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フィギュアスケートのペアで「りくりゅう」ペアが逆転で金メダルを取得するなど、日本人選手の活躍で盛り上がりを見せるミラノ・コルティナオリンピックですが、選手に対する誹謗中傷が多数確認され、JOC(日本オリンピック委員会)が対応にあたっていることが報じられました。

フリースタイルスキー女子の近藤心音選手は今月5日、公式練習中に負傷したためスロープスタイルを棄権して帰国。自身のインスタグラムに「次は辞退してくださいね」とコメントが届いたことを明かし、「人生で初めてのアンチです」と投稿していました。

アスリートへの誹謗中傷はこれまでも度々問題になっており、JOCも選手を守るために24時間SNSの投稿などをチェックする体制で今回のオリンピックに臨んでいますが、報道によると、1月18日以降、中傷が含まれる投稿が約6万件以上確認されているそうです。

なぜ、こうした誹謗中傷は後を絶たないのでしょうか。そもそもこうした投稿には、法的にどのようなリスクがあるのでしょうか。簡単に解説します。

●刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪が成立する可能性がある

このような投稿には、名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。どちらが成立するかは「事実を摘示したかどうか」で区別されます。

「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を下げるに足りる具体的な事実を示すことです。

たとえば「〇〇はドーピングをしている」「〇〇は故意に負けた」などの事実を公然と示して名誉を毀損すれば、名誉毀損罪(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

なお、真実であっても、公益目的など一定の要件(刑法230条の2)を満たさない限り処罰の対象となるので注意が必要です。

一方、事実を摘示せず、抽象的な悪口や侮辱的な表現を行った場合については、侮辱罪の成否が問題となります。

たとえば、「〇〇はゴミのようなやつだ」などという投稿は「侮辱」にあたる可能性があります。

●法務省サイトで「侮辱罪にあたる」事例を確認できる

侮辱罪は令和4年(2022年)の刑法改正で法定刑が引き上げられました。

それ以前は「拘留」(1日〜30日未満の身柄拘束)または「科料」(1000円以上1万円未満を支払う)のみでしたが、現在は1年以下の拘禁刑や、30万円以下の罰金も選択できるようになっています。

「どこまで言ったら侮辱罪になるのか?」が気になると思いますが、実は法務省のサイト(https://www.moj.go.jp/content/001446563.pdf)から侮辱罪事例集(法制審議会刑事法部会配布資料)を読むことができます。

この事例集の中で、SNSやインターネット掲示板への投稿、動画のコメント欄への書き込みなどが侮辱罪で処罰された事例が多数紹介されています。

一例を挙げると、インターネット上の掲示板スレッドで、特定の女性に対し「こんな女、大枚積まれても抱きたくねぇ」などと投稿していたケースで、30万円の罰金(略式命令)というものもあります。

多くの方が思う以上に、犯罪とされる範囲は広いのではないでしょうか。

●グループLINEや鍵アカでも「公然」になる?

「公然と」とは、不特定または多数の者が認識し得る状態で行うことをいいます。

フォロワーが少ないアカウントや、グループLINE・鍵付きアカウントのような一見クローズドな空間でも、第三者に伝わる可能性がある場合や、そもそも中のメンバーが多数である場合などには、公然性が認められることがあります。

自分だけのつもりや、仲間内のつもりでも、法的には「公然」と評価され、名誉毀損罪や侮辱罪の対象となり得る点に注意が必要です。

●民事ではどうなる?

民事上は、名誉毀損や侮辱に当たる行為によって相手の名誉や名誉感情を侵害した場合、不法行為(民法709条、710条)に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

民事では「名誉毀損」と「侮辱」の区別は、刑事ほどには厳密ではなく、論評や価値判断を含む表現でも、社会通念上許される限度を超えていれば不法行為として責任を問われます。

損害賠償に加え、謝罪広告などの名誉回復措置を求められることもあります。

なお、リポストやリツイートで他人の投稿を拡散した場合も、その内容が名誉毀損や侮辱に当たれば、同様に刑事・民事の責任を負うおそれがあります。

●匿名で行ってもバレる

インターネット上への書き込みでは、本名などを明かさないことが多いと思います。

しかし、この場合でも「発信者情報開示請求」という手続きによって発信者(書き込みをした人)が特定され、検挙されることがあります。

発信者情報開示請求についても、近年増加するインターネット上の誹謗中傷や著作権侵害などに対応するべく、2022年に新しい制度が導入されました。

これによって、開示手続きの負担がある程度軽くなったことも手伝ってか、請求件数は年々増加する傾向にあります。

●「誹謗中傷」の自覚がない人も多い

弁護士ドットコムの調査では、自分が誹謗中傷に該当する投稿をしているとは思っていない人が多いという結果も出ています。

応援しているからこそ、落胆したり怒ったりする気持ちがあるのはわかりますが、「応援のつもり」「批評のつもり」の投稿でも、名誉毀損や侮辱として処罰や損害賠償の対象となる可能性があります。

なお、犯罪の成立には「故意」が必要ですが、名誉毀損罪や侮辱罪の成立に「誹謗中傷だ」という自覚は不要です。

応援が攻撃にならないように注意しつつ、観戦を楽しみたいものです。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)