こちらは「みずへび座(水蛇座)」の方向約20万光年先の散開星団「NGC 602」とその周辺の様子です。NGC 602は天の川銀河の衛星銀河(伴銀河)のひとつ「小マゼラン雲(Small Magellanic Cloud: SMC)」の外縁近くにある若い星団で、形成されてから200万〜300万年しか経っていないと考えられています。


【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された散開星団「NGC 602」とその周辺(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, P. Zeidler, E. Sabbi, A. Nota, M. Zamani (ESA/Webb))】

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを着色

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。


天の川銀河の外で若い褐色矮星の候補が見つかった

欧州宇宙機関(ESA)によると、アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のPeter Zeidlerさんを筆頭とする研究チームがウェッブ宇宙望遠鏡を使ってNGC 602を観測したところ、天の川銀河の外では初めて若い褐色矮星の候補が見つかりました。


褐色矮星は恒星と惑星の中間的な天体です。星の中心部で水素の核融合反応が継続するには太陽の約8%(木星の約80倍)以上の質量が必要ですが、褐色矮星の質量はそれよりも軽いので恒星と同じようには輝かず、形成時の余熱を赤外線として放射しています。


NGC 602では非常に若い小質量星の存在が「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」による観測で示されていましたが、ウェッブ宇宙望遠鏡の登場で恒星の下限を下回る質量の天体も観測できるようになりました。Zeidlerさんは今回の観測結果について、褐色矮星の質量分布(どのような質量の星がどれくらい存在するか)は恒星の質量分布の延長だとする理論とよく一致しており、「褐色矮星は恒星と同じように形成されるようですが、完全な恒星になるために十分な質量を蓄積しないだけのようです」とコメントしています。


初期宇宙の星形成を理解する助けに

誕生したばかりの宇宙にはほぼ水素とヘリウムしか存在しておらず、天文学で「金属」と総称されるより重い元素は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などを通じて生成されることで、徐々にその量が増えてきたと考えられています。


NGC 602の局所環境は金属量が少なく、同じように金属量が少なかった初期の宇宙と非常に似ているといいます。研究に参加したジェミニ天文台/スチュワード天文台/STScIのElena Sabbiさんは「NGC 602で新たに発見された金属に乏しく若い褐色矮星を研究することで、初期宇宙の厳しい環境下でどのように星や惑星が形成されたかの秘密に迫っています」とコメントしています。


冒頭の画像はESAから2024年10月23日付で公開されています。比較的身近なところにある若い天体(といっても天文学的なスケールでの話ですが)が何十億年以上も昔の星形成を理解する助けになるところに、天文学の不思議な魅力を感じませんか?


 


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Source


ESA/Webb - Webb finds candidates for first young brown dwarfs outside the Milky Way

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


#小マゼラン雲 #散開星団 #NGC 602 #ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡


Last Updated on 2024/10/28