映画で話題の「コンクラーベ」“密室”で何が?新教皇とは?「レオ14世を名乗ったことに大きな意味がある」専門家が解説

今年度アカデミー賞に8部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した『教皇選挙・コンクラーベ』(現在公開中・5月11日時点)が話題となる中、映画の世界で描かれた教皇選挙が、5月7日に12年ぶりに行われた。いったいコンクラーベとは何なのか、専門家が解説した。
同作は、キリスト教・カトリック信者の最高指導者となるローマ教皇を選出する様子を、投票権を持つ100名を超える枢機卿(スウキキョウ)たちの様々な人間模様で描いた作品だ。
5月8日、世界が固唾を飲んで見守るなか「コンクラーベ」開始から2日、4回目の投票で新しいローマ教皇が選出。教皇名は「レオ14世」と決まった。
教皇選挙「コンクラーベ」の舞台は、カトリックの総本山、バチカンにあるシスティーナ礼拝堂だ。
現地で取材していた日本大学 国際関係学部 松本佐保教授は「多くの方が決まるのは3日目の金曜日なのではないかとおっしゃっていて、2日目だったとしても、一番最後(5回目)の投票なんじゃないかと。(午後の)1回目の投票の時間が終わっているので、『決まらなかったんだ…』と皆さん思っていて。そうしたら急に煙が出始めて何かみんなが『え〜』みたいな感じで大騒ぎになって」と語る。
松本教授は「ローマ教皇とバチカン」についてのムック本を監修するなど宗教と国際政治の関係に詳しい専門家だ。
「イタリア人のパロリンさんという有力候補、(前教皇)フランシスコさんの時代のナンバー2がなったんじゃないかと皆思っていて。そうしたら、全く違う人の名前が呼ばれて。『誰それ?』みたいな感じで」
「でっかいモニターに煙突がずっとフォーカスされていた。そこにカモメが現れて、その後そのカモメのヒナが来た。やっぱり待っていると退屈してくる。そうすると、カモメのヒナに注目してホッコリなっていたら、急に煙が出始めて大騒ぎになった」(松本教授)
この世界が注目した「コンクラーベ」は、前任の266代・フランシスコ教皇が2025年4月21日に88歳で死去したことに伴い行われた、次の教皇を決める選挙。教皇の任期はなく原則、死去しない限り行われない(※過去に一度、高齢を理由とした辞職はあり)。選挙は、教皇の死後20日以内に行われる。
「よく言われるのは『神の代理人』。人間味はもちろん人間だからあるけど、神に最も近い人間。カトリック教会ではそういう位置づけになっている」(松本教授)
神の代理人を決める「コンクラーベ」は、ラテン語で直訳すると「鍵と共に(秘密の場所)」と解釈されている。そのため、投票は徹底した秘密裏に行われる。召集されたのは80歳以下の「枢機卿」133人。彼らは、スマホなど通信機器は没収され、外部と完全に隔離された環境で投票を行う。
この謎に満ちた選挙は、キリスト教に詳しくない人にとってはさらに謎だ。しかしながら、なぜこれほど盛り上がっているのだろうか。
神父の大西勇史氏は「教皇は私たち信者にとっていてくれることがとても大切。それは象徴と言ってもいいかもしれない。亡くなられていなくなったということはもう大事件。逆に言うと、また新しく選ばれたということは、またいてくれるという状態が始まったということで、すごく喜ばしい」と語った。
そんな大切な教皇を選ぶコンクラーベについて、大西神父は「適切な例えかわかりませんが、例えば世界中にキャンパスを持つ規模の大きいカトリック学園があったとして、それの総生徒会長を決めるみたいな。各キャンパスに生徒会長はいるが、バチカンの本校で各校の生徒会長が全員集まって、部屋に鍵をかけて総生徒会長を決める会議。コンクラーベと私たちの距離感というと、我々は日本キャンパスで良い方が選ばれますようにと祈りながら見守っているという感じ」と説明した。
ローマ・カトリック教会組織の階層は順に「教皇」「枢機卿」「大司教」「司教」「司祭」「一般信徒」となる。そして教皇選挙は、バチカンの国家元首を選ぶ選挙でもある。
システィーナ礼拝堂の一室に集まった133人の枢機卿たちの投票により、3分の2の票が集まれば教皇決定となるが、票数が満たない場合は何度でもやり直す。決定するまで枢機卿たちは、システィーナ礼拝堂から出ることはできない。そして、決まらないと黒い煙が上がり、決まると白い煙で知らせるのが伝統だ。
「キリスト教」には「カトリック」と「プロテスタント」があるが、歴史も考え方も異なる。カトリックはローマ・カトリック教会を指す言葉で、信者は世界におよそ14億人。プロテスタントはおよそ5億人とされている。カトリックの教会にはマリア像などがあるが、プロテスタントは聖書絶対主義のため偶像崇拝はしない。
また、カトリックには最高指導者がいるが、プロテスタントにはいない。聖職者の呼称も、カトリックは「司祭(神父)」、プロテスタントは「牧師」だ。その聖職者の条件にも、大きな違いがあるという。
カトリックの聖職者は結婚が許されておらず、結婚することができ、女性でも聖職者になれるプロテスタントとは異なる。「生涯独身。そこは鉄の掟なので」(大西神父)
そんなカトリック教徒14億人を導く最高指導者、ローマ教皇は、これまで2度来日。1981年にはヨハネ・パウロ2世が、2019年にはフランシスコが広島や長崎を訪れたあと東京ドームでミサを行い5万人が参加した。その発言は大きなニュースになるほどの影響力を誇る。
では今回、第267代ローマ教皇となったレオ14世は世界にどんな影響を与えるのか。松本教授によると「レオ14世」を名乗ったことに大きな意味があるという。
「19世紀後半にレオ13世という教皇がいて、この人がものすごく重要人物。どういう意味で重要かというと、階級闘争ではなくて階級協調」(松本教授)
労働者階級による革命を目指したマルクス主義が台頭した時代、レオ13世は闘争よりも協調を説いた。「(レオ13世は)資本家に対して、一生懸命働く労働者たちから搾取しないで『慈悲をもって接しなさい』と、それは社会的責任なのだと、キリスト教徒としてのやるべきことだと。貧しい人に寄り添うという考え方が近代的な理念として出てきた。レオ14世を名乗ることは『僕はレオ13世をお手本にしている』という意味」(松本教授)
そして、分断の象徴といわれるトランプ大統領が、レオ14世の就任に対し、「お会いするのを楽しみにしている」と発言。長い歴史の教皇の座に、アメリカ出身の枢機卿が就任するのは初めてだ。
この就任に対し、政治ジャーナリストの青山和弘氏は「分断を拒むキリスト教徒がとった選択だ」とコメント。多様性やマイノリティー、女性の人権など世界が求める変化に14億人のトップはどう対応していくのか。
「世の中と乖離した部分があるので、改革派はより世の中にシフトしていこうとする、また聖書という聖典があるから、その整合性をバランス取りながらやっていくので、非常に時間がかかってしまう。でも確実に何とか時代に良いように進んでいるというのが現実で、人々の救いというのが本質であるのは間違いない」(大西神父)
(『ABEMA的ニュースショー』より)