繁に売買するほど制度の良さは薄れる場合がある。ここでは、含み益が出た今こそ陥りやすい5つの失敗を、起こりやすい順に取り上げ、それぞれ「やりがちな行動」「何が起きるか」「代わりにどうするか」を考えていく。
間違い1:急な下落での「狼狽売り」
相場が下げると「これ以上減る前に」と売りたくなる。いわゆる「狼狽売り」というものだ。もはや、これは多く人は認識されてことだろう。
しかし、その理由を明確に説明できるだろうか。
簡単にいうと、新NISAは非課税保有期間が無期限なので、旧NISAのように「期限があるからその前に」という判断を迫られることはない。つまり、長い目で捉えて、慌てて売る理由はないことだ。
しかも、見落としやすいのはNISA口座の損失は、他の口座(特定口座・一般口座)の利益と相殺する「損益通算」ができず、翌年以降に持ち越す「繰越控除」も使えない。課税口座なら、損失を出しても他の利益と相殺して税金を軽くできるが、NISAではその救済がない。言い換えれば、安値で投げ売りすれば、非課税のメリットも、税制の救済も同時に失う“二重の損”になってしまうからなのだ。
間違い2:「利益確定したい」で売る
含み益が出ると「いったん利確したい」という思いが出てくる。ここで誤解されがちだが、NISA口座で売った利益そのものには税金はかからない。問題はその先にある。理由は、売っても、その年の年間投資枠は戻らないからだ。
「利確したお金を、もう一度NISAで買い直せばいいのでは?」と思う人もいるだろう。たしかに、年間枠に空きがあれば買い直せる。NISAの年間枠は「つみたて120万円+成長240万円=合計360万円」。たとえば成長投資枠をまだ使っていなければ、利確した100万円を、その240万円の枠を使って買い直すことはできる。
問題は、その買い直しに枠を使うと、新しい資金を非課税にできる余地が、その分だけ減るということ。つまり、100万円を買い直しに充てれば、成長投資枠の残りは140万円。本来なら新規のお金を入れられたはずの枠を、“すでに持っていた資産の入れ替え”で消費してしまう。
そして、すでにその年の枠を使い切っている人は、もっと厳しい。利確したお金を年内はNISAへ戻せず、行き先は利益に約20%(20.315%)課税される通常の課税口座しかなくなってしまうからだ。いずれにせよ途中利確は、非課税の体力を削る行為になりやすく、値上がりしたからと利確するのは、控えておくほうがよいのだ。
間違い3:値上がり銘柄への「乗り換え」
「あのファンドの方が伸びている」と気になり、保有を売って人気銘柄へ乗り換えるというのも、要注意だ。乗り換えには〈高値づかみ〉と〈年間枠の浪費〉という二重の落とし穴がある。
具体例で考えてみよう。年初に成長投資枠240万円を使い切った人が、夏に話題のテーマ型ファンドへ乗り換えたくなったとする。手持ちを売っても、その年の成長枠は戻らない。「売れたのに、年内はもう成長枠で買い直せない」という状態になってしまう。成長枠の空きがあればよいが、乗り換えのたびに買い替えることでその年の非課税で買える額をすり減らすことになる。資金的に余裕があれば、少額から新しい銘柄を買うほうが無難だ。
さらに言えば、過去のリターンが高い銘柄=これからも高い銘柄、とはいえない。直近で大きく上がったものほど、価格は割高に振れていることが多い。人気を追いかけて高値で乗り換え、その後の調整で含み益を失うということは、よくある負けパターン。気になる銘柄が出てきても、まずは積立の手を止めず、淡々と続けるほうが結果的に良い成績になりやすい。
間違い4:成長投資枠で「一点集中」
自由度の高い成長投資枠は、つい個別株や話題のテーマ型に偏りがちだ。当たれば大きいが、外れたときの下落も大きい。仮に資産の大半を1銘柄に集中させ、その銘柄が50%下落したとする。元に戻すには、そこから2倍(+100%)の上昇が必要になる。下げの痛手は、同じ率の上げでは取り返せない。一方、全世界株のように数千銘柄へ分散した投信なら、1社の不振が全体に与える影響は限定的だ。
非課税の最大の武器は「長く持ち続けられること」。値動きの荒い一点集中は、その武器を生かせない。広く分散したインデックス投信をコア(土台)に据え、個別株やテーマ型は“余力の範囲”にとどめ、配分の主従を逆にしないことがポイントになる。
間違い5:「枠復活」を当てにする勘違い
「売れば枠が復活するから」と、機動的な売買を前提に動く人がいる。だが、この“枠復活”を当てにした立ち回りは、現状では大半の人にとって取らぬ狸の皮算用というもの。
枠復活とは、生涯枠1800万円を使い切った人が、保有商品を売って翌年にその分の空きを取り戻す仕組みだ。逆に言えば、まだ枠が余っている人は、売らなくても残りの枠で新規に買えるので、復活を待つ必要がない。しかも、新NISAは始まってまだ3年目。2024年・2025年と毎年満額(360万円)投資してきた人でも元本はおよそ720万円どまりで、1800万円の上限に届いた人は誰もいない。つまり2026年の時点で「枠復活」を気にする必要のある人は、ほぼいないということになる。1800万円の復活枠活用は、もうちょっと先の話になる。
結局は…いちばんのリスクは「動きすぎ」
新NISAで最大のリスクは、暴落でも円安でもなく運用の「動きすぎ」だと言っていい。含み益が出た今こそ、利確・乗り換え・狼狽売りの誘惑が強まる。だが制度がもっとも報いてくれるのは、長く・コツコツ・分散して持ち続けるということ。最良の一手は、静かに見つめ“何もしないこと”である。2~3年目に身につけるべきは、増やす技術よりも「触らない技術」かもしれない。
※本稿は、投資における情報提供を目的としたものです。株式の売買は自己の責任において、ご自身の判断で行うようお願いします。

