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人が亡くなったら必ず発生する相続。まずは相続財産がどれほどあるのか、確認することが第一歩となります。そのために、久々に実家に訪れて遺品を整理、ということも。さらに思わぬ発見で仰天することも、よくある話のようです。本記事では、相続のスケジュールと遺品整理で出てきた財産について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

お嬢様から普通の主婦に

Aさん(44歳)は、パート勤めをする主婦です。サラリーマンの夫(50歳)と姑、そして中学生になる娘と4人で10年前に購入した分譲住宅に住んでいます。大学の文学部を定年退職した教授の一人娘でしたが、恋愛結婚で実家とは離れた場所に嫁いでいます。

母親はAさんが結婚したあと間もなく他界しており、実家には父親(75歳)が1人で住んでいましたが、今年に入ってこの父親も突然亡くなってしまいました。Aさんの祖父という人は田舎の地主でしたし、父親も大学教授でしたから、嫁ぐまでは裕福な暮らしをしていたAさんでした。しかし、現在は新型コロナ以降収入がダウンしてしまったご主人のことや子どもの進学のこと、姑の健康状態や住宅ローンのことなどで頭を痛める普通の主婦となっています。

相続のスケジュール

相続や相続税の納付には、次のようなスケジュールが決まっています。

3ヵ月以内にやるべきこと:単純承認・限定承認・相続放棄を選択

遺産を相続する場合、いくつかの選択肢があります。

〇無制限・無条件でそのまますべての財産を相続する「単純承認」

→債務(借金やローンなどマイナスの財産)などもそのまま引き継いでしまいますので、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きくなった場合は大変です。債務状態はしっかり調べるようにしましょう。


〇債務があった場合、相続したプラスの財産の範囲で負債(借金やローンなどマイナスの財産)を請け負う「限定承認」

→プラスの財産を限度としてマイナスの財産を相続するので、結果的にプラスマイナスゼロになります。これにより、手放したくない自宅や財産を残すことができます。


〇亡くなられた方のすべての財産を一切引き継がない「相続放棄」

限定承認や相続放棄は家庭裁判所に申述が必要になります。なお、相続財産の一部もしくは全部を使ってしまったり隠したりすると、「単純承認」とみなされ、「限定承認」や「相続放棄」は選択できなくなってしまいます。早めに故人の負債調査を行い、適した選択決定をしましょう。

10ヵ月以内にやるべきこと:相続税の申告

相続税の申告は相続開始の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。遺産分割や財産の確定にはけっこうな手間と時間がかかりますので、早くから進めていくことが必要です。相続税の延納や物納を行う場合は、別途申請が必要になります。

その他:遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続人全員で相続財産の分割方法や割合について話し合いをすることです。遺言書がない場合など遺産を相談してわける必要が生じた場合に行います。協議の結果は、「遺産分割協議書」を作成することで文書として残します。

実は、遺産分割協議に期限は決められていません。ですが、相続税の申告には10ヵ月という期限があることから、さほどのんびりもしていられるものでもありません。遺産の分割について、話し合いがつかない場合は家庭裁判所で調停による分割または審判による分割となります。

あれ、これだけなの?

49日の法要も無事に終えたあと、Aさんは相続財産の調査に入りました。相続人はAさんだけだったことと遺言書もなかったことで、相続トラブルなどはありませんでした。しかしひとつ気がかりが。相続財産が思ったよりも少ないのです。田舎とはいえ祖父から引き継いだ土地や有価証券などがあったはずですが、父はいつの間にかすべてを売却しており、複数の銀行口座にわたる金融資産は合計で3,000万円ほどになっていました。父の年金額は月額約25万円。私生活に度を越してお金がかかっているイメージもなかったため、もう少し残っていてもよさそうです。

Aさんにはほかに父親の住んでいた実家と死亡保険金2,000万円の受け取りがあり、相続税の申告が必要です。5,000万円という現金は、相続税の納付のほかに毎日の生活に頭を痛めるAさんにとって非常に救いですが、土地や有価証券の売却後のお金のゆくえが気になります。売却してくれていたことで、不動産や有価証券などの相続の面倒な手続きはなくなりましたが、心にはモヤモヤが残ります。

父が持っていた大量の本を調査

Aさんの父親は大変真面目な人で、ギャンブルなどには興味がなく、母親が亡くなったあとも女性の影はありませんでした。定年退職後は、本に囲まれた書斎で、いつも一人で読書をしている印象しかない物静かな人柄でした。そんな父親を思い出しながらAさんはあることに気づきます。

父親は大量の古書を含む文学書を抱えており、財産価値が高いものもあるかもしれない、と思ったのです。絶版本や初版本などは高額のものもあるといいます。「土地や有価証券を売却したお金の一部が高額な文学書に化けたのかもしれない……。そうなると、すべての書籍に対してもきちんとした財産の評価が必要になるな」と思ったAさんは、実家の父の書斎へと向かいました。

父親の書斎は玄関横の階段を数段上がった所にあり、天井まで作られた本棚は父の愛した文学書で埋め尽くされていました。久しぶりに入った書斎はやはり本の数が増えているようにも感じました。無造作に床に置かれた段ボールの中にも本が詰め込まれており、中を検めた際、ふと床下に小さな収納部屋があることをAさんは思い出します。

「そういえば子どものころにかくれんぼでここに隠れて出られなくなっちゃって、ものすごく怒られたことがあるわ。この部屋なに?と母に聞いたような……。あれ、結局あそこの部屋はなんだったんだっけ?」収納部屋の中にも本があるかもしれないと、調べてみることに。薄暗い地下へ続く階段はなんだか不気味です。恐る恐る収納部屋に降りていくと、「うわあ」とAさんは思わず声を漏らしました。

やはり本は山積み、複数の段ボールもありました。あまり掃除されていなかったのか、天井には蜘蛛の巣、埃も溜まっています。段ボールを一つひとつ開封していくと、本や教授時代の資料が入っていましたが、ただ1つの段ボールには違ったものが詰め込まれていました。

段ボールの中身

そこには大量の現金(4,372万円)が入っていたのです。Aさんは腰が抜けるほど驚き、とりあえずはいったんそのままに、その日はそそくさと自宅へ帰宅。その後数日間はドキドキと、「あのお金をどうしたものか? 見つけたことを黙っていようか?」と悪魔のささやきも聞こえてきました。しかし、よけいにモヤモヤした気持ちが増幅し、とうとう体調まで悪くなってきてしまいます。いろいろと悩んだAさんですが、最終的には尊敬していた父親に恥じない決断をすることに。

「父は真面目な人だったので、脱税などの目的で現金を保管していたのではない、と思います。土地や有価証券を売却したのも『自分は投資には向かない』、と判断したからではないでしょうか。銀行に預けてもほとんど利息もつきませんし、勧誘なども嫌っていましたから、この二十数年という期間になんとなく家に現金が貯まっていったのかもしれません。真面目な父が残してくれた大事なお金です。きちんと申告してよかったと思っています」Aさんは遺産整理を終えて晴れやかな表情をしていました。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表