53歳でスペインに単身留学し、現在はジョージアに滞在中のRitaさん(56歳)。スーツケースとリュック1つずつに収まる以外の荷物をすべて手放し、日本から出て4年、振り返った今だからわかる「あのとき手放してよかったもの」があると語ります。また、それとは反対に、海外生活を始めてから改めて買ったものもあるのだそう。詳しく伺いました。

手放してよかったもの1:大好きだった「かかとのある靴」

私は靴が好きでした。ヒールのラインや色、並んだ靴箱を眺める時間も好きでした。靴屋を通れば必ず立ち止まり、夜な夜なネットで似たデザインを探すのも、ささやかな楽しみでした。

【写真】海外ではブランドバッグより布のトートバッグ

でも、出発時に残したのは、運動靴1足、ビーチサンダル1足、かかとのないパンプス1足の計3足だけ。

結果、留学先のスペインでヒールを履く機会は一度もありませんでした。石畳でゆがんだ歩道を歩く毎日。必要だったのは「美しさ」よりも「安定」でした。運動靴もサンダルもすでに何度も買い替えています。

好きだったけれど、なくても困らなかったもの。その代表がヒールでした。

手放してよかったもの2:かっちりした「ブランドバッグと財布」

ボーナスで買ったバッグや、少し背伸びした財布も思いきって手放しました。

スペインでは、みんな布のトートやリュックをもっています。街に高級ブティックのお店は並んでいるけれど、ブランドバッグを日常使いしている人はほとんど見かけません。もし私がブランドバッグをもって地下鉄に乗ったら、「今日は特別な日?」と浮いてしまう気がします。

そして今の財布は、パスポートが入るやわらかいポーチ。海外では常にパスポートや現地通貨、カードを持ち歩くので、体に近い内ポケットに収まるもの、目立たない軽さが安心です。かっちりしたブランド財布は、重くて固くて、むしろ不便でした。

「見せる持ち物」から「守る持ち物」へ。優先順位がすっかり変わりました。

手放してよかったもの3:重さのある「紙の書類や本」

紙は重いんですよね。書籍や写真はできる限りデータ化しました。業者に頼む余裕もなく、写真は1枚ずつスマホで撮影。今もパソコンの中に残り、ときどきのぞいて微笑(ほほえ)んでいます。

持ち歩いている紙は、原本が必要な書類と、子どもたちからもらったメッセージカードだけ。それもA4ファイル1冊に収めています。

出国時、成田空港で荷物が3kgオーバーになり、その場で処分したのはほとんど紙類でした。「念のため」とつめ込んだスペイン語テキストやノート。語学学校に行けば教材は配られ、文具はどこでも買えました。あのとき空港で必死に選別したものたちの多くは、今では思い出せないくらいです。

「なくなると困る」と思っていたものの多くは、じつはなくても生きていけるものでした。

買ったもの1:旅の必需品「携帯電話」

7年使った携帯は、反応も遅く、充電も不安定。それでも「まだ使える」と我慢していました。ですが、eSIMが使えない機種であることがわかり、旅を続けるには限界でした。

そこで、マドリードでスペイン人の友人が一緒に店舗を回ってくれ、価格を比較し、私の使い方に合うものを真剣に考えてくれました。海外での大きな買い物は、想像以上に心細いものです。言葉も契約も保証も、自分ひとりでは不安ばかり。でも、隣で「これなら大丈夫だよ」と言ってくれる人がいるだけで、こんなにも心強いのかと知りました。

もし日本で、同じように不安な顔をしている海外の人を見かけたら、今度は私が手を差し伸べてあげたい。そんな思いが積み重なる出来事でもありました。

買ったもの2:いろんな用途に使える「iPad」

パソコンの調子が悪くなり、持ち運びしやすい端末として購入。今では本の代わり、ノートの代わり、そして意外にも、書類への直筆サイン用として役立っています。

ときに携帯代わり、ときにパソコン代わり。紙を減らした分、1つの画面が何役も担ってくれ、とても重宝しています。

買ったもの3:寒さをしのぐための「ヒートテック」

洋服もかなり思いきって整理しました。「各アイテムは3つまで」と自分のなかでルールを決め、スカートも上着も最小限に。寒がりなのに、冬物も随分処分しました。

そして迎えた、マドリードの冬。乾いた冷たい空気、朝の石畳はしんと冷えきり、室内も日本のようにどこもかしこも暖かいわけではありません。じわじわと体の芯が冷えていき、ついに観念して、ユニクロへ。ヒートテックの棚の前に立ったとき、なんとも言えない安堵感がありました。

迷わず“超”のつく暖かいタイプを2枚、買い物カゴへ。日本よりだいぶ高い値札でしたが、寒さは値段には代えられませんでした。着た瞬間、体全体がホッとしたのがわかり、無理をしていたのだと気がつきました。

減らすことはたしかに大事です。でも、たりないと認めることも同じくらい大事。「身軽さの見直し」の象徴にもなります。

「本当に必要なもの」を意識して暮らし続ける

住む場所が変われば、必要なものも変わります。今はスーツケース1つで不自由なく暮らせています。ものが少ないと、管理もラクで、選択も早い。工夫や知恵を使うことも増え、それも海外生活のおもしろさの1つと感じています。

ただ、日本に戻ったら…ポーチの財布で友人とランチに行くのは、少し気が引けるかもしれません。そのときは、また少しだけ「今どきのお財布」を探しに出かけてしまいそうです。

ものを減らしたことで、選ぶ楽しみが消えたわけではありません。ただ、「本当に必要か?」と一度立ち止まる癖がつきました。

スーツケース1つで暮らす4年目の今も、その問いをもち続けて暮らしていこうと思います。