フリーランスから正社員へと戻る人が急増しており、フリーランス人材マッチング会社では、その数は去年から2.5倍に増えているという。なぜ、このような“正社員回帰”の動きが加速しているのだろうか。

【映像】フリー→正社員に回帰したAさん(32)の焦燥感

 ニュース番組『わたしとニュース』では、“正社員回帰”の背景やフリーランスの厳しい現実について、フリーランス人材マッチング会社「Hajimari」人材紹介事業責任者・藤井健二朗氏の見解を交えつつ、エコノミストの崔真淑氏とともに深掘りした。

■「正社員の自由度が増した」一方で…フリーランスに立ちはだかる不確実性

 藤井氏によると、正社員に回帰する人が増える背景には、AIの普及や正社員の自由度が増したことがあるという。

「AIの進化により作業などの案件が想像を超えるスピードで激減。これまで4〜5人必要としていた業務が自分1人〜2人程で出来てしまうといったことがフリーランスの現場で起きている。また、リモートワークを取り入れる企業が増え、正社員の自由度が増すなど、働き方の差が無くなってきている」

 こうした背景について、崔氏は次のように語る。

「確かにリモートに移行してそのままという企業も多い。なぜそうしているのかと聞くと、『そうしないと社員が確保できない』。ただ、大手やある程度のブランド力のある企業は、リモートから回帰している会社も結構増えている。これは日本だけではなく世界的な動きなので、本当に『正社員=自由度が増した』ままなのかはちょっとまだわからないと思う」(崔氏、以下同)

 その上で、フリーランスから正社員への回帰が2.5倍に増えている現状については…

フリーランスの不確実性が、経済や景気だけでなくAIなどいろいろなことがありすぎると感じるところはあると思う」と、フリーランスを取り巻く環境の急速な変化を指摘した。

■「年収1000万でも余裕ではない」1.5倍〜2倍稼がないと割に合わない現実

 ある調査では、「ITフリーランスなら年収1000万円は余裕で稼げる」と答えた人は1/3に留まり、「余裕ではない」が6割以上を占めた。さらに、「満足のいく収入を得ているか」という別の調査でも、「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」をあわせると半数以上に上った。

 この結果を踏まえ、崔氏はフリーランスとして稼ぎ続けることの難しさを解説する。

「仕事を受託するだけではなく、自分の単価や見せ方も工夫しないと、ずっと同じ仕事や同じ時給でやることになる。そうすると身体もついていけない。年収1000万稼げても、5年後、10年後は違うかもしれないという意味では、余裕で稼ぎ続けられるかまで考えての『余裕ではない』が6割を超えているのだと思う」

 さらに藤井氏によると、フリーランスは正社員の1.5倍から2倍稼がないと同じレベルの手取りにはならないという厳しい現実もあるそうだ。

フリーランスの方が短期的に正社員に比べて手取りが増えると見えがちだが、正社員にあるような社会保険料を全額自己負担しなければいけない。退職金や企業年金もない。仮に病気等で休んでしまった場合は正社員であれば当然収入が入るが、そういったものはなく、賞与や福利厚生も当然ない。そういったものを全て足し合わせていくと、結果として会社員の1.5倍、人によっては2倍の稼ぎがあっても同等の手取りになるという実態はある」

 正社員がもらえる「見えない給与」をすべて自力で確保しなければならない現状に、崔氏も自身の経験から深く同意。

「福利厚生はもちろんないし、全部自腹。ボーナスもないし、企業年金も例えば小規模企業共済などに入って自分でコストを払って行わなくてはいけない。有休ももちろんないため、とにかく働き続けないといけない。でも、働き続けると身体に影響が出て働けない。バランスを常に考えなくてはいけないという意味では厳しい側面はある。だからこそ、1.5倍から2倍というのはその通りだと思う」

■「外注で実務ばかり」…“市場価値”の壁に打ち勝つには「10年後を見据えて…」

 フリーランスの厳しさは収入面だけではない。藤井氏は「フリーランスは自分の“市場価値”を上げにくい」と指摘する。

「正社員は企業にとって財産なので、責任ある仕事をやらせて育てる。フリーランスは外注として実務作業をするケースが多く、本当に責任のある業務やチームマネジメントなど“市場価値”の高い経験を積みにくい」(藤井氏)

 この“市場価値”の壁をどう乗り越えるべきか、崔氏は次のようにアドバイスを送る。

「『同じ仕事を5年後もやっていたらいけない』『仕事を少しずつマイナーチェンジしていかないと生き残れない』というのをフリーランスとしては考え続けなきゃいけないのだろう。また、“市場価値”を上げていくためには、資格や学位など、わかりやすいものを武器として持つことが実はかなり効果的だという研究もたくさんあるため、“市場価値”をフリーランスが上げにくい中でどう上げるかという工夫は心がけなきゃいけない」

 そして最後に、20代や30代のうちから“自己投資の種”をまいておくことの重要性を語った。

「『10年後これで食べていけるのか』を毎日考えつつ、景気とAIの影響で自分の仕事は本当にあるのかを意識しながら、自己投資はぜひやってほしい。これは正社員の方にも言えることだが、フリーランスの方には特に強く意識してほしい」

 自由な働き方に伴う重い責任と、AIの台頭によるスキル要件の激変。フリーランスの「理想と現実」を冷静に見つめ直した結果、安定と持続的な成長を求めて正社員へ“回帰”する動きは、今後さらに加速していくかもしれない。

(『わたしとニュース』より)