多くの人がじつは知らない「定年前後の転職活動」にみられる「決定的な特徴」
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。
10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。
縁故、ハローワーク、求人広告など入職経路は多様
中高年の転職市場は厳しい。こうしたなか、ある人は長く勤めてきた企業を離れて短時間就労などで働き方を変えながら、またある人はこれまでの延長線上での働き方を模索しながら、人は定年後も働き続ける選択をしている。
続いて確認していくのは、定年前後に転職をする際にどこから自身の就職先を見つけてくるのかという点である。
厚生労働省「雇用動向調査」から転職者の入職経路を捉えたデータをみると、現役時代と定年後では職の探し方もいくつか異なる傾向が見て取れる(図表1-21)。
まず一目見て気づくのは、定年後、特に60代前半の人については、前の会社からの縁故によって就職が決まるケースが多いということである。
これには同じ会社で再雇用されるケースが多く含まれている。先述の通り、現在では高齢法の定めによって、企業は65歳までの継続雇用制度の導入を義務付けられている。雇用動向調査では、定年を機に雇用契約を見直して、同じ職場に再雇用になるケースも、その会社を離職して直後にその会社に入社したものとしてカウントする。このため、60代前半の22.8%、60代後半の12.9%のなかには同一会社への再就職が多数含まれているものと考えられる。
このデータからは、この数値のうちどこまでが再雇用による同じ会社への入職で、どこまでが前の会社の斡旋による他企業への再就職なのかは明らかでないが、おそらくは前の会社から斡旋されてほかの会社に就職するというケースはそう多くないのではないか。
もちろん、定年後の異なる会社への転職に、長く勤めた会社が大きな役割を果たす業種もある。特に、官公庁による就職先の斡旋(いわゆる天下り)や金融機関による関係会社への出向は広く知られており、こうした形で再就職先を見つける人も少なからず存在する。しかし、こうしたケースは全体から見れば少数であり、実際にはそれ以外の選択肢で転職先を見つけることが大半である。
前の会社から紹介を受けて転職をする人は、転職者のなかであくまでも一部の人であり、このような形を除けば職探しの手段はほかの年齢層とそこまで大きくは変わらない。
中高年者の転職に関しては、再雇用を分母から除けば、ほかの年齢層と比較してハローワークを通じて仕事を見つける人が比較的多い。そのほかも、求人情報誌やインターネットの求人情報サイトを見て新しい仕事に応募するといった「広告」による経路や、知人や友人に紹介してもらうというケースも多い。
定年前後の就業者の転職活動の大きな特徴としてあげられるのは、民間職業紹介所経由の転職が少ないということである。民間職業紹介所経由の転職は、50代後半で2.3%、60代前半で1・1%となっており、20代後半の8.0%や30代前半の8.1%などと比べて著しく少なくなっている。
中高年者の転職活動に民間職業紹介所が必要な役割を果たせていないのは、当然それがビジネスになりにくいからである。中高年者の転職は、先述のように受け入れ企業の姿勢や求職者の意識に課題があるケースが多く見受けられ、就職先の決定までに多くの時間を要する。また、決定しても30代や40代のような高額な報酬は望みにくく、どうしてもビジネス効率が悪くなってしまう。このため、結果としてマーケット自体がうまく機能しておらず、転職市場全体を通じた大きな課題となっている。
中高年の転職市場の活性化が大きな課題となっているが、ここ数年単位でみてもその状況が少しずつ変わりつつあることは見逃せない事実である。特に、中小企業や地方に拠点を抱える企業、人手不足が深刻な業界などを中心に、中高年の採用意欲が増しており、これまでにない良い待遇で転職できる人も増えているのである。
一部の企業では若手の採用が困難になっていることから、年齢にかかわらず活躍してくれる社員を採用したいという気運が急速に高まっている。名のある大企業への転職だけに絞ってしまうと依然として難しさがあるものの、優秀な人材であればその間口は確実に広がりつつある。
新卒市場で求職者からの人気が高い大企業などはこれからも中高年の積極的な採用は難しいと考えられるが、人手不足に悩む企業を中心として、将来的には中高年採用のすそ野はより広がっていくことが期待される。
つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。