自分の夢についてスピーチし始める人、大道芸をやる人、高く飛ぶためにひたすらジャンプしている人……渡邊渚さんが綴る「自分を解放してくれた1人NY滞在記」
2024年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん(28)。2020年の入社後、多くの人気番組を担当したが、2023年7月に体調不良を理由に休業を発表。退社後に、SNSでPTSD(心的外傷後ストレス障害)であったことを公表した。約1年の闘病期間を経て、再び前に踏み出し、NEWSポストセブンのエッセイ連載『ひたむきに咲く』も好評だ。そんな渡邊さんが、クリスマスシーズンに訪れた「ニューヨークでの思い出」について綴ります。
【写真】ニューヨークでのひとり旅を満喫する渡邊渚さん。透明感溢れるグラビアも
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以前のエッセイにも書いたが、昨年のクリスマスシーズンに、ニューヨークへ行った。今回は、1人NY滞在記だ。
私は一人で異国の地に行くのが大好きだ。見知らぬ土地に1人で行く緊張感の中で、目に映る景色は一層輝いて見えるし、自由に時間を使える気楽さもある。
1人でじっくり見て回れるからこそ気づくことのできる新しい発見や、自分にとっての普通との小さな差分を見つけることが楽しくてたまらない。どんどん言葉が出てきて、今もこの文章を書く手が追いつかないくらいだ。
事前にTikTokでニューヨークの情報を集めていたら、街が小便臭いという動画が再生数が多く、よく出てきた。だから、ジョン・F・ケネディー国際空港を出る時、恐る恐る息を吸った。すると意外と小便臭さはなく、例えるなら椎茸を水で戻しているような匂いがした。
空港からマンハッタンへ向かう電車内で、早速洗礼を受けた。横に座っているお兄さんはりんごを丸かじりして、顔に果汁が飛んできた。イヤホンをせず爆音で音楽を流している人、ずっと大声でスピーチしている人、車内はカオスだった。
日本の電車内でそんな人がいたら、他の乗客は車両を変えるなどして離れていくだろうが、ニューヨークの電車は違った。誰が何をしてようが、みんな他者を気にしてない。特に避けるわけでもなく、それぞれの思うがままに時間が過ぎていく。俺は俺、私は私、な空間で、その様子が面白くてワクワクが止まらなくなった。
マンハッタンへ到着すると、ビルの高さに圧倒された。高さ400〜500m級、階数で言えば100階建てレベルのビルが建ち並び、その隙間から見える空はとても狭かった。一番を競い合うかのようにニョキニョキと伸びるビル群は、日本にはない景色で新鮮だった。
散歩していたら、そのビルたちの入口が自動ドアではなく、回転扉が主流であることに気がついた。日本ではなかなか出会うことがなくなってきた回転扉に、少しドギマギしてしまった。大縄跳びで縄に入るタイミングを探っている時のようだった。
回転扉は、私をニューヨークの流れに乗せる。日本の自動ドアのように、待ってはくれない。無事、回転扉を通り切った時、颯爽と歩くニューヨーカーのスピードにちょっとだけ近づけたような気がした。
世界中の歴史を集めて、今を更新し続ける街
朝から盛大にクリスマスのイルミネーションがついてる。電力無駄じゃない? 節電したほうが……とつい思ってしまったが、この場でそんなことに気を留めているのは日本人の私だけのようだ。アメリカの潤沢さを目の当たりにした。
ニューヨークには、メトロポリタン美術館やアメリカ自然史博物館など、世界中から取り寄せた珍しいコレクションが鑑賞できる。それらの貴重な展示に感動するのはもちろんなのだが、私は、世界最先端の研究と叡智が詰まっていることに心が躍った。ここは、世界中の歴史を集めて、さらに今を更新し続ける街なのだと思った。
NYといえば、ブロードウェイも外せない。クリスマスの定番のショー、ダンスカンパニーのロケッツが主催しているラジオシティ・クリスマス・スペクタキュラーを観に行った。
会場の周りにはキッチンカーが出ていたり、クリスマスマーケットが開催されていたりして、ポップコーンやチュロスのような甘い香りに包まれている。まるでテーマパークにきた気分だ。
会場は巨大な円形の劇場で、ショーが始まると壁や天井一面にプロジェクションマッピングが施される。360度クリスマス一色になって、没入感が凄まじい。
サンタクロースが登場すると、スターが現われたかのように、子どもたちがキャーと黄色い歓声を上げる。「アーユーレディークリスマス?」とサンタさんが観客に向かって聞くと、「いぇーーーす!!」と可愛らしい声が響き回り、大人も思わず笑みが溢れるあたたかい空間で、ほっこりした。
一糸乱れぬラインダンスは圧巻だったし、本物のラクダ2頭がステージに登場したり、蝶々が飛んでいたり、演出がとにかく豪華で、どうなってるの!? と大人もびっくり。ショーをただ見ているというより、アトラクションを体験しているかのように、ニューヨークの冬の風物詩を堪能できた。
いい意味で他人に興味がない
夜になって、タイムズスクエアへ行った。今この文章を書いている最中にも、奇抜な服装をして自分のファッションショーをしている人や、サンタの格好をして「Merry Christmas!!」と叫びながらカーゴバイクを漕いでいる人が目の前を通り過ぎていく。サンタが漕いじゃってるじゃん、そこはトナカイの仮装じゃなきゃだめじゃない? と心の中でつっこんだ。
別の方向へ目線を移すと、50代くらいの女性が路上ライブをしていたり、「Everybody watch me! Wait! Watch me!!」といって通行人を止めて自分の夢についてスピーチし始める人もいたり。大道芸をやっている人もいれば、高く飛ぶためにひたすらジャンプしている人もいる(←どういうこと)。
その様子を見て、私は、ここにいる人たちはいい意味で他人に興味がない、と感じた。他者の目を気にしたり、年齢や性別に縛られたりしていない。自分が一番大事で主人公なのだ! と主張するかの如く、皆自分を表現していた。
歌いたい人は歌ってるし、叫びたい人は叫んでるし、踊りたい人は踊っている。飛びたい人は飛んでるし、注目を浴びるために何かをしている人もいる。
自分がやりたいように生きて、それを尊重される世界が広がっていた。また、自己愛があることが恥ずかしくない場所で、みんな大きな夢を持ち、挑戦している。あなたはそれでいいんだよと肯定される街、それがニューヨークだった。
人や技術、お金、情報、さまざまなものが流れ続けるこの場所は、忙しなさも感じるが、今を更新していく気概に満ちていた。私にとって、ここはとても居心地がいい。はじめは小便臭いのが怖くて息を吸うのもヒヤヒヤしていたし、高すぎるビルと多すぎる人に圧倒されたが、今は大きな翼を授けられたような気分になった。
一度ホテルに戻り、日本では派手で目立つからと遠慮していた服に着替えた。私も、自分を解放して、好きに生きようじゃないか。鼻歌を歌いながらスキップして、夜のニューヨークへ駆け出した。
【プロフィール】
渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。今後はフリーで活動していく。2025年1月29日に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。同年6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。
