カポジ肉腫

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監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

カポジ肉腫の概要

カポジ肉腫は、HHV-8(ヒトヘルペスウイルス8型)の感染で発生する悪性腫瘍です。ただしHHV-8に感染している人(陽性)すべてに発症リスクが高いわけではなく、発症するのは主に、免疫力が低下した高齢者、乳幼児、あるいは免疫不全をおこしている人などです。

腫瘍が発生する部位は皮膚や口腔粘膜、リンパ節、消化管などで、特に皮膚に多く、四肢やお腹、背中、顔面などに数mm~数cmの紫色や黒褐色の皮疹が出現します。
皮膚疹は進行とともに増大して膨隆し、出血しやすくなったり、強い痛みを伴ったりします。
喉頭部や肺に発症した場合は注意が必要で、呼吸不全を起こして命の危険にさらされる可能性もあります。

カポジ肉腫は発症パターンによって4つの型に分類されます。

東ヨーロッパやユダヤ人の高齢者に多い「古典型」は、主に下肢の皮膚に皮疹が起こり、他の部位に転移したり死亡したりするケースはまれです。

​​アフリカの若者などに起こる「地方病型」は、小児ではリンパ節に発症して重症化することがありますが、成人では古典型と同様に皮膚の症状のみにとどまることが大半です。

日本国内での発症例の大半を占めるのは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症によって起こる「AIDS関連型」と、がん治療や臓器移植などの免疫抑制剤投与後に起こる「医療病型」です。

「AIDS関連型」は他の型より進行が早いのが特徴で、複数の皮膚や口腔粘膜、消化管、リンパ節に腫瘍が発生し、消化管では出血を伴って便に血が混じることもあります。
国内のAIDS患者の約5%に発症が見られ、カポジ肉腫がAIDSの初発症状になるケースもあります。

「医療病型」では、臓器移植による治療後に数年を経てから発症し、重症化するケースも報告されています。

(出典:あたらしい皮膚科学第3版「Kaposi肉腫」)

カポジ肉腫の原因

カポジ肉腫の発症原因はHHV-8への感染です。

ただし、HHV-8は他のヒトヘルペスウイルスと同様に、健康な人がウイルスに感染しても、免疫系が感染を抑制するため、通常は何の兆候も症状も現れません。
免疫低下や免疫不全をきっかけとして、体内に潜伏していたHHV-8が活性化することで、カポジ肉腫を発症するものと考えられています。

カポジ肉腫の前兆や初期症状について

カポジ肉腫の初期症状は下肢の皮疹です。
紫色や黒褐色の皮疹が多発し、両腕やお腹、背中、顔面、口腔粘膜にも広がります。
皮疹は時間が経つにつれて硬く盛り上がり、リンパ浮腫をきたして強い痛みも見られるようになります。
さらに進行すると消化管やリンパ節、肺に広がり、さまざまな臓器症状をきたします。

カポジ肉腫の検査・診断

カポジ肉腫の確定診断は生検組織診断によっておこなわれます。
全身の病変を確かめるために、胸部CT検査やシンチグラフィー、PET検査もおこないます。

生検組織診断

皮膚や消化管などの病変部位から組織を採取し、顕微鏡で特異的な所見が認められればカポジ肉腫の確定診断となります。

胸部CT検査

胸部CT検査は、主に肺の病変を確かめるときに用いる検査です。気管支の肥厚やリンパ節の腫脹、胸水が確認できるケースもあります。

シンチグラフィー

シンチグラフィは、がん細胞に集まる性質を持つ放射性医薬品を用い、取り込まれた部位から放出されるガンマ線を専用のカメラで撮影する検査です。
薬剤の分布からカポジ肉腫が発生している部位が確認できます。

PET検査

PET検査はブドウ糖に似た製剤を投与した後にCTなどで全身画像を取る検査で、がん細胞の活動を把握できます。
シンチグラフィーよりも高い感度で、リンパ節や全身の臓器に広がる病変を診断できます。

カポジ肉腫の治療

AIDS関連型カポジ肉腫の治療では抗HIV療法や化学療法、放射線療法をおこないます。
ここでは日本国内で発症例の多い、AIDS関連型のカポジ肉腫の治療法を紹介します。

抗HIV療法

抗HIV療法は主にHIV感染症に用いられる治療法で、免疫機能を回復させることにより、カポジ肉腫を改善できる効果も認められています。
抗HIV療法だけで進行を抑えられない場合では、化学療法を併用します。
治療開始後の3ヶ月以内に、カポジ肉腫を増悪させる免疫再構築症候群が発症することもあるため、経過を見ながら治療を進めていく必要があります。

化学療法

化学療法は主に抗がん剤でおこないます。抗HIV療法で進行を抑えられないケースや重症例において選択されます。

放射線療法

放射線療法はX線やガンマ線などの放射線を当てて腫瘍を小さくする治療です。
カポジ肉腫では、全身状態が不良な例に用いられることが多く、リンパ浮腫を伴う病変でも改善できる可能性があります。

カポジ肉腫になりやすい人・予防の方法

カポジ肉腫の原因であるHHV-8の感染については、まだ解明されていない部分も多いです。しかし、日本国内でのHHV-8感染率はそれほど高くなく、また仮に感染したとしても通常はまったくの無症状です。

日本国内におけるカポジ肉腫患者は、がん治療や臓器移植において免疫抑制剤を使用したことや、HIV感染症などにより著しく免疫力が低下したことがきっかけとなっているケースが大半です。

AIDS関連型のカポジ肉腫は、日本国内ではその多くが男性であると報告されていますが、女性に発症が見られないわけではありません。

したがって、カポジ肉腫を予防するには、HIVウイルスの感染予防がもっとも重要といえるでしょう。

不特定多数の人との性行為は避ける、性行為をするときはオーラルセックスを含め、必ずコンドームを装着するなど、感染を防ぐ意識が大切です。
HIV感染が疑われる場合は、すみやかに検査や治療を受けるようにしましょう。HIV感染症(エイズ)の早期治療により、免疫低下を防ぐことができれば、カポジ肉腫の発症リスクを下げることができます。


関連する病気

急性HIV感染症

悪性リンパ腫

中枢神経系原発悪性リンパ腫

HIV関連キャッスルマン病

HIV感染血小板減少性紫斑病

参考文献

The Journal of AIDS Researchエイズに合併するカポジ肉腫などのHHV-8 関連疾患に対する治療の手引き

The Journal of AIDS ResearchAIDS関連悪性疾患とHuman herpesvirus-8AIDS-Related Malignancies and Human Herpesvirus-8

あたらしい皮膚科学第3版2.Kaposi肉腫

日本医療研究開発機構エイズ対策実用化研究事業カポジ肉腫

国立研究開発法人エイズ治療・研究開発センター日和見疾患の診断・治療