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1月30日、山形県山形市の山形地裁で注目の裁判の第1回口頭弁論が開かれました。

【写真を見る】クマ問題「なぜ町がハンターを訴える?」批判殺到の小国町“1660万円請求”裁判…第一回口頭弁論、その裏にある「法の仕組み」(山形)

原告は山形県小国町、被告はかつて町の鳥獣被害対策実施隊員だったハンターの男性と保険会社です。ハンター側は訴えの棄却を求めています。(次回は3月)

クマ駆除中の誤射事故を巡り、町がハンター側に約1660万円の支払いを求めた異例の裁判。「マタギの里」として知られる町で、なぜ行政がハンターを訴える事態になったのか。その第1回口頭弁論が開かれたのです。

「クマ被害対策のために命がけで協力しているハンターを、町が訴えるなんて恩知らずだ」

提訴の方針が報じられた当初、ネット上では町への批判が相次ぎました。実際に苦情や意見も町にはあったとか。しかし、裁判資料と事の経緯を詳しく読み解くと、そこには「町がハンターを攻撃したいわけではない」という、行政特有の複雑な事情が見えてきます。

今回の騒動、一体何が起きているのでしょうか?取材をもとに、その内容をみていきます。

■発端は「誤射事故」

すべての始まりは、2023年4月9日に起きた事故でした。

小国町の「鳥獣被害対策実施隊」として出動していたハンター3人が、クマの駆除活動を行っていました。現場でクマが現れた際、隊員の1人である男性(今回町に訴えられた被告)が発砲。しかし、その弾丸はクマではなく、前方にいた仲間の隊員の男性(以前町を訴えた原告)の右膝に命中してしまったのです。

■事故の状況は

日時:2023年4月9日 12時25分ごろ

場所:小国町大字叶水の山林内

被害:撃たれた男性は、右大腿骨開放骨折という重傷。筋肉や皮膚の一部が欠損し、長期の入院とリハビリを余儀なくされ、現在も後遺症に苦しんでいるといいます。

弾丸:使用されたのは着弾時に広がるという殺傷力の高い弾丸だったとされていて、被害は大きかったということです。

このあと、複雑に事情と心情が絡む裁判が起こされることになるのです。

■最初に「誤射の被害者」が「町」を訴えた

事故後、町は公務災害として、被害者の男性に対し、治療費や休業補償など、あわせておよそ1663万円を支払いました。

しかし、被害男性にとって「足を撃たれ、生涯残る障害を負った」ことへの補償としては、この金額では不十分でした。そこで被害男性は、さらなる損害賠償金(およそ3000万円)を求めて裁判を起こします。

ここでポイントとなるのが、「誰を訴えたか」です。 彼は、撃った本人ではなく「小国町」を訴えました。それはなぜか。

これは「国家賠償法」という法律に基づくもので、「公務員(この場合は公務として活動中のハンター)が他人に損害を与えた場合、国や公共団体(今回は町)が賠償する」というルールがあるためです。

被害者の男性は訴状の中で、誤射した男性には「重過失(重大な不注意)」があったとしています。「前方に仲間がいるのに安全確認を怠った」という主張です。

■「重過失」がポイント 町と保険会社に主張の相違

ここで話が複雑になります。 通常こうした事故に備えてハンターは「ハンター保険」に入っています。今回も、誤射した男性はハンター保険に入っていました。

しかし、町が「事故には過失があったのでは」として保険会社や本人に確認したところ、「過失は認めない(だから金は払わない)」と拒否されてしまったのです。

こうして、次のような状況が生じてしまいました。

町(税金):被害者に1663万円を払った上に、さらに裁判で追加の賠償金を請求されている。

保険会社:「過失はない」として支払いを拒否。

撃ったハンター:「過失はない」と主張。

町としては、「もし撃ったハンターに『重過失』があるなら、本来それは町(税金)ではなく、本人が責任を負うべき(保険でカバーすべき)ものではないか?」と求める立場になります。これを法律用語で「求償権(きゅうしょうけん)」と言います。

■ 町が提訴した「本当の理由」

このような事情から、町が起こし30日に始まった裁判の目的は、ハンターを責めることではなく「責任の所在をはっきりさせて、被害者の補償を保険金で賄えるようにすること」にあります。

もし、被害者が町を訴えている裁判で「撃ったハンターに重過失があった」と認定された上で賠償すべきとの判決が出たとします。すると町は追加で賠償金を支払うことになりますが、その原因を作ったのはハンターの「重過失」となります。

先に書いた通り、法律(国家賠償法1条2項)では、「公務員に故意または重大な過失があったときは、公共団体は本人に償還を請求できる」と定めています。

つまり、30日にはじまった裁判で町が主張しているのは、以下の理論になります。

被害者の裁判で「ハンターの重過失」が認定される可能性がある。もしそうなれば、町が肩代わりしたおよそ1660万円は、本来ハンター側(保険)が払うべきお金になる。しかし、現在、保険会社も本人も支払いを拒否している。

公金を扱う自治体として、おカネを回収できる権利(求償権)があるのに放置すれば、「なぜ補償に税金を使うのか」という視点で説明がつかなくなるのです。

かくして「裁判という公の場で、重過失があるのかないのか、保険が適用されるべきか否か、はっきりさせよう」と提訴せざるを得なかったわけです。

■対立ではなく「解決」のための提訴

小国町の担当者は「苦渋の決断」であり、「ハンターには感謝している」と話しています。こうしたことから分かる通り、これは感情的な対立ではありません。

被害者・・・人生を奪われた補償がほしい。

町・・・被害者は救済したいが、すべて税金で賄うわけにはいかず、保険でカバーできる分は請求しなければならない法的義務も生じる可能性がある。

誤射した男性・保険会社・・・過失を簡単には認められない。

この3者の主張と事情が絡み合った状態を解きほぐすために、町は「被害者が町を訴える裁判」と「町がハンター・保険会社を訴える裁判」をセットで審理(同時審判)してほしいと求めています。

「マタギの里」としてクマと共生してきた町だからこそ、ハンターをないがしろにするのではなく「法的にしっかり決着をつけたい」。そのために選んだ避けられない選択だったといえます。

クマとの関わりは、今後も私たちにとって大きな問題となりそうです。裁判の今後の動きが注目されます。