明るい彗星候補「ATLAS彗星(C/2024 S1)」の消滅を確認

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2024年9月末、発見されたばかりの彗星「ATLAS彗星(C/2024 S1)」に注目が集まりました。過去に明るい彗星となったものをいくつも含んでいる「クロイツ群」の仲間であると考えられ、楽観的な予測ではマイナス5等級からマイナス7等級と、金星よりも明るくなる可能性が考えられてきました。


しかし残念ながら、その夢は儚く散ってしまったようです。太陽に最接近する様子を撮影した太陽観測機「SOHO」は、ATLAS彗星が完全に蒸発・消滅する様子を撮影しました。この出来事は、彗星の明るさ予測がいかに難しいかを示す一例として記録されるかもしれません。


【▲ 図1: 太陽観測機「SOHO」のLASCO C2カメラによる、世界時2024年10月28日3時2分から同日10時0分までの撮影データ。画像下側から現れたATLAS彗星が、9時頃までに消滅する様子が撮影されています。(Credit: ESA & NASA)】

ある意味ではリベンジ?ATLAS彗星の発見

夜空に長い尾を引く「彗星」は、肉眼で容易に観察できるほど明るくなることは稀であるため、明るい彗星の予測はしばしば注目されます。直近では「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」が明るい彗星となり、注目を集めました。


一方で、日本で容易に観察可能になると予測された2024年10月下旬は全国的に天候が悪化し、悪条件の中でも撮影できたとする声もあれば、観察できなかったと嘆く声もありました。筆者も観測機会を逃してしまった側の1人です。


ハワイのマウナケア山で撮影された紫金山・アトラス彗星 日本で見られるのはいつ頃?(2024年10月11日)ハワイで撮影された紫金山・アトラス彗星 10月20日頃まで観察・撮影の好機(2024年10月19日)
【▲ 図2: 発見直後である2024年9月28日に、ディープ・ランダム・サーベイの0.43m望遠鏡で撮影されたATLAS彗星。(Credit: Deep Random Survey)】

そういった中で注目を集めたのが、2024年9月27日に「小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)」によって発見された「ATLAS彗星(C/2024 S1)」です。まだ正式な仮符号や名前が付与されておらず、「A11bP7I」という暫定名で呼ばれていたころから注目を集めました。なぜなら、ATLAS彗星の公転軌道は、太陽に極めて接近する「クロイツ群」に属する可能性が高いと推定されたためです。


クロイツ群の代表例は、上弦の月に匹敵するマイナス11等級となった1965年の「池谷・関彗星(C/1965 S1)」です。ATLAS彗星はそこまで明るくならないと予測されていたものの、それでも楽観的な予測では、2024年10月下旬から11月上旬にかけてマイナス5等級からマイナス7等級と、金星よりも明るくなると予測されていました。これは紫金山・ATLAS彗星のマイナス4.8等級よりずっと明るい値です。


新たな明るい彗星候補「ATLAS彗星(C/2024 S1)」(A11bP7I)を発見(2024年10月9日)

なお、彗星の名前は、それを発見した人物・団体・システムが最大で3人まで自動的に割り当てられます。ATLAS彗星(C/2024 S1)と紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)は名前が似ていますが、同じシステムで発見されたこと以外は無関係の天体です。また「ATLAS彗星」という名前はこれまでに82個の彗星(※1)に割り当てられていますし、今後も割り当てられることがあるはずです。混同を避けるため、仮符号の併記や、そもそも名前で呼ばないケースもしばしば見られます。


※1…C/2019 Y4のような分裂核を数えず。


名前が似ているだけの他人の空似、全く別の存在とは言え、紫金山・ATLAS彗星のリベンジとしてATLAS彗星に期待していた人もいたでしょう。


夢は夢幻に

しかし残念ながら、その夢は儚く散ってしまったようです。


彗星が太陽に最接近する際には、欧州宇宙機関(ESA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた太陽観測機「SOHO」の視野に入ります。ATLAS彗星についても、太陽最接近の前後の様子が撮影できるため、その後の明るさの予測の大きな手がかりにもなります。


しかし、世界時2024年10月28日3時2分にSOHOのLASCO C2カメラ(※2)の視野内に入ったATLAS彗星は、その後明るさを低下させ、同日9時ごろまでには消え去ってしまいました。発見時の明るさからすると、彗星核の大きさが小さすぎたため、太陽に最接近する前に蒸発し切ってしまったと考えられます。


※2…普段は太陽コロナの変化を観察するカメラ。


彗星が蒸発して消えてしまうこと自体は珍しい出来事ではありません。しかし、注目度の高い彗星だっただけに消えてしまったことを残念がる声も多くあります。太陽への接近前に分解して暗くなってしまうと予測された紫金山・ATLAS彗星が、予測が外れて太陽最接近を生き延びたことを考えると、どこか逆説的だと思えるかもしれません。


「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」は大彗星にならないという予測が発表(2024年7月21日)

もっとも、明るい彗星がいつ出現するのかは予測が難しいため、次の天体ショーはすぐにあるかもしれません。ATLAS彗星が属するクロイツ群自体、紀元前317年に出現し分裂した彗星核を起源とし、それぞれの分裂核は数百年周期で太陽の周りを公転していると推定されています。2024年になってATLAS彗星が新たな彗星として発見されたように、他のクロイツ群の彗星が見つかる可能性はこの先もあるでしょう。


さらに言えば、彗星核が消滅するか否かの条件も、完全に解明されているとはいいがたいです。2011年に発見されたクロイツ群の1つである「ラヴジョイ彗星(C/2011 W3)」は、小さすぎて太陽への接近時に消滅すると予測されながら、実際には生き残りました。明るさの予測は引き続き困難を抱えていますが、新たな彗星に期待を寄せることは十分にできるでしょう。


 


Source


“SOHO Movie Theater”.(ESA/NASA)Brett Tingley. “Watch comet ATLAS burn up as it flies into the sun (video)”.(Space.com)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部


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Last Updated on 2024/10/31