櫻坂46「本質的なこと」MVより

写真拡大

 櫻坂46が10月23日に10thシングル『I want tomorrow to come』をリリースした。櫻坂46が新たな表現に挑戦した表題曲「I want tomorrow to come」をはじめ、村井優がセンターを務めたBACKS曲「僕は僕を好きになれない」、EDM調の「今さらSuddenly」など、今作も良曲が揃っているが、中でも注目したいのは遠藤理子センターの三期生楽曲「本質的なこと」だ。

(関連:【動画あり】メイド服姿も印象的な櫻坂46「本質的なこと」MV

 「本質的なこと」は、乃木坂46の「踏んでしまった」で作曲を手がけるyossと乃木坂46の「Monopoly」(編曲で参加)、櫻坂46の「イザベルについて」(杉山勝彦との共作曲)など多数の楽曲を手がけている尾上榛による共作曲、櫻坂46の「偶然の答え」、日向坂46の「月と星が踊るMidnight」の編曲を担当しているTomoLowが編曲を担当。表題曲「I want tomorrow to come」とは打って変わって、どこか切なさを感じさせるメロディアスな曲となっており、ストリングスもピアノも楽器の一つひとつが美しい。全体的に哀愁のあるトーンにあっているが、特にアウトロに至っては独特なコード進行もあって、まるで小説を読み終わった後の心地よい読後感がある。そんな楽曲の世界観を拡大しているのがMVである。

 監督を務めたのは櫻坂46の「桜月」「僕のジレンマ」でも知られる金野恵利香。CMディレクターを務める彼女は過去に『第19 回アジア太平洋広告祭(ADFEST)』最優秀賞、『ADFEST』FILM CRAFT部門 silver、『D&AD』Yellow Pencilなど多数の賞を受賞している。数多くのCMを手がける金野だが、そのセンスは櫻坂46の映像表現にも表れており、前述の2曲では楽曲の主人公となるセンターの個性に寄り添いながら、金野の女性ならではの優しいタッチで描く。「桜月」「僕のジレンマ」では、それぞれセンターを務めた守屋麗奈、渡邉理佐のために作られた小さな物語にもなっており、彼女たちが抱える悩みや葛藤が映像の中からも伝わってくる。

 今回の「本質的なこと」はゴシックな世界観の中、メイド服のような衣装を着てパフォーマンスをする前半とゴージャスなドレスを身にまとって華やかにパフォーマンスをする後半のパートに分かれている。メイド服は現在ではかわいいコスチュームとして重宝されているが、もとを辿れば19世紀末のイギリスにおいて家事使用人やハウスキーパーなどが着ていたもの。それに対してドレスは華やかな貴族たちが着る正装であり、ここでは対照的に描かれていると言えるだろう。

 前半、廊下を歩く遠藤に対して一切見向きもしない他のメンバーたち。そこにドレスを着たもう一人の遠藤がメイド服を着た遠藤を押しのけて、今度はドレスを着たメンバーたちがダンスを踊り始める。終盤では前半で見向きもしなかった他のメンバーたちが遠藤に視線を向けるカットが差し込まれている。この隠喩に象徴されるのは遠藤自身の成長なのではないかと筆者は考えている。遠藤も最初はどこにでもいる一人の女の子だった。そして、今アイドルとしてきらびやかな衣装を着てステージに立ち、どんなに外見を見繕おうとも、本質はいつだって内面にある。遠藤の内面の変化をメイド服とドレスという記号を用いて表現しているように感じるのだ。優しいタッチの中で、しっかりとメッセージを持たせるのは実に金野らしい。

 MVで表現される遠藤の表現力も繊細で美しい。目線や身体の動かし方に至るまで、しなやかでいて迫力に満ちている。かつて、ダンスへの苦手意識があった遠藤だが、『7th Single BACKS LIVE!!』から参加した『BACKS LIVE!!』の経験を経て、パフォーマンスも見違えるように成長。映像からはその自信が表情に表れているように見えた。櫻坂46の三期生にはそれぞれ魅力があるが、遠藤の魅力は人を惹きつける表情だろう。特にMVで見せるアンニュイな表情からクールな表情まで多彩な顔から目が離せなくなる。陳腐な表現ではあるが、フォトジェニックならぬムービージェニックなアイドルだと今回のMVを通して感じた。

 「本質的なこと」の初披露は、おそらく11月23日と24日に開催される『4th YEAR ANNIVERSARY LIVE』となるのではないかと予想されている。そこで私たちは遠藤の魅力を再確認することになるだろう。

(文=川崎龍也)