(※写真はイメージです/PIXTA)

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不動産価格の高騰や金利の上昇により、家を買うことのハードルが高くなっています。こうしたなか、需要が高まっているのが「築古リノベ物件」です。都内の賃貸マンションから郊外の築古リノベ物件に住み替えた30代夫婦の事例をもとに、持ち家購入時の注意点をみていきましょう。

SNSの影響で持ち家に憧れを抱く妻

荒井勇人さん(仮名・38歳)は、妻の佳織さん(仮名・31歳)と都内の賃貸マンションに2人で暮らしています。世帯年収は約1,100万円(夫:1,000万円、妻:100万円)で、月の手取りは68万円ほどです。生活に不自由はありませんが、月約25万円の家賃が家計を圧迫しています。

結婚して1年ほど経った頃、妻の佳織さんが、周囲の影響で持ち家に憧れを抱くようになりました。

特にSNSでよく見かける、古民家や築古マンションをフルリノベーションした「レトロでおしゃれな家」の投稿に心を奪われ、「こんな暮らしがしたい」と考えるようになったそうです。

無垢材の床、タイル貼りのキッチン、アンティーク照明……思い描く暮らしのイメージはどんどん膨らんでいきます。

「ねえ、そろそろマイホームにしない? 土地の価値は落ちないから資産にもなるし。家賃だけ払うのはもったいないよ」 

ネットで手に入れた情報を並べ立て、「マイホームが欲しい」と説得を試みます。

勇人さんとしては、高騰が続く都内のマンションを買うことははばかられ、あえて身軽な賃貸に住むことを選んでいました。

しかし、「こういう家に住みたい」と、楽しそうにSNSの投稿を見せてくる妻が可愛く思え、さらに予算的にも、将来的にも、少し不便でも郊外に住宅を持つほうが現実的かもしれないと考えるように。そして「郊外にある築古の戸建」を探してみることにしました。

妻が選んだ物件を購入

家探しを始めてから数週間後、佳織さんが「ここが良い!」と見せてきたのは、埼玉県内・築30年の3LDK、約2,500万円の2階建て戸建でした。

金額は魅力的ですが、家から最寄りの駅までは徒歩25分、そこから勤務先まで電車で約40分もかかります。

「うーん、ちょっと通勤が大変そうだな……」

勇人さんは難色を示しましたが、「リモートにすればいいじゃない」と佳織さんは譲りません。また佳織さんは、「庭があってカフェ風のリノベが映える」「子育て支援にも定評があるため、子どもができても安心」と、物件の魅力を勇人さんにプレゼンします。

勇人さんは迷った挙句、妻の熱意に押される形で購入を決意しました。

購入価格は土地建物で2,500万円。ここに700万円の大規模なリフォームを施し、かかった金額は合計3,200万円です。1,200万円の貯金から、頭金として500万円を用意しました。

こうして、夢のマイホーム暮らしがスタートします。

もうイヤ…妻の“心変わり”に夫は疲弊

妻の憧れである「郊外のおしゃれなレトロ物件」で暮らし始めた荒井家。妻はうれしそうでしたし、勇人さんとしても、ゆくゆく子どもを持つことになったら、都内の狭いマンションよりもいいかもしれないと考えるようになりました。

また金銭的にも、月々のローン返済額は約8.5万円で、家賃として25万円払っていたことを考えると、正しい選択だったようにも思えます。

――ところが、入居から1年も経たないうちに、佳織さんが不平不満を漏らすようになりました。

「ここさ、周りにになんもないね。知り合いもいないし、パートの時給が都内よりだいぶ低い」

「同世代のパート、子どもがいる人ばっかで話が合わない」

「寒い……戸建てってマンションより寒くない?」

「ねえ最悪! 今日もゴキブリが出た」

妻の希望で購入した郊外の戸建て。長い通勤から帰ってきては愚痴を聞かされ、さすがの勇人さんもウンザリです。

「そういうことも、織り込み済みだったんじゃないの?」

やがて、夫婦関係もギクシャクしてしまいました。

そして極めつけとなったのは、お隣に住む老夫婦の言動です。はじめは人当たりがよく、「いいお隣さんに出会えて運がいい」と話していた2人でしたが、顔を合わせるたびに荒井夫妻のプライベートをあれこれと聞いてきます。

「昨日はずいぶん帰りが遅かったのね、どこへ行っていたの?」

「実家はどちらなの?」

「子どもはまだなの? それともできないの? いまどき、こんなこと聞いちゃダメかしら?」

悪気はないのかもしれませんが、プライバシーへの干渉が激しく、佳織さんは参ってしまいました。

「もうイヤ……東京に帰りたい」

憔悴して涙する佳織さんを見て、これはもう限界だと、勇人さんも悟りました。

不動産会社に仲介を依頼し、1年半ほど暮らした夢のマイホームを売却することに。購入時に支払った金額(3,200万円)こそ下回ったものの、きれいにリフォームしてあったことも功を奏したようで、2,700万円ほどで売却できたそうです。

そのため、荒井夫妻の出費は頭金の500万円と1年半分の住宅ローン約150万円、計650万円です。東京のマンションに暮らしていた場合は25万円×18ヵ月で450万円の家賃がかかっていたため、実質200万円ほどの損。高い勉強代となりました。

「都内マンション」「郊外戸建」以外の選択肢

株式会社不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向」によると、2025年10月時点での新築分譲マンションの平均価格は、東京23区では約1億5,313万円と、過去2番目に高い水準となりました。同年11月には、約1億2,420万円と下がりましたが、依然として、ファミリー層には手が届きにくい高値状態が続いています。

もっとも同調査によると、埼玉県は約6,947万円、神奈川県は約6,230万円、千葉県は約5,727万円と、いずれも上昇傾向ではあるものの、東京都ほどの水準には達していないことから、価格を押し上げているのは東京23区だという見方もできそうです。

「都内マンションは高いから郊外の築古戸建」ではなく、物件探しの条件を緩めるだけで、予算と利便性のバランスがとれた物件に出会える可能性が高まります。

荒井夫妻の「その後」

自宅の売却が決まり、都内の賃貸マンションに引っ越した荒井夫妻。家賃は以前の25万円から約18万円に抑えました。

また、佳織さんは自分のせいだと反省し、パート勤務から派遣社員となり収入を増やしています。世帯年収は、約1,250万円(夫1,000万円、妻250万円)となりました。佳織さんは勇人さんの扶養から外れたものの、夫婦の月の手取りは約76万円と、8万円ほど増加。増えたうちの一部で積立NISAをはじめるなど、資産形成に励んでいます。

資産形成の観点では、無理に住み続けてストレスを抱えるより、損失を確定させてから改めて、NISAやiDeCoなどで金融資産を積み上げる選択肢が有効です。荒井夫妻は決断が早かったため、家計を立て直すことは難しくないでしょう。

暮らしと家計を守るために大切な視点

持ち家は資産になり得る一方、立地や環境、時間軸を見誤ると「固定化された負担」になります。

家を購入したものの、家族構成の変化や収入減、住環境のミスマッチなど、想定外の事情で手放すケースはあるでしょう。ただし、無理な住宅ローンやストレスを我慢し続けるよりも、早期に損失を確定させて家計を立て直すことは、決して悪いことではありません。

住まいは人生を縛るものではなく、暮らしを支える手段のひとつです。正解は人それぞれですが、もしも引き返したいと思ったときは、今後の暮らしや環境、そして必要なお金を冷静に見極めたうえで、早めの軌道修正を検討してみてはいかがでしょうか。

石川 亜希子
CFP