《90g100円→55g158円》カルビーのポテトチップスが高くてスカスカになった「苦しい裏事情」…逆風のなか利益を死守するため決断を迫られていた
最近、スーパーやコンビニの菓子コーナーでポテトチップスを手に取るたび、こう思わないだろうか?
「ずいぶん高くなった気がする」
「あれ、軽くなった?」
あなたのこの感覚は正しい。
例えば、国内のポテトチップス市場で7割近くのシェアを占める王者・カルビーは、「ポテトチップス」の価格と内容量の改定をこれまで何度も実施。1975年の登場時の同商品は90gで100円(税抜、以下同)だったが、現在は55gで158円(想定価格、販売店によって変動する)になっているのだ。
高くてスカスカになった現状は独自グラフからも明らかだ。
前編記事〈カルビーのポテトチップス、相次ぐ改悪で「高くてスカスカ」に…大人気お菓子の《変わり果てた現在》〉で詳しく解説している。
しかし、企業側もただ利益のためだけにこうした改定を行っているわけではない。
カルビーの相次ぐ改定に隠された“本当の理由”に迫る。
異例の「白黒パッケージ」
実際、カルビーの苦境を象徴する出来事が、異例のパッケージ変更と、それに伴う政府の異例の対応だ。
カルビーは、中東情勢を受けた印刷インクなどの原材料調達の不安定化を理由に、「ポテトチップス うすしお味」や「かっぱえびせん」など14商品のパッケージを順次、白黒の2色に変更する方針を打ち出した。
石油化学製品(ナフサ)の供給不安などが影を落としていると見られるが、お馴染みのカラフルな世界観が消え、白黒印刷となったパッケージには、消費者の間でも波紋が広がっている(図表4)。
この事態に対し、政府も動き出した。
2026年5月、佐藤官房副長官は「印刷用インクやナフサについて、直ちに供給上の問題が生じるとの報告は受けておらず、日本全体として必要な量は確保されていると認識している」と述べ、農林水産省がカルビーに対して直接ヒアリングを行い、実態把握に乗り出す事態にまで発展しているのだ。
一企業の商品パッケージの変更に対して政府が動くというのは、まさに異常事態と言えよう。
では、なぜカルビーは、そこまでしてコストを削らなければならなかったのか。
利益率は低下傾向
現在のカルビーの業績を確認するため、2019年3月期以降の売上高と利益の推移を概観してみよう(図表5)。
一見すると、2022年3月期の売上高がいったん減少しているように見える。
しかし、これは業績が悪化したわけではない。
この期から「収益認識に関する会計基準」という新しい会計のルールが適用された影響だ。従来は「販売費及び一般管理費」として処理していたリベート(販売奨励金)などを、あらかじめ売上高からマイナスする処理に変更したため、表面上の売上高が目減りした。
この影響を除いた実質ベースで見れば、売上高は右肩上がりで伸び続けている(リベートを控除しなかった場合の2022年3月期の売上高[総売上高]は2780億円となっていて、前期比4.2%の伸び率となっている)。
一方で、懸念されるのは利益と利益率の推移だ。
売上高が3000億円の大台を突破して成長を続けるなか、営業利益は横ばい、あるいは減少傾向にある。特に営業利益率は、コロナ前後では10%前後を維持できていたが、直近の2026年3月期には7.7%にまで低下してしまっている。
原価率が67%に急騰、原因は?
ここで財務の観点から非常に興味深いのが「原価率」の推移だ。2019年3月期には約55%だった原価率が、2026年3月期には約67%にまで跳ね上がっている(図表6)。
「なぜこれほどまでに原価率が上がっているのか?」と疑問に思う方も多いだろう。
一つは、間違いなく「コストの高騰」だ。気候変動による原料ばれいしょ(じゃがいも)の不作による収量減に加え、輸入原料、食油、物流費など、あらゆるコストが上昇している。
しかし、理由はそれだけではない。
前述した「会計基準の変更」が、原価率の上昇にマジックをかけているのだ。リベート等の控除により「売上高(分母)」が小さくなった一方で、商品の製造にかかる「売上原価(分子)」は会計基準変更の影響を受けない。分母だけが小さくなるため、計算上、原価率が実態以上に大きく上昇してしまうのだ。
異常なコスト高騰と、会計基準変更による見かけ上の利益率悪化。この強烈な逆風の中で、カルビーは「規格改定(量の減少)」と「価格改定(値上げ)」を断行することによって、なんとか7%台の営業利益率を死守・維持できているというのが財務から読み取れる実態だ。
最後に、これからの展望を見てみよう。
カルビーの切実な財務戦略
カルビーが発表した2027年3月期の計画では、売上高は3700億円(前期比+8.8%)の増収を見込む一方で、営業利益は262億円(前期比+0.1%)と「横ばい」の予定となっている。
この計画には、冒頭にあったように、ポテトチップスやじゃがりこの価格改定および規格改定による対策が織り込まれている。
しかしそれでも利益が伸び悩むのは、中東情勢の緊迫化などに伴うエネルギーや原材料価格のさらなる高騰リスクを、営業利益を約30億円押し下げるマイナス要因として見積もっているからだ(図表7)。
価格改定や規格改定を進め、ついにはパッケージの印刷インクの色数まで削ぎ落としてコストを切り詰めてもなお、外部環境による利益圧迫の要因は大きくのしかかっている。
このように私たちが何気なく買っている一袋のポテトチップスの「値段」や「軽さ」、そして「白黒のパッケージ」には、激動する世界経済の波と、それに抗いながらなんとか利益を絞り出そうとする企業の切実な財務戦略が詰まっている。
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一部監修:村上茂久氏/『決算分析のプロが教える 最高の教訓 倒産』著者、ファインディールズ代表取締役社長
